八十一.心配のあまりに破壊
早贄尖塔。
空を駆ける僕の視界にはこれ一つしか映らない。
ドナルドを王と掲げる鳳の一族が住んでいる坩堝の森で一番高い岩の山。
その一番上。
一際大きい入り口。
この開いている場所にあるのが、鳳王ドナルドの私室だ。
何度も訪ねた事はあるが、直接飛び込んだ事はない。
親しき中にも礼儀あり。
僕は弁えた狸なのだ。
だけれども。
今は事情が違う。
ここに向かって飛んでいるうちに、僕の中で段々と焦りは募り、それは焦燥と化していた。もしかしたらもしかしたら、今にもドナルドが羽に変化しているかもしれない。物言わぬ羽に成り果ててしまっているかもしれない。そんな不吉な考えが腹の底から湧いて出てきた。
だって。
キンヒメの友達は一晩で物言わぬ王笏へと変わったのだから。
だから。
僕は躊躇しない。
非常事態である!
僕にはもうあの入り口しか目に入らない。
行くぞ。
ドナルドの私室へとキリモミダーイブ!
どごーん。
ダイブした衝撃で部屋中の色々が壊れた音がした。硬質な音、柔らかな音、破れた音、色々混ざっている。という事はきっと色々壊しているんだと思う。
でも。
そんなのはいいのだあ。そんな事は気にするなあ。
それよりも!
「ドナルド! どこお!?」
僕は友達の無事を確認したいんだよう。
周りを確認する。
なんか僕が飛び込んだ事でぶちまけたらしいなんらかの粉が部屋中に舞ってよく見えない。なんだこの粉? 邪魔だよう!
どこ? どこにいるの!? ドナルド!
無事い!?
そんな僕の心配に応えるように粉煙の中から声がした。
「何やつじゃ! 朕の命を狙うかあ!」
そんな怒号と、鳳王の羽ばたきが、部屋中の粉煙を一瞬で吹き飛ばした。
その中からは見慣れた友の姿が現れた。
よかった!
ボフンと。
僕は変化をといた。
煙の中から狸出現。
やあ、僕だよ。
「ドナルド! 無事だった!」
僕は狸の姿で友人に駆け寄李、その足元で無事を喜び、友の太い脚をペシペシと叩く。
「は? リント? リントか? 無事とは? 現状危険の真っ最中だが?」
さすがドナルド、僕を一瞬で認識した。僕を認識はしたが、現状は理解はできていないようだ。
「うん! 僕だよう!」
僕はドナルドの無事を喜んで、粉煙の中から現れた友の姿をしっかりと見つめる。
よく見ると。ドナルドに縋りつく雌鳥がいる。
あ、ドナルドの奥さんのディーナさん。
……ん。
日は暮れ。
空はすでに暗く。
時刻はすでに夜。
鳳王の私室。
仲睦まじい鳳の王とその妻が二羽っきり。
何も起こらないわけがなく。
脳裏に鳳夫婦の営みが次々と浮かんでは消える。
あー。
これは明らかに僕は邪魔者だよねえ。
よし。
撤退。逃げるは狸の御作法ですよっと。
「あ、お楽しみでしたねえ……えっと、ごめんねえ。出直しますねえ」
ドナルドの無事も確認できたしねえ。
明日の朝にでももう一回来ますねえ。とりあえずペクールさんにお部屋を用意してももろて。出直しますわあ。あとは若い二人にお任せして。
っというわけで。
僕は踵を返して、スゴスゴと出口から出ていきますわあ。
テクテクと。
歩くはずの足だが、なぜかそれは空を切る。
「それで済むと思ってるのか? リント?」
そんな声で振り向けば。
僕は全てを察したのであろうドナルドの嘴に咥えられてた。
そりゃあ進まないよねえ。
とりあえずさ、コレは事故って事で。
なかった事にして、済ませてほしいなあ。
お願い。
可愛い狸顔でキュるんってしてみる。
……うん。
無理よねえ。ドナルドの顔、怒ってるのよねえ。
そりゃそうよねえ。奥さんのディーナさんも危険な状態になったしねえ。
ちゃんと謝らなきゃあ。慌てすぎたあ。
「ごめん! ドナルド!」
ドナルドの嘴からするりと抜け出して。
ぺたりと床に平伏してごめんなさい。
気づけば、僕の背中に乗っていたキンヒメも一緒にぺたりと平伏してくれていた。
さすがキンヒメ。
鳳王の私室で二匹の狸の毛皮がのびーんと伸びていて。
それを二羽の鳳が眺めている。
そんな間抜けな絵面に耐えられなくなったのはドナルドだった。
「ふ、なんだその間抜けな姿は。怒っておるというのに、初めてあった頃を思い出して笑ってしまうではないか。カカ、ダメだ、怒っていたはずが笑いが止まらん」
怒っていたはずのドナルドは僕の姿を見て笑っている。
そういえば初めてあった時も平伏して毛を撒き散らしていたっけ。
懐かしい。
「ほんとにごめんね。ドナルドが心配で焦りすぎた。許してください」
きっとドナルドは許してくれているのだろうけど。
親しき仲にも礼儀あり。
きっちりと許しの言葉があるまではちゃんと謝ろう。
「わかったわかった。朕が許そう。リントは朕の終生の友である。もう気にするな」
ありがとう。
大事な友達。
僕はのびーんとした平伏態勢から起き上がる。
優しい友達の顔を見つめると。真剣な顔で僕を見つめ返していた。
「だが、こうなった理由は説明してもらうぞ。さすがにイタズラ狸のリントとて、これをふざけてやったわけではあるまい?」
よかった。
悪ふざけでコレをやらかす狸だとは思われてなかったらしい。
ドナルドと遊んでる時も結構悪ふざけで色々やらかしてるから、そこら辺は信用ないと思ってたよう。
「もちろん、説明するよ。僕はいま魔族の世界から魔の王笏を人間の世界へ運んでいるんだ……」
この言葉に目を大きく見開いたドナルドに向けて。
僕はここまでの経緯を説明するのだった。
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