九十二.赤い目玉の旗印は前世からの矢印
「はあああああああああああああああああ!!??」
鳳と竜のアンサンブルが奏でるロングトーンをお楽しみいただけたでしょうか?
リントです。
ふざけてませんよ。
怒られる覚悟はバッチリです。
「ほんとうにごめんなさい」
心底反省した僕の謝罪に。
「いやいやいや! 待て待て! ごめんなさいではすまんぞ!? 魔の王笏になる固有魔法は少なくともあと百年以上は世界に現出しない! 二度目はないのだ」
ロンさんは怒ります。
「友よ、さすがにこれは我ら世界の大問題だ。普段のように笑っては済ませられんぞ?」
親友、ドナルドも怒っています。
「すまぬ! 鳳王殿に魔王殿! この失態はわらわの父がやらかした! 人間の世界の失態じゃ。リントはわらわの父とサターニア、いやユーリのために時間を与えてくれただけなのじゃ。それを無碍にしたのはあのバカな父親なのじゃ! 人の王笏になる固有魔法をヤツが持って消えた以上、全てヤツの責任。ひいては人間全ての失態じゃ! どうかリントを責めんでほしい!」
いつの間にか僕と一緒に土下座していたヤンデが顔を真っ青にしているドナルドとロンさんに弁明してくれている。ありがたい。でもね、うん、これは僕の責任だよう。
言い訳のしようもない。
だからこそキンヒメも無言で一緒にのびーんと土下寝してくれてる。
ありがとう。
そんな僕らにドナルドもロンさんも言葉を失ってしまった。
怒るに怒れない状態だろう。
現在の人間の世界、ローレライ王国の状態を鑑みるに、十中八九、人魔の王笏は侵略者側の手に落ちていると考えて間違いないだろう。つまりは侵略者がこの世界よりも上手だったという話。
負けに負けを重ねている。
そういう話だ。
「そ、そうだ! 天の王冠は? 天の王冠は無事なのか!? これは最悪失っても、朕がなれるぞ?」
ドナルドが気づく。
「馬鹿な事を言うなよ、ドナルド」
土下寝している状態の僕の声がつい低くなってしまう。
ドナルドを殺すくらいなら、僕が死ぬ。
「ぐう」
僕の怒気にドナルドは言葉を失った。
「天の王冠ならあるのじゃ。これだけはわらわがちゃんと保管してあった。逃げる時もこれだけは持って逃げたのじゃ」
土下座から体を起こして、ヤンデが懐から小ぶりな王冠を取り出した。
ヤンデ、えらい。ヤンデ、有能。
あとで褒めでも殺気でもなんでも欲しがるだけあげちゃう。
「確かに、これは、天の王冠だな。朕の中にある鳳の記憶もそう認めている」
よかった。
僕のお尻からプツリと抜いた羽で作ったからダメえとか言われるのだけがやっぱり不安だったんだよねえ。
「むう、人魔の王笏を敵方に奪われたのは痛いが、ここで世界を諦めるという選択肢にはならんし……とりあえずまずはアークテート王国に現れた敵を殲滅していくしかないのう」
天の冠の無事に安堵したのか、ロンさんは前向きに考え始める。
確かにそう。
「確かに、魔王殿の言う通りだな。天の王冠は救世主であるリントが身につけるのだ」
そう言ってドナルドは確認を終えた天の王冠を僕に渡してきた。
え? 僕が持つの?
失くすよ?
そんな考えを読んだように、失くすなよ? と念を押してきて、そのまま言葉を継ぐ。
「天の王冠を救世主が持つ事によってこの世界と異世界の繋がりを閉じる方法を理解するらしいからな。リントが持つ必要があるのだ」
あ、そういう事ですか?
じゃあいただきますねえ。と受け取った。
その瞬間。
ぴきーん!
僕は世界の全知を得た!
なんて事にはならなかった。
「どうだ、何かわかったか?」
ロンさんが聞いてきた。
「んー? あんまり変わらないような? 元々世界の閉じ方は知ってるし、だからかなあ」
正直言えば、叡智ですでに『千年一年戦争物語』での異世界の割れ目を閉じる方法を僕は知っている。だからいまさら天の王冠を装備しても、知ってる事をすでに知らされた状態になってるから、何も変わらないのかもしれないなあ?
「ふむ、リントは色々と特殊であるからなあ」
ドナルドはすでに慣れっこですよ、みたいな風情で僕を見ている。
よくない、よくないよう、ドナルド。僕のイタズラになれたらダメだよう。
もっと驚いて!
「リント、リントぉ……」
むう、とドナルドを睨んでいると、横からヤンデが僕を呼ぶ。
とても寂しい声で僕を呼ぶ。
「どうしたの、ヤンデ?」
「あれを、見てくれえ……わらわたちの子供が……」
そんなヤンデの言葉と指が指し示す先。
そこはアークテート王国の王城。
いや、元、王城、と言うべきか。あの王城の一番高い部分には、大地に人が立っているモチーフが描かれた、アークテート王国の旗が常にはためいていて、こここそが人の世界の中心であると主張していた。
しかし今は違った。
そこには違う旗がはためいている。
赤い目玉のような二重丸の中心にクナイが突き立っているモチーフ。
それを見て。
ぶわりと。
僕の総毛が立つのを感じる。
きっとこの世界の誰もあれは知らないだろう。
でも、僕はこれをよく知っている。
そうか。
ようやく理解したよ。
僕が異世界に転生した理由を。
そうだな。
お前たちと敵対するためだったのか。
前世では、憎んでも、恨んでも、血が邪魔して、情が足枷になって、手も足も出なかった。
だからここに来て、逃げられて、平和になって、家族も、友も、妻も、できて、幸福だった。
幸福だったのに。
お前たちは、異世界に転生して、幸せを得た僕をまで追ってきて。
ここでもなお苦しめようってするんだな。
ここでもなお奪おうっていうんだな。
なあ、神農よう。神農流忍軍よう。
ここに来て異世界からの侵略者の正体がわかるとは。
敵は、僕の過去だった。僕の前世だった。
僕が生まれた世界、僕を受け入れなかった世界。
これが転生した僕の敵だったんだ。逃げても逃げても追ってきて僕を苦しめる。
そうかよう。
お前らがそのつもりなら僕だって。
「……やってやるよう」
言葉と共に膨れ上がった憎しみの感情に手が震え、僕は天の王冠を地に堕としてしまった。
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