九十四.偽装と蟻装と草々と葬送
前世が僕にクナイを突き立ててきている。
その事実で。
見えはしないが。
自分の顔が怒りの感情に歪むのがわかる。
狸の口が裂け、牙が剥き出しになって、熱い息が漏れる。
「リント、天の王冠が、落ち……た、あ」
僕の手からこぼれた天の王冠を拾い、その手に持ったまま、僕の顔を見て、キンヒメの言葉が止まった。
そんなに僕は怖い顔をしているのだろうか。
キンヒメの表情は固まっている。
ごめん。
驚かすつもりじゃなかった。
僕は無理やりに顔を間抜け狸に戻す。
「ごめん、キンヒメ! 驚かせちゃった?」
謝りながら僕はキンヒメから王冠を受け取った。
同時にキンヒメの瞳に光が戻った。
「う、ううん。違う、違うの、リントに驚いたわけじゃないの……ただ……」
ここで言葉は止まる。
「ただ?」
「ううん、なんでもないの! それより王都を取り戻す話をしなきゃ!」
「お、おおん。そうだねえ」
僕とキンヒメを含めてこれからの対策を講じる事になった。
◇
「あれが、侵略者どもの旗印なんだな」
ロンさんが憎々しげに言う。
「そうですね。シンプルな意匠だ。過去の鳳王の記憶にもあの旗はないから新参の異世界でしょう」
ドナルド曰く、繋がりやすい異世界というのがあるらしく、二度目、三度目の異世界侵略というケースもあるらしい。しつこくない?
「敵の旗が立ったという事はあの街は敵の手に落ちたって事だな、アニキ」
いつの間にか隣に立っていたリキマル。
「う、うん」
そうなのだろうけれど。僕はそれどころではない。感情がぎゅっちゃぎゅっちゃしてる。それを外に出さないようにするだけで精一杯だ。
「すでに鳳の方で偵察を出しておるが、そこな狸の言う通り、すでにあの都は占領されておるだろうな」
さっきドナルドがペクールさんに偵察を命じていた。
その偵察の報告を待つまでもなく、僕の気配察知、「狸隠神流忍術 円索」で王都の中のマッピングは済んでいる。
その結果からすれば、王都は異世界からの侵略者に占領されている。
それはもううじゃうじゃと人間の気配が蠢いている。
気配だけでいえばまるで王都に全ての人が戻ってきたみたいな。
昨日までの王都の静けさが嘘みたいに蠢いている。どこから湧いたのか。相手が神農流忍軍であればどのようにでもやりようはあるだろう。
過去、僕がヤンデに言ったように。
あの国を滅ぼす術なんていくらでもあるのだから。
そう言っている間に。
偵察に行っていたペクールさんが戻ってきた。
「王よ、戻りました。取り急ぎご報告をさせていただきます。やはりあの街はすでに……」
とはじまったその報告は、僕の気配察知の結果と同様だった。
王都の中には人間が跋扈しているという。その数はペクールさんが過去にみたこの街の記憶よりも多く、その姿はみな一様に黒づくめで、上空から見るとそれはまるで蟻のようだったという。
黒づくめには覚えがある。
神農流の忍び装束だ。きっとそれを着ている奴らだろう。人数が増えている事に関しては、大方「神農流忍法 蟻装兵」を使っているんだろうなあ。あれは言うなれば生体兵器で、カラクリ兵の技術に連なるクローン兵器だ。個々の戦闘力は下忍にも劣るが、ただ兵の数を増やしたい場合には有効だ。
「ではまずはそれらを殲滅するか」
ペクールさんの報告を聞いたドナルドがそう言ってニヤリと笑った。
「ふむ、殲滅はいいが、いかんせん相手の数に対して我らは百名足らず、ちと時間と手間が掛からんか?」
ロンさんが、やる事自体は可能だが、労力に効果が見合ってないのでは? と難色を示し。
「俺ら狸はほぼ戦力にならんと思うます」
これまたいつの間にか僕の隣にいた、狸のリーチさんこと、僕のおやじがプルプルと怯えながら発言している。きっとダークさんの息子に興味があってそばまで寄ってきたけど、やっぱり鳳は怖い上に、なんか本格的に戦争が始まりそうで完全にビビっているのだろう。
でも実際はロンさんやおやじの言う通りだ。
僕らは数が少ない上に、そこまで精鋭揃いっていう訳でもない。
対して相手は蟻装兵とはいえ、並みの人間よりも戦闘力は高い。その敵の数は万に届かんばかり。
普通にやれば殲滅は難しいだろう。
でもドナルドはできるという。
目の前には自信満々の鳳の王が羽を大きく広げていた。
おい、カッコつけてないで。
どうやるのかを言うんだよう。
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