七十.ジェイルが俺に出ろと囁いている
とりあえず。
魔王決定戦には出場できるはこびとなった。
あー。
大変だったなあ。ほんとに大変だったなあ。
誰かさんが中央都市、ワイズの中心地で大規模昏倒事件を起こしちゃったからなあ。
本当に懲りない狸だよねえ。
まったくう、誰だよう、迷惑な狸だなあ。
という事で、だいじょうぶになるまでの顛末をお話しするねえ。
◇
そんなこんなで、僕らは迷惑狸のおかげで指名手配されちゃってさ、どこの宿屋にも泊まれないしさ、もう仕方ないから自首しようってなってさ、中央防衛隊に出頭したらさ、まずは逮捕されてさ、事情聴取からあっという間の有罪宣告になってさ。
あんたがたどこさあ!
ってな具合に、自首した僕らはそのまま連行されて、ワイズ中央監獄の牢獄へ投獄されましたとさ。
ガッチャン。
はー、地下の、ジメジメした、光の入らない、ガチの牢獄う。
アークテート王国の貴族牢が懐かしいい。あーもー、処されるうー、死んだあ、と覚悟して、今までの狸生に思いを馳せながら、孤独な牢獄の中で狸一匹がっくりしてたら。
なんか急にユーリさんが現れて、外に出してくれたんだよねえ。
その姿はまるで聖母のようで。
胸の中にキンヒメを抱いている。中身はサキュバスですけども、その美しさと救いを与えてくれているのも相まってとても神々しい。
それにしても最近、キンヒメを胸に抱くのがデフォルトになってませんかね?
おん?
しかし! しかしだよう!?
牢から出してくれたと言っても、これが無罪放免かどうかなんて僕にはわからない。
もしかしたら処刑場へと案内されているのかもしれない。
なので。
牢獄から地獄?
今から斬首ですかあ? なんてシングル用の牢が並ぶ廊下をコツコツペタペタと歩きながら聞けば。
「なに馬鹿なこと言ってるの? 無罪になったのよぅ」
と答えてくれた。
ほー、と感心しながら、地下牢から地上階に上がる階段を一歩ずつ進む。でもでもさ、そんなウマイ話があるのう? と、心の中で疑問符を浮かべている僕に。
「ま、それはそう、そんなウマイ話はないわね、条件付きの無罪よ」
さすがユーリさん、心の声にもしっかり答えてくれる。
「やっぱりねえ、条件ってなあに?」
そらそうよねえ。
今回のやらかしは、言ったら無差別テロですもん。
そんな簡単に無罪にはならないよねえ、うんうん。と一匹で納得しながら中央監獄の廊下を出口に向かってペタペタと歩く。
廊下に立っているのは見張り?看守?なのかな? 屈強な魔族さんたちの視線が痛い。
いやん、狸震えちゃう。
「無罪になる条件はシンプル、魔王決定戦で優勝する事よ」
という端的な条件に続いて、ユーリさんが付け加えた説明を聞くに、魔王になってしまえさえすれば昏倒させた魔族全員部下になるわけだから罪には問われないそうだ。それにプラスして、犯罪者でも魔王決定戦に出場する権利があるらしく、その間の勾留は無効となるらしい。
ほえー、と感心させられっぱなしの間にも、ユーリさんの淀みない案内で、僕らはスタスタと監獄の中を進む。その景色はだんだん牢獄っぽくなくなってきて、途中途中でセキュリティゲートがあるくらいしかその雰囲気を感じられなくなってきた。
「じゃあ、まあ、結果として僕がやる事は変わんないって事だよねえ?」
そう、目指すところは同じ。
どの道、優勝するつもりだったからねえ。
大丈夫。
「自信満々ねえ」
こんな問題起こしておいて困った狸さんねえ、とでも言いたげなため息まじりの言葉。
「リントだから当然ですよ、ユーちゃん、安心してください」
「キーちゃんが言うなら、頼もしいわあ」
そう言いあって女同士で微笑みあっている。
いつの間にかに仲良くなってた僕の婚約者と護衛対象者。
女の中に男が一人状態。
考えようによってはヘブンで、状況によってはヘルにもなり得る状況だよう。
「ほわあ、そがいかあん」
狸さみしい。
「うふふぅ、女の友情ってのは男女の関係とはまた別のものなのよ?」
斜め上の視点から、僕に向かってウィンクを飛ばしてくる。
さみしいからって、そういうのはいらんいらん。
やめれ。
とはいっても、ユーリさんがそんな事をしたとて、キンヒメは怒らないどころか、顎下を撫でられてふーんと鼻を鳴らしている。前はふうふうモードに入って、僕はへそへそされて困ってたんだけど。
無いと寂しいなあ。
は!
まさか! 本気で快楽堕ちさせられてるんじゃ?
なんて、監獄の廊下を直角に曲がりながら、再燃した疑問にふむうと首を傾げていると。
「リント、私にも初めての友ができて、少し浮かれているのです。許してくださいね」
とキンヒメ。
言葉の後に、ユーリさんの腕の中からするりと抜け出してきて、二本足で僕の横に並び立った。
地下牢とは違い、監獄の地上部分は牢獄の役目というよりも、事務棟的な存在らしく、鉄格子ははまっているものの、ちゃんと窓もあるし、光もあたるし、空いた窓から風も吹いている。
そんな風に揺れる金色の毛並みから僕の愛しい人の匂いが広がった。
はあー、すきい。
「そっかあ」
友達かあ。
それは納得だなあ。
初めての友達は仕方ないよねえ。
僕もドナルドと友になった時にはとてもはしゃいでしまって興奮が冷めやらなかった。
「でもね、愛しているのはリントだけですよ」
そんな甘い言葉と一緒にほっぺに鼻チュウをしてくれる。
オスなんて単純なもので。
それだけでご機嫌になるのである。
「ご機嫌になった所で、魔王決定戦の詳細を説明していいかしら、狸さん?」
ふふ、ユーリさん、言葉に少し嫉妬が乗ってますよ?
仕方ないなあ。キンヒメの最愛であるからして、詳細説明をしてもよろしくてよ?
「ご機嫌すぎて語尾がお嬢様になってるじゃないの」
「あら、失礼しまして。こう見えて人間姿の時はアタクシ貴族ですので」
中身は狸だし、貴族しぐさなんて全く知らないけどねえ。
「ま、いいわ。じゃあ説明するわね」
ユーリさんはそう言いながら、呆れ顔で説明を始めた。
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