八十三.向かう世界は待っちゃくれない
僕らは早贄尖塔で一泊した。
今後の戦いに備えるための作戦会議をするためだ。普段は勝手気ままに生態系を成している坩堝の森だが、有事は鳳の号令で一丸となる仕組みがあるらしい。
知らなかったあ。狸は全く知らなかったあ。おやじは知ってるのかな? さすがに知ってるよねえ。
……知ってるよね?
狸だからなあ。ほんと心配。
ま、まあ、こんな具合に、坩堝の森に関してはドナルドがまとめてくれるという事になったので、僕とキンヒメは人間の世界へと向かい、アークテート王国をとりまとめるようにお願いされた。
どうやら時空の裂け目が現れるのは決まってアークテート王国の王都がある場所で、あそこに王都があるのは異世界からの侵略者を防衛する役目があるかららしい。
また魔族に関しては竜魔族の皆さんで戦闘員を輸送してくれるらしいので、それもドナルドに伝えておいた。異世界からの侵略者がどのような戦闘方法をとるかは攻め込んで来る異世界によって違うらしく、対策の取りようは中々に難しいらしい。
その後すぐに人間の世界に飛び立とうとしたが、疲労と心労から僕ら二人がひどく疲れているのを察したドナルドとディーナさんがそれを許してくれなかった。頑としたその態度に、少し困りながらも友の優しさに感謝しつつ、そこで一泊し一夜明けて、ドナルドに別れを告げてから一路人間の世界へと向かった。
ドナルドが別れ際に。
「頼むな、英雄」
なんて馬鹿な事を言うから風魔法でくすぐっておいたよう。
やめてよね、恥ずかしい。
でもドナルドが無事で本当によかった。
こうやってドナルドの無事を確認できて、友の身に心配はないとわかってくると。
今度は人間の世界は急に心配になってくる。
だってあまりにも流れが急すぎるから。
ユーリさんは一夜にして王笏へと姿を変えて。
ドナルドも息子が孵り次第に羽根へと変化するつもりだったという。
世界のみんなが戦いに向かって駆け足をしている。
ついこの間まではヤンデを揶揄ったり、魔族を驚かせてキャッキャッしていたというのに。
ほんとにおかしいよう。
まるで誰かが引鉄をひいたみたいに。
世界は戦いへと向かっている。
こんな状況を鑑みると、すでにガッチさんが王笏になっていてもおかしくはない。
そうなる前に。
せめてユーリさんの覚悟とその気持ちを伝えたい。
だから急がなければ。
◇
急いで飛ばした結果、僕とキンヒメはあっという間に王都に到着した。
今日は鳳姿での王都襲来はさすがに自粛して、少し離れた所で変化を解いて、狸姿で王都のローズ通りを駆けている。なんだか王都の様子がおかしい。朝方だっていうのもあるけれど、あまりに人が少ない。王都はさすがにアークテート王国の中心だけあって、普通であれば明け方から商人や労働者で騒がしい。
でも今日はあまりに人が少ないし、活気も感じられない。
明らかに街に異変が起こっている。
僕とキンヒメは四足で王都を抜けて、王城の中へと忍びこんだ。
◇
やはり王城の中も様子がおかしい。
騎士や兵士がどこにも見当たらない。
僕とキンヒメはいらないトラブルを避けるために狸の姿のままで隠行をその身に施しているが、これでは意味がなかったなあ。と思いながら、王城の奥深い所、住みなれた貴族牢までやってきた。
ここで一応人間の姿になっておく。
狸なのはバレてるだろうけど、念のためねえ。
「ガッチさん、いるう?」
この感じだと、ガッチさんもいないのではないかと、内心ドキドキしながら、しかしそれを表に出してしまうと現実になりそうな気がして、僕はいつも通りのんきにアークテート王国の前王の名を呼んだ。
お願い。
間に合っていて。
「誰だ? って貴族の牢獄でそんなのんきに俺を呼ぶ奴なんて一人くらいしか知らねえけどな」
よかった。
僕らの宿の向かいの牢からガッチさんのいつもの声がした。
まだ人間の姿のままだ。
間に合った。
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