八十八.消せないイメージダメオヤージ
僕とキンヒメから聞かされたユーリさんの顛末とガッチさんの行動を聞いて、本来のヤンデの反応は「そうか……サターニアはユーリと言う名の魔族で……そうか王笏になったのか……父を愛していたから」などと、感傷に塗れた感想になるのだろうが。
状況はそれを許さない。
なにせ、異世界からの侵略者を封じる事のできる唯一の術を、この世界は紛失したのだから。
これは絶対に告げなければならない。
もしかしたらヤンデがその行方を知ってるかもしれないしねえ。
「魔の王笏を持ってガッチさんが姿を消したんだけど、ヤンデ、どこに行ったか知らない?」
これを告げた途端にキレた。
「あッの! 馬鹿オヤジ! 放蕩でわらわの子らを苦しめるだけでなく! 直前で死を恐れたか!? ええい! 今すぐにヤツの首を切れい!」
僕ののんきな言葉とは実に対照的に苛烈な言葉。
ヤンデの赤い髪が総毛立ち、顔を真っ赤にして、歯を食いしばり、ふうふうと息が荒い。
あ、なつかしいなあ。
出った頃のヤンデだ。今はすっかりデレデレしてるけど、初めて会った時はこんな感じですぐに人の首を切ろうとしてたよねえ。こわあ。
でもおもしろなつかしい。
僕がのんきにヤンデの百面相を眺めていると。
横からキンヒメ。
「ねえ、おひいさん、待って。まだガッチさんが逃げ出したとは限らないわよ? 彼だってこの国の王族として一人で王笏になる覚悟はしていたようだったし。ねえ? リント」
うん、そうだね。
あの時点では少なくともガッチさんの覚悟は固まっていた。
ごめんごめん、これは本来僕が言う事だったねえ。ついヤンデの顔が面白くて。
ちゃんとしよう。
「そうだねえ。だからこそ僕らはガッチさんを信じてユーリさんを預けた。ガッチさんとユーリさんには二人きりの時間が必要だと思ったんだ。大丈夫だと思った。それを位にガッチさんの心は決まっていたんだよう。だからさ、きっと侵略者の手に落ちたんだと思うよう?」
ガッチさんには申し訳ないけど、あのタイミングだけはユーリさんからもらった精神感応で心を読ませてもらった。その時には確かにガッチさんは今日になればユーリさんと一つになって人魔の王笏へと姿を変えている腹積りだったんだよう。
「キンヒメさま、リント……二人が言うのであればそうなのじゃろうが……わらわにとってはアレは良い国王でも、良い父でもなかった。信じられぬ」
しょんぼりとヤンデは肩を落とす。
小さな肩が震えている。
ヤンデの中のガッチさんはただ放蕩し散財し外の女に入れ込み酒に溺れた汚いおじさんだった。と苦しげに声をこぼした。
ただ怠惰だったと。
そんな父のそんな姿をみて。
兄は見習い、ヤンデは反面教師とした、と漏れる言葉。
僕とキンヒメが、それはあえてヤンデに恨まれて王笏になるまでの道筋をつけていたんだよう。と告げた所で、やはりヤンデの中で固まってしまったイメージは覆しがたいらしい。
ま、仕方ないよね。
でも今はそんな事いってる場合じゃないんだよう。
「敵に捕まっているにせよ、自ら逃げたにせよ。今は侵略者からこの国を取り返すのが先だよ」
戦力となる騎士団も冒険者も全部敵に奪われたこの状態を覆さなきゃ。人魔の王笏を持っていて、時空の隙間を閉じられたとしても、国を侵略されている状況は変わらない。
「む、確かにリントの言う通りじゃな。すまぬ、父への嫌悪で目が曇っていた」
ヤンデの肌の色が白に戻り、瞳に冷静さが戻った。
こうなればヤンデは優秀な為政者だ。この千年一年戦争で活躍してくれるだろう。
「うん、大丈夫だよう。ヤンデは今まで一人でよく頑張った。ここからは僕とキンヒメもいるし。そのうち、更なる援軍が……」
来るよう。と、僕が言いかけたタイミングで。
後ろで咆哮が響いて、その声をかき消した。
それと同時に、その音で執務室の扉がサラサラと音もなく分解された。
僕らはその砂のようになった扉の外を見る。
そこから現れたのは。
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