八十.嘘みたい、いつの間に、守りたい、世界
僕とキンヒメはいま人間の世界に向かって空を飛んでいる。
魔王決定戦は終わり。
目的を見事に果たしたユーリさんを、人間の世界にいるガッチさんに届けるために。
そして。
「ユーちゃん、ふええ」
僕の背中では妻が泣いている。
黒鉄の杖で装飾は少ないのだけれど何故か艶かしく美しい。
そんな、かつて友だった王笏を、大事そうに胸に抱いて、泣いている。
僕はいま鳳の姿で空を飛んでいるから、その涙を拭ってもあげられない。
だからせめて向かってくる風を防ごう。
僕が君を守る盾になろう。
なんてカッコつけてみたけれど。正確には背中から手を生やせば涙も拭ってあげられるし、ヨシヨシと頭を撫でる事もできるんだけどねえ。キモいからやらないだけだよう。
それにしても。
なんなんだよう、ユーリさん!
平然と狸を利用して、長年の計画を見事に成就したユーリさん。
キンヒメに抱かれ、朝になった時にはモノ言わぬモノになっていたユーリさん。
最後まで彼女に恐怖の感情はなかった。
すごい人なんだよう。色々と言いたい事はあるけれど、それだけで全部が許せてしまう。
生物からモノになるってのは命を捨てるのとほぼ同義だと思うんだけれど。
そこには強い意志しかなかった。
そんな風に自分のやりたい事をやって、言いたい事を言って、モノになった。
それだけならまだいいけれど、とんだ置き土産を置いていってくれるんだもんなあ。
世界の秘密やら。救世主やら。天の王冠、魔の王笏、人の王笏やら。異世界からの侵略者やら。異世界からの転生問題やら、まーあげられるだけでも問題がてんこ盛りだよねえ。
ふーん。
鳳の姿だって言うのに鼻が鳴ってしまうわあ。
もーめんどくさいなあ。
だってさあ、僕は狸だよう?
たかが狸にさあ、世界の命運を背負わせないでほしいんだよねえ。
僕は身の回りにある家族や友達さえ無事ならいいんだよう。
えっと。
家族と友達っていうと。
三大ラクーンのみんな。僕の配下に入っているから全員家族なんだよね。
彼らは守りたい。
それからドナルド率いる鳳さんたち。
彼らも友達の家族だ。絶対に守る。
あっと、は……人間の世界にいるガッチさんはユーリさんの大事な人だし守らなきゃなあ。それをいうとヤンデ女王も僕が人間の世界で好きに過ごせるように色々してくれるから守るかあ。となると人間の国ごと守るのかな?
ユーリさんの家族である夢魔族も傷ついたらキンヒメが悲しむしなあ。守らなきゃだし、魔王決定戦で戦った魔族のみんなも無事であってほしいなあ。
あれ?
おかしいぞ。
三界全部に守りたい存在がある。
よし。
そこら辺を考えるのはとりあえず後回しだ。
なるようになれえ。
それよりも僕にはちょっと気になっている事がある。
天の王冠というワードを最近頻繁に聞く。ユーリさんの例を考えるに、どうやらこれは鳳の王がモノに変化するモノらしい。人魔の王笏と合わせて、時空の裂け目を閉じるのに必要な装置だという。
この天の王冠。
不思議な話だが、魔族の世界に旅立つ前に、完成したとドーンさんが言っていた。
アークテート王国にあるドーン魔道具店の店主が女王、ヤンデに命じられて、僕のお尻の羽を使って完成させたという天の王冠。鳳王の霊羽を使用して作成されるというコレ。
本来であればドナルドが鳳王の霊羽へと姿を変えて初めて生まれる王冠だったのではないのかな?
僕の頭には疑問が浮かぶ。
ドナルドは自分が羽になり、王冠へと作り替えられる事を知っていたのか。
僕のお尻からプチっと抜いた羽で作った王冠はどういう扱いになるのか。
考えてもわからない。
というか、ドナルドは無事なのだろうか。
天の王冠がすでに存在しているのを知らずに、僕に何も告げずに勝手に羽になったりしていないだろうか。
あ、なんか。
心配になってきた。
背中で泣き疲れて寝ているキンヒメと同じように。
僕も友を失うのではないか。
ごめん、ユーリさん。
ちょっと寄り道させてもらう。
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