八十九.されぬ招待さらす正体
「咆哮或る所! 我が或る!」
あー。
人間姿のロンさん、ですねえ。
僕とキンヒメはわかっているから呆れているし。ヤンデは状況がまったく飲み込めず口を開いている。
つまりは誰も反応がない。
そんな僕らに戸惑ったのか、ロンさんは砂のように細かい木屑と化した扉をピョンっと跨いでこっちに来ると、僕に耳打ちで問いかけてきた。
「咆哮と共に我は或る! の方がカッコよかったか?」
違う。そうじゃない。
「この状況下で扉を粉々に粉砕して登場するから引いてるだけですよう」
ちゃんと訂正しておこう。
じゃないと多分この人には通じない。
「ふむ! 戦時下だと言うのにやけに城内が静かだったのでな! 景気付けだ!」
うん。
通じてないなあ。
もしかして僕がドナルドにイタズラしてる時ってこんな感じか?
「リリリ、リント!? これは誰じゃ? 敵か?」
我に返ったヤンデが僕の背中にしがみつきながらロンさんを威嚇している。
威嚇はダメよう。
これでも彼は味方だからねえ。
「彼は敵じゃないよう。こちらは竜魔族のロンさん、現役の魔王さんね。あ、ロンさん、この後ろで威嚇しているのはアークテート王国の女王、ヤンデ・ローズ。威嚇しているけど殺さないでね。怖がっているだけだから」
「クハハ! わかっておる! リントよ、今日は人間の姿なんだな」
「うん、人間の国だからねえ。一応人間の姿だよう。ロンさんはこの姿は魔王決定戦で闘った時にしかみてなかったっけ?」
「うむ、そうだな。最初は鳳の姿で、次は狸で、一殺遊戯では人間姿だったな。終わった後はずっと狸姿だったし、あまり見慣れん姿ではある! こうやってしげしげ見ると夢魔族のような見た目だなあ!」
そう言って、ロンさんは豪快にガハハと笑った。
確かにハニガンの姿ってインキュバスみたいに整っているよねえ。
なんて思ってふむふむうなずいていると。
背中がツンツンと引っ張られる。
ん?
振り返るとヤンデが僕を見上げていた。
「のう、リント? この竜魔族は何を言っているのじゃ? 鳳だとか、狸だとか、リントは姿を自在に変えられるのか?」
あ。
そういえば。
ヤンデには僕が化け狸だって言ってなかった。
この際だし言っとくか。後でびっくりされても困るし。
「ヤンデには言ってなかったけど、僕は人間じゃなくて狸だよ」
「は? 何を言っておるのじゃ? リントはどこからどう見ても人間であろう?」
僕の背中から正面に回ってきて顔を覗き込んだり、頬を引っ張ったりして、チョロチョロと確認している。
そんな事で狸とバレるような変化能力じゃないんだよう。
ふむ。言葉で説明するより見せた方が早いか。
僕のあちこちを確認するために動くヤンデの顔を止めるために、顎を片手で掴んでこちらに視線を向ける。
「ヤンデ、こっち見て」
「ファアン」
変な声出てるぞ、ヤンデ。
まあいいや。
「人間の世界ではヤンデだけの秘密だよ、出来る?」
「ファアイ」
言葉になってないけど肯定だよね?
「ちょっとヤンデの両手を僕の脇に入れてくれる? そうそう、で、僕の体重を支えるみたいな感じに力入れて」
そう説明をしながら、ヤンデの手をとって、僕の脇に誘導した。
ちょっとこそばゆうい。
「なんのご褒美じゃあこれはあ!?」
脇に手を入れてあげたら、若干ヤンデの言葉と表情がヘブン気味になったけどまあいいか。
「行くよ、ちゃんと僕を見ててね」
「ファアン」
変な音しか出さないや。多分これ聞いてないねえ。
ま、良いや。変化解除っと。
ボフンと。
煙の中から狸出現。
やあ、僕だよ。
ヤンデの両手に支えられて、のびーんとしたもふもふ狸が出現だよう。
「は?」
「やあ、僕だよう」
「は、しゃべる狸じゃ。のう、狸よ、リントはどこに行ったのじゃ?」
狸に化かされた女王がそこにある。
お読み頂き、誠に有難う御座います。
少しでも楽しかった! 続きが楽しみだ! などと思って頂けましたら。
何卒、ブクマとページ下部にあります★の評価をお願いいたします。
それがモチベになり、執筆の糧となります。
皆さんの反応が欲しくて書いているので、感想、レビューなども頂けると爆上がりします。
お手数お掛けしますが、是非とも応援の程、宜しくお願いいたします。