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八十七.聞きたないがな親の恋バナ

 そうやって優しくしていると。

 しばらくしてヤンデは落ち着いた。


 正気に戻ってからは、チラチラとキンヒメに詫びるような視線を投げていたが、キンヒメは大丈夫といった感じで目で返していた。ユーリさんが大事にヤンデを育てていた話を聞いていたからだろうか。若干ヤンデをみるキンヒメの目が優しい。


「で、ヤンデ、そんなんになっちゃってどうしたの?」

 うわ言みたいに言っていた言葉の中で、千年一年戦争が始まっていると言っていた。

 十中八九、それがこの王都の異変に関係しているのだろうけどねえ。


「ッリント! わらわの国が! わらわたちの子供がおかしくなっておるのじゃ! 反抗期なのか? ななあ、リント教えてほしいのじゃ。のう、わらわだけではもう無理じゃあ……助けて……助けてくれえ、リントぉ」

 再びパニックに陥りかけたヤンデを宥めながら聞き出した事情はこうだった。


 初めは貴族からだった。


 貴族は普段王城で執務をおこなっている。

 ある日、一人の貴族が登城して来なくなった。

 爵位の低い貴族の中の一人が嫌々様子を見に行ったが、家にもおらず、失踪したと家令に言われ、けんもほろろに追い返されたと言って戻ってきた。遣いに行った人間はその無礼に憤慨しそうなものだったが、ただ無言で王城に戻ってきて、それだけ告げると、それ以上は何も言わなかった。

 不思議な話だったが、行方不明になった貴族も、また遣いに行ったその貴族も、等しく無能だったため、それ以上は誰も気にしなかった。


 失踪はその貴族の単なる暴走で。


 この話はこれで終わり。誰しもがそう思っていた。


 しかし、問題はその一人だけでは終わらなかった。そこを皮切りに次々と貴族が姿を消していった。初めは無能な貴族だけだったのが、徐々に有能な貴族まで姿を消しはじめ、ついには一人もいなくなった。

 はじめの内は行方不明になった貴族の家族などが押しかけてきて、混乱する王城へさらなる混乱のスパイスをふりかけたが、そんな彼らもそのうちに姿を消し、いつの間にか王城は静かになった。


 理由は言うまでもなく、誰もいなくなったから。

 文句を言う人間も、これはおかしいと騒ぐ人間も、誰も彼もがいなくなった。


 そうして。

 王城にはヤンデ一人が取り残された。


 いかに超有能なヤンデとはいえ国家の全ての運営する事など不可能であり、当然のように執務は回らず、行政は機能しなくなる。

 そうなると、当然、民衆が黙っていないだろう、と思われる。


 が、しかし。


 そうはならなかった。

 なぜなら、民衆もまた姿を消していたから。


 貴族が減っていくのと比例して。

 民衆も加速度的に姿を消していた。そうなると物流などのインフラが死滅する。行商に来た商人も王都の異様な雰囲気を察して引き返すか、もしくは、無理に滞在しているうちに数日で姿を消す。

 市井の問題を解決するはずの冒険者たちも同じように姿を消していく。

 行方不明者を探していた人間がどんどんと行方不明者になっていくのだ。


「アークテート王国の王都に行けば帰ってこれない」


 大規模な神隠しが起こっている。


 そんな噂があっという間に千里を走り、今や王都には誰も訪れなくなった。

 その結果がこのゴーストシティだという。


 なるほど。


 と、僕は一つうなずいた。


「何かわかったのか、リントよ?」

 ヤンデの赤毛が揺れて、キラキラと期待に満ちた目で僕をみる。

 だけどそれに応えられる言葉を僕は持っていない。

 むしろ失望させてしまうだろう。

 だって。


「すでにこの国は侵略戦争に負けているわけだから」

 こればかりははっきり言わないと。

 戦況を正しく分析できなければ百中百で負ける。

「……そうか、やはりか」

「ヤンデも今がどういう状況か、わかっていたよね?」

 しょんぼりうなずいたヤンデはこの状況が何なのかを正しく理解していたのだろう。その上で手を尽くして負けているのだ。仕方ない。ヤンデは武闘派ではないし、何よりも孤軍奮闘していたのだ。本来ならここに魔族と獣が加わっていなければいけないのだから、それがいなければ負けて当然だよう。


「うむ、これが王家に伝わる千年一年戦争なのじゃな?」

「そう。これは異世界からの侵略。戦争だよ。そしてこの国はすでに負けている」

「……わらわたちの子らは、死んだのか」

 ヤンデはがっくりと肩を落とした。

 さっきまでは期待に満ちて僕を見ていた瞳も光を失って、そこから静かに涙が流れている。


「ねえ、リント、意地悪を言わないで。おひいさんが泣いているわよ。ちゃんと優しくしてあげて」

 横からキンヒメの助け船。

 あらま、いつの間にか、ユーリさんの物言いみたいになってるし、なんか優しい。

 キンヒメってどっちかっていうとヤンデを敵視してたんだけどなあ。

「いいの? キンヒメ? ヤンデの事嫌いじゃなかったのう?」

 僕が問えば、キンヒメは微笑んで答えた。


「嫌いではなかったわ。ただリントに近づく悪い虫だとは思っていただけ。でもね、ユーちゃんはヤンデの事をおひいさま、おひいさま、と言って愛していたわ。愛するガッチさんの可愛い娘だから、自分の娘も同然だって、言ってたわ。だからユーちゃんの代わりに、今度は私がヤンデを守ろうと思うの」

 あらま。

 なんだかキンヒメが僕のママンみたい。そういえば最近ママンに会ってないなあ。

 あーおうち帰りたい。


 キンヒメの言葉にヤンデが反応する。


「おひいさま……わらわをおひいさまと呼ぶのはサターニアだけじゃ……サターニアも消えたのじゃ」

 そうか。

 ヤンデはサターニアこと、ユーリさんが姿を消したのもこの神隠しの一環だと思っているのか。

 これはきちんと伝えないと。


 僕は、ユーリさんと、ガッチさんが人魔の王笏へとなろうとしていた話と。

 そのガッチさんがユーリさんと一緒に貴族牢から姿を消した話を。


 ヤンデへと話した。


 親の恋バナを聞いているヤンデの顔はそれはもう複雑な顔をしていた。



お読み頂き、誠に有難う御座います。

少しでも楽しかった! 続きが楽しみだ! などと思って頂けましたら。

何卒、ブクマとページ下部にあります★の評価をお願いいたします。

それがモチベになり、執筆の糧となります。

皆さんの反応が欲しくて書いているので、感想、レビューなども頂けると爆上がりします。

お手数お掛けしますが、是非とも応援の程、宜しくお願いいたします。

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