六十九.きーちゃんとゆーちゃん、いいじゃんってゆうじゃん?
「とうちゃあく!」
背中からユーリさんと何故かユーリさんに抱かれたキンヒメを下ろして、大きな羽をバサリと羽ばたかせた。
ここは魔族の世界にあるグランデル共魔国の中央都市、ワイズである。
サイロスさんとの腕試しから、少しの話し合いを経て。
結局、夢魔族の魔王決定戦代表はユーリさんという事になった。
夢魔族の会議にユーリさんと一緒に僕も出席したんだけど、サイロスさんはずっと部屋の隅でプルプルと震えていた。彼はほんとはきっと夢魔族じゃなくてスライム族なんだろうと思う。
ぷるぷる。ぼくわるいスライムじゃないよ。って言いたいんだろうね。
なんてそんな冗談はさておき、僕の実力は夢魔族のみんなに認められた。と言うより、サイロスさんを生き返らせたように彼らからは見えたのか、軽く神様みたいな扱いを受けた。
いや、治せるのはカマイタチのやった傷だけだからね?
そして僕とキンヒメとユーリさんは魔王決定戦が行われるこの街、ワイズに来ているのである。
さらに言うのなら、いつものように魔族の防衛隊に囲まれている。
何故かと言われれば、僕がいつものように鳳の姿で中央都市、ワイズのど真ん中へと着陸したからである。さすが武闘派の魔族だよねえ、狸と違って誰も腰を抜かしたり気絶したりしないの! 狸びっくり!
それどころか、一般市民であろう皆様が僕らを囲んで逃げないように防衛陣を組んできた。
多分その間に防衛隊を呼んだんだろうねえ。
あっという間に僕らを囲う人垣は槍を手にした屈強な男たちに代わっていたよう。
はえー、すごいねえ。
鳳の姿で僕が感心していると、足元から声がする。
「ねえ、狸さん? いい加減に学習しましょう?」
「えー、これがいいんじゃないかあ」
「さすがリントです」
サキュバスのユーリさんは呆れ顔で、僕は反省をせず、キンヒメは優しい。
「ちょっと、キーちゃん。そうやって貴女が狸さんを甘やかすから調子に乗るのよ?」
ユーリさんがキンヒメを横抱きに抱っこし、美しい毛並みを撫でながら言う。
は? キーちゃん? だれそれ?
「えー、ユーちゃんが気にしすぎだと思いますよ? リントのやる事は全て正しいんですよ?」
ふーんと鼻を鳴らし、満足げに撫でられながら言う。
え? ユーちゃんってユーリさん? てことはキーちゃんはキンヒメ?
ちょっと待って!?
なんかふたりとも! すっごい仲良さげなんだけど!?
キーちゃんとユーちゃんってなに?
ぼふん。
あ。
驚きすぎて変化解けちゃった。
鳳の姿は煙に消えて。
そこから狸が現れた。
やあ、僕だよ。
って、違う違う! 今はそんな場合じゃないんだよう!
「ねねね! なんで!? なんでそんなに仲良くなってるのさ!」
僕の問いに。
ふたりは同時に顔を見合わせて、「えー?」と声をあわせた。
なにそれ、その仲良い感じ。なにそれえ。
「秘密です」
「秘密よぅ」
同時に僕を見て言うのである。
えー。
なんだよおう。恐れてた事態が巻き起こってるよう! あー、キンヒメがあ、ユーリさんの撫でに快楽堕ちさせられて、サキュバスの奴隷になっちゃったああ。どうしよお。僕の奥さん返してえ。
がっくり。
「ちょっと、狸さん、他人聞きのわるい事を考えないでくれる? 誰も快楽堕ちなんてさせてないわよぅ」
「リント! そんな事を思ってたのですか!?」
二者から睨みつけられた。
え? 僕がわるいの?
「えー、だってえ。キンヒメが僕に秘密なんて持った事ないじゃ……」
……ん? ってそんな事ないか?
キンヒメがいつの間にかに人間や鳳の言葉や慣習を覚えていたのなんて知らなかったし、恋バナ好きな狸だってのも最近知ったばかりだし、結構キンヒメの事で知らない事が多いのか?
「そりゃあそうでしょう? 他者の事を全部知る事なんてできるわけないじゃないのよ。全部を知らないから、他者は驚くし、全部を知らないから、新しい事が生まれるのよ?」
僕の心を読んだユーリさんが言う。
「リント、貴方と私はまだまだこれから長い時間を過ごすんですから、ゆっくりとお互いの事を知っていきましょう?」
僕が何を考えているのかなんてお見通しのキンヒメが言う。
女性二人からの諭すような言葉。
「うん、わかったよう。ところで二人とも、背後から槍で刺されそうになってるけど、大丈夫?」
僕の言葉に女性二人が慌てて振り向いた。
「え?」
「あらぁ?」
僕らがもめている間に、そこが好機だと考えたのか、魔族の防衛隊の皆さんは、ジリジリと僕らに気づかれないように距離を詰めてきて、異種族の侵略者を捕らえんとしていた。
これ? やっていいのかな?
いいよね? 魔族って武闘派だって聞くし。勝てば良かろう?
殺意はないから殺しはしないけど。
「狸隠神流忍術! 神仙戯術!」
術の行使と同時に。
僕らを中心として、半球状にドームが展開される。
ここは夢の世界。
この中に入った相手は強制的に幻を見せられるのだあ。
やったあ! ちょうどよく新作忍術が試せるよう!
これはインキュバスのサイロスからもらったスキルを改造して作った忍術!
そもそもインキュバスってのは夢魔族で夢を見せる、夢の中に入り込むのが得意な種族。そんな彼をコピーして手に入れたスキルの中にはやっぱり夢魔法ってやつがあった。
こんな魔法持ってるのに、なんで近接やら土魔法で戦ってんだろうって疑問に思ってサイロスに聞いてみたら、どうやら夢魔族ではみんなが当たり前に持ってるから、耐性を持ってるし、使い物にならないって認識らしい。
うん。
宝の持ち腐れ。
って事で僕はそれを活用する事にした。
前世では洋の東西を問わず、奇術やらマジックやらと言ったものがあった。
日本にも連綿と続く手妻と呼ばれる独自のマジックが存在していて、僕ら忍者はそれを忍法に応用したりもしていた。蝶々を飛ばして見張りの意識を逸らしたり、くノ一がターゲットの思考を馬鹿にしたりするのに使われた。
でもそれにはやっぱり準備が色々と必要で。
タネも仕掛けも、もちろんある。
でもこれにはそれがない!
魔法最高!
半球状のドームの範囲は広く、僕らが降り立った広場全体を包んでいる。
という事は当然、魔族の防衛隊の皆さんも範囲内に入っているわけで。
どうなってるかなあ? 効いてるかなあ?
確認するために辺りを見回してみれば。
阿鼻叫喚。
快楽に溺れている姿、恐怖に喘いでいる姿、泡吹いて倒れている姿、全身を掻きむしっている姿、何かから逃げ惑っている姿、虚空へ怒りを向けている姿、泣きながら謝罪している姿。
ありとあらゆる感情の洪水であった。
うん。
やりすぎたかなあ?
このままだと肝心の魔王決定戦に出られない可能性があると思われるほど惨状。
どうするべきか?
狸ならば、まずは逃げるべきだろう。
という事で。
さようなら。
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