七十三.沸騰させちゃえ狸無双
という事で、次!
デデデデー。
金剛魔族のディアマさんが現れた!
「どうやら敵を切るのが得意な狸のようだな! しかし! 金剛でできたわしの体は絶対に切れまい! それ、切ってみるが良いわあ!」
ドッスン。
そんな言葉と、地を揺らす轟音を共にして、カッチカチでピッカピカな体を持った巨体が現れ、それがいきなりわしを切れえとか言いだして、どかりとその場に座り込んだ。
はあーでっかあ。狸が見上げるくらいにでかい。
なんか、一応、人の形してるけど、人というか、小さな山みたいだなあ。
山に手足が生えてる感じ。
どうやら本人曰く、ダイヤモンド鉱石の硬さを持っているらしい。
ほんとかなあ?
確認するために軽く風手裏剣を飛ばしてみたけど、確かに傷がつかなかった。
「切れんだろう? どうだ切れそうか?」
山に顔を描きましたみたいなディアマさんがカカと笑う。
確かに、結構固そう。僕が硬くなった時とどっこいくらいかな?
うーん、て事は、まあ工夫すれば、外傷を与える事もできるだろうけど、別に僕は相手を切る事にこだわりがあるわけでもないしねえ。竹切狸でなければ、人切狸でもない。
うん、折角だから新しい力使ってみよっと。
新しいといえば、ノスフェラさんからもらった血液魔法。
ほっかほかの新品。羹の温もりがこもってるよう。
調べてみるに、どうやらこれは血液を自由に操れるらしい。
てことはだよ?
事はシンプル。相手の体内の血液を操ってしまえばいいのでは?
外が硬いなら中からやってしまえばいいんだよね。
って事で。
「狸隠神流忍術 血池地獄」
この場でささっと開発した忍術で、軽くディアマさんの血液の温度を上げてみる。
最初はなんだか違和感を感じるだけらしく、ただ頭を振ってるだけのディアマさんだったが、どんどんと温度を上げていくと、途端に座っているというのに、上体がふらふらとし始めて、その内、ついに耐えかねて、ドスンと大きな音を立てて後ろに倒れ込んだ。
リアル頭沸騰状態になって、もはや座っている事もできなくなったらしい。
熱中症は危険ですね。みんなも気をつけよう。
てこてこと近づいて、でっかくて固い山を狸の肉球でポンポンしてみるが反応はない。
完全に意識もないようだ。ってことは、これは多分勝利だよね?
ねえ、ユーリさん? って確認すると。
呆れ顔で、うなずいてた。
呆れられる意味がわかんないけど、見事勝利!
うーん。
目立ったスキルを持ってたのは彼らくらいかなあ。
彼らを倒す間にも、十歩歩く毎に、それ以外の挑戦者が路地から現れるから驚くよねえ。
「初日に昏倒させてやって人数を減らしてるはずなのに、こんなに魔王になりたい人がいるんだねえ」
とユーリさんに問えば。
「今回は特殊なケースだから魔王候補の人数としては少ないくらいよ」
と返ってきた。
「特殊なの?」
と聞いたが、ユーリさんは笑うだけで答えてはくれなかった。
そんな会話をしている内に、僕らはいつの間にか大量無差別昏倒事件を起こした中央広場へとやってきていた。
もうニューチャレンジャーは現れないし、この辺りには僕らの他に、一体を残して気配も消えている。
その最後の気配も上空でとどまっていて、こちらを観察している感じはあるが、仕掛けてくる感じはない。
まだ来ないのかな?
じゃあ、待つかあ。
僕は中央広場の噴水の縁に腰掛けた。
キンヒメとユーリさんもそれにならって横並びに座る。
「いやー、狸無双だったねえ! 楽しかったあ!」
狸に並ぶ者なしって意味わかんないけど、まあ無双だよねえ。
ふーんと満足げに鼻が鳴ってしまう。
「さすがリントですね」
横に並んだキンヒメが祝福の鼻チュウをしてくれた。
うひい。うれしい。たぬき喜んじゃう。
「狸さん、わかってるでしょうけど、ここからが本番よ?」
釘を刺すようなユーリさんの言葉。
うんうん。
「わかってるよう。上にいる人でしょう?」
おっきくて強そうだよねえ。すっごい上にいるけど、ここからでも姿が見えるもんねえ。
「ええ、あそこにいるのは竜魔族の族長、ロン・ビルダー。魔族の中でも最強クラスの力を持ち、同時に現役の魔王でもあるわ。狸さんがいなかったら彼が順当に魔王になっていたでしょうね」
ふーん。そんなに強いのかあ。
確かにそんな感じはするけどさあ。
いつまでも空の上で様子見決め込んで、狸を待たせるのはよくないよねえ。
狸は飽き性なんだよう?
「魔族最強で現役魔王? でもさそんな事言ってもさあ、空の上でビビってるだけでさ、結局何もしてこないじゃないかあ。様子見なんて絶対強者のやる事じゃないよねえ。あれでしょ? 所詮何もできないんでしょう?」
降りてこないなら、降りてこさせるだけだよねえ。
ね、聞いてるんでしょう?
僕の挑発が。
殺気をこめて、上空に視線を投げると、そこにいる竜がプルプルと震えているのが見えた。
僕の殺気に怯えちゃったかなあ? ぷぷぷう。
なんて意識をこめて見つめてあげると。
耐えかねたように。
竜の大きな口が開く。
あ、吠えた。
その認識の一瞬後に、空気の振動と、咆哮が僕らにまで届いた。
耳、痛あい。
「た、狸さん! やば、やばいわよ! ロンが激怒してる!」
ユーリさんが慌ててキンヒメを抱いて立ち上がった。
逃げの態勢だ。
そうそう、さっさと逃げてえ。キンヒメだけは絶対に傷つかないようにお願いしますねえ。
「そうだねえ、ユーリさんに言われなくても、怒ってるのはみればわかるよう。絶対強者とか言って、上で様子見なんてしてるからさ、さっさと降りてきてくれるように、僕なりの工夫だよう?」
僕はユーリさんにそう答えながら、段々と大きさを増し近づいてくる、二足歩行タイプのドラゴンを見つめている。僕の言葉はきっとユーリさんの耳元には届かなかっただろう。
ユーリさんはこの場からとっくに逃げているし、なによりも竜魔族のロンさんがその巨体で中央広場に降り立った轟音と、その怒りの咆哮がこの場の音を全て駆逐していたから。
さあ、これが決勝戦!
デデデデー。
竜魔族のロンさんが現れた。
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