九十一.狸の精鋭は唯一無二のマイノリティ
坩堝の森と、人間の世界の境界。
ドリースダンジョンから人間の世界へ伸びる誘惑小道を抜けたあたりにある名もなき草原。
そこにこの三界を守ろうとする勇士たちが集まっていた。鳳、狸、様々な魔族。その数は百に迫らんとしていた?
ん? 百? ひゃく?
「少なくなあい?」
魔族が二十名ほど、これは仕方ない。絶望海峡を越えて来なければならないのだ。竜魔族の精鋭の皆さん十名に、それに乗って来られた魔族の各種族から最強の十名。つよそう。
次に鳳、五十羽。鳳王のドナルドを筆頭にペクールさんやディーナさんもいる。みんなつよそう。
そして、残すは狸、九匹。
キュウ? って赤ちゃん狸の鳴き声みたいになっちゃったよう!
おうい、狸、少なくないかあい? 狸王国どこ行った。えっと、いるのは……我が弟、リキマル、バトルジャンキーのダンチンロウ、808狸小隊の伍長だった、リック、リーゼン、リガイ、リールの四匹に、ラクーン18GLD の頭目、コンゴウさん、あ、オヤジはちゃんといた。虎になってプルプル震えてる。その横にはなんとリケイまでいる。えらい。
「すまんな、アニキ。他の狸は完全にビビっちまった」
リキマルは二本足で立ち、僕の心無い言葉にガックリと肩を落とした。
その姿からリキマルがなんとかメンバーを集めようとした努力と苦労が察せられる。でも無理だったんだろう。だって狸だもんねえ。戦うくらいなら逃げるよねえ。
「にいちゃあん? リキマルにいちゃあんは一生懸命やったんだよう? でもさあ、みんな狸だからさあ……」
ここで止まった言葉の後には、仕方ないんだよう。と続くのだろう。リケイがここに来ているのだってリキマルの苦労をおもんばかっての事だろう。戦争ってガラじゃないもんな。
「うん、リケイ、わかってる。ごめんよう。リキマルの苦労も考えずに見ただけでモノをいっちゃったよう。リキマルごめんね。外に出たっきりで帰らない身で偉そうな事を言っちゃったよう」
心底そう思う。
僕がやりたい放題やってる間にラクーン808 を守ってくれているのは、リキマルとリケイだ。なんの事情も知らない僕があーだこーだ言っていい問題じゃない。
「すまねえ、アニキ」
なおもうつむく弟の肩を僕はガシッと抱く。
「大丈夫だよう! 僕らは強いじゃないか! 僕がいない間も、ダンチンと一緒に鍛えてたんだろう? 成果を僕に見せてくれよう」
ひたむきなリキマルの事だ。ダンチンロウと日々厳しい修行をしていたのだろう。
「……おう、毎日頑張ってたんだよ。またアニキと一緒に戦える時のためによう」
うつむくリキマルの声が震えている。
「じゃあさ、今がその時だよう! 僕と一緒に戦おう! リキマルが鍛えたみんなと一緒に戦おう! 世界を守ろう!」
リキマルの肩を叩きながら、同時にこの場の狸全員を鼓舞する。
「おおおおおお!」
僕の言葉に。
その場の狸全員から力強い声が返ってきた。
頼もしい僕の仲間たち。
リキマルと同様にこの場に狸が来ているという事がすでに奇跡みたいなものなのだ!
ありがとう。
◇
狸軍団への鼓舞が終わり、一旦、各世界のリーダー間で情報のすり合わせをする事になった。
軍勢とは少し離れた所に集まった。
そのメンバーは、鳳王ドナルド、魔王ロンさん、人王ヤンデ、これら三界の王に加えて、狸の僕とキンヒメ。
『千年一年戦争物語』に出てくる構図そのままだ。僕はその本を読んだ事はなかったけれど、叡智のスキルでその本の内容を知っている。そこには出てこない救世主の存在も叡智は知っている。人間の集合知に含まれていたのだろう。だから世界の救い方も知っている。
天の王冠がその知恵を救世主に授け。
人の王笏が空間の繋がりをその力で断ち。
魔の王笏が時間の繋がりをその力で戻す。
そのために鳳は羽になり。人と魔は笏になる。
はい!
ここで皆さんお気づきかとは思いますが!
僕はこの場にいるドナルドとロンさんにごめんなさいしないといけません。
あれだけ狸たちに偉そうな事を言ったけれど。
実は僕が一番ダメ狸なんですねえ。
なんせ世界を救う術のうち二つをなくしちゃったんだからねえ。やばいよねえ。天の冠だけは脱出時にヤンデが慌てて持って出てくれたから助かったけど、これもヤンデが持っててくれなかったら敵の手に落ちてたよねえ。
はーあぶないあぶない。
ギリギリ致命傷で済んだよう。
と言うことで。
僕は謝罪のために、地面にのびーんと広がって、いつもの謝罪ポーズを取ります。
それを見て、わかっている人は息をついて。わかっていない人は戸惑っている。
僕くらいに謝罪なれしていると、土下寝の状態で、見る事なく察せられるようになるよねえ。
もう、達人の域よ?
「えっとねえ、僕はみんなに今から謝らなきゃいけないよう」
「今度は何をやらかした、友よ?」
謝罪されなれナンバーワンのドナルドさんが口火を切ってくれた。
さすが終生の友! わかってらっしゃる!
「実は、ですね……魔の王笏と、人の王笏になる人間と一緒に消えちゃいました。ごめんなさい!」
うわー言葉にするとやばああ。
世界を救えませんって宣言と同じじゃあん。
さすがにみんな怒るよねえ……仕方ない。
さあ! 降り注げ! 罵倒の雨よ!
……って、待ってみるも。
あれ?
反応ない。
みんな無言?
ん?
どいうこと?
ちらっと。
顔を上げてみれば。
ドナルドとロンさんが、青い顔して、口をポカリと開けていた。
あ、これ怒られるよりもやばあ。と思ったその刹那。
「はあああああああああああああああ!!!!?????」
草原に三界の勇者のうち、二人の悲鳴がこだました。
ふふ、世界おわた。
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