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七十八.いびつな秘密

 だからあたしは語ろう。


 世界の秘密を。


 この世界は一千年に一度。


 時空の壁が薄くなり、どこかしらの並行世界から、侵略者がやってくる。

 その侵略者と、この世界の生物たちは戦う。


 これがキーちゃんの知っている『千年一年戦争物語』の正体。


「まあ、キーちゃんが嘘だと思うのも無理はないわね」

 これは魔族の世界と人間の世界の一部でしか伝えられていない秘密だから。


 魔族はその長い寿命の為に秘密を口伝で伝えやすく。

 人間族はその計画性によって秘密を文面で伝えてきた。

 でも坩堝の森の獣にはきっと伝わっていなかったのだろう。


 偉そうに魔族もみんな知っているように言ってはみたが、実際は一部の魔族しかこの事実を知らない。具体的にいえば魔王を歴代務めてきた竜魔族ぐらいしか知らない。

 だから、こう言っているあたしだって、この事実を詳しく知ったのは人間の世界に渡ってからだ。だから普通の狸だったキーちゃんが知らなくても無理はない。

 魔族にとっても、獣もとっても『千年一年戦争物語』など文字通りの絵空事になっている。


 でも。


 人間は違った。


 なぜこの世界なのか。

 なぜ一千年に一度なのか。

 なぜ滅ぼされなければならないのか。


 ずっとこれを人間は真剣に考え続けていたらしい。

 定命が短いくせに粘着質な人間らしいというのが正直な感想だ。


 国が滅び、山河となり、新しい国が生まれ、その国がまた滅びようと。

 この学問だけは名を変え、形を変え、細くなったり、太くなったりしながら何万年も続いてきた。


 ここまでくるとその粘着質は尊敬にも値する。


 あたしは人間の世界に来て、この話をガッちゃんから聞いた。


 千年に一度の侵略者に対して。

 人間族が何をなすべきか。

 魔族が何をなすべきか。

 坩堝の森の獣が何をなすべきか。


 今からあたしはその話をキーちゃんに伝えようと思う。

 そしてそのためにあたしが何をしようと考えているのかも。


「ねえ、聞いてほしいの」

 あたしの覚悟を。


 ただまっすぐに友の目を見つめた。

 そしてそれに応えるように、友は小さく頷いた。


「うん、ユーちゃんの言葉なら、信じるし、聞くわ。教えて」

 友はそう言って、あたしの言葉の続きをうながした。

 うれしい。


 優しい友の言葉にあたしは話を続ける。


 人間の学者たちの研究結果ではね。

 世界とは世界樹に連なった多次元世界で出来ていて。

 多分、この世界は他の世界と比べて、安定はしているが、停滞していて、細くは伸びるが、太くはならないし、葉も多くはつかない。

 つまりあたしたちの世界は世界樹に栄養をもたらさない枝葉で。それはつまり、うまく育っていないと、世界樹に認識されているのだと、学者たちは推測していた。

 その結果、世界樹の剪定対象になっている。


 それが定期的に他の世界から侵略者がやってくる理由だと。


 若い頃のガッちゃんは苦々しく、あたしにそう語ったのよ。


 あ! なんか思い出してきた!

 キーちゃん! もう! 聞いてよね! あの頃のガッちゃんは王太子だと言うのにそういった研究に没頭していたの。目の前にあたしという美しい女がいるのによ? クソ真面目なつまんない男だったの。でもね、そんな真面目な所を他人に隠したくて、人間の世界に来たばかりのあたしが細々とやっていた酒場に入り浸って、酒と女に溺れている風を装っていたのよ? あたしを便利に隠れ蓑に使うだけ使って、一回も手を出さないのよ?


 ほんとに馬鹿な男だったわ。

 そう吐き捨てたあたしを友はにやにやと見てくる。


「ユーちゃん、顔がにやけてるわよ?」

「……そんなワケないでしょう」

 と言って、軽く揉んだ頬は確かに緩んでいた。


 ゔヴッン。


 ごまかす様な咳ばらいを挟んでからあたしは話を戻した。


「それで、このお話に出てくる人間の王と、魔族の王と、鳳の王が、今の世界にもいるのは知ってるわよね?」

「ええ、人間は私たちを捕まえたヤンデさん、鳳の王はリントの友達のドナルドさん、魔族の王はユーちゃんでしょう?」

 そう聞くと彼らはほんとに顔が広い。

 きっと狸さんが『千年一年戦争物語』には出てこない『あの人』なのだろう。


「そうね、お話の中では彼らが侵略者を撃退した事になっているけど、本当は違うの」

 ガッちゃんの言う『あの人』が倒したのだ。

 でも、それをキーちゃんに伝えるのは最後にしよう。

 狸さんがキーちゃんにちゃんと伝えているかわからないし。何よりも狸寝入り中の狸さんの心が伝えるなと言っている。いつの間にあたしの精神感応まで持っていったのかしら?


 ちらっと狸さんを睨むと、フーンと鼻を鳴らして寝ぼけたフリをしている。


「そうなの?」

「彼ら三勇者は異世界との道を塞ぐ装置なのよ。だから実際には異世界からの侵略者を退治してはいないわ」

「装置?」

「そう、装置。天の王冠、人の王笏、魔の王笏。お話にでてくる三勇者って言うのは、この三種の装置の事を示しているの」

 同時に鳳の王と、人間の王と、魔族の王、でもあったモノたち。


「ごめんなさい、ユーちゃん。話がよくわからないわ。一番最初にユーちゃんは王笏になるって言ったわ。その王笏が今の話に出てきた王笏なの? 生き物が装置になるの?」

 キーちゃんはさっきから飛び飛びなあたしの話に完全に混乱しているようだ。

 それでも話の要点はきちんと把握できているのはさすがだと思う。


「そうなのよ、キーちゃん」

 混乱している友の顔を真っ直ぐと見つめて。


 ここまでのあたしの目的と。

 今からあたしに起こる事をちゃんと告げるわ。


 最後まで聞いてね。


 キーちゃん。



お読み頂き、誠に有難う御座います。

少しでも楽しかった! 続きが楽しみだ! などと思って頂けましたら。

何卒、ブクマとページ下部にあります★の評価をお願いいたします。

それがモチベになり、執筆の糧となります。

皆さんの反応が欲しくて書いているので、感想、レビューなども頂けると爆上がりします。

お手数お掛けしますが、是非とも応援の程、宜しくお願いいたします。

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