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六十八.ほのかにさす月明かりはともだちとなった少女たちを照らす

魔王決定戦編投稿開始します。

 夢魔族の集落。


 月明かりに照らされて、私は珍しくリント以外と一緒にいる。


 こうやって月だけを見ていると狸の世界に戻ってきたみたいに感じるけど。


 ここは魔族の世界。


 夢魔族の集落。


 そして私の背中を優しく撫でるのは女性の手だ。


 私の毛並みをリント以外に触れさせるなんて論外だと思っていたのだけれど。


 この人は何故か不快じゃない。


 毛並みに触れられて怒りが湧かないのは珍しい。と言うよりは初めてだ。


 変な人。


 ふーん、と鼻が鳴る。


「ごめんね、キンヒメさん。貴方の夫を無断で借りるような事して……」

 優しく私を撫でるその手から、心底申し訳ない感情が伝わってくる。

 撫でさせている段階で許しているのだから気にしないでほしい。


「いいわ、わかってるから」

 リントに他所のメスが接触するのは許せないけれど、この人は多分大丈夫、リントにそういう感情はない。この人がリントに恋愛感情を持っていないのはすぐに分かった。


 だって別の人への愛情の匂いがしたから。


 相手は多分ガッチさん。


 そうでしょ?


 心で問いかけながら顔を見れば、はにかみまじりの笑顔で肯定が返ってくる。


 リントから聞いた。

 この人は他者の心が読める。


 それは魔法やスキルがあるこの世界の中にあっても特異な能力で。

 人によっては羨むであろうし、人によっては疎むであろう。


 私たち狸は裏表を持つ生き物ではないから、心を読まれようと気にしない。

 だからリントも私もユーリさんのそばにいても、なんてことはないが、人間や魔族はきっと違うだろう。人間の世界に行って、少ない時間ながらも人間を見てわかった。


 人間は嘘をつく。他者を欺く。そこに意味がある場合も、ない場合もある。

 狸は食って寝て番って、たまに腹鼓を打てればそれでいい。

 だけど人間はそれだけでは済まない。


 リントが言っていた通りに人間は欲が深い。欲を満たすために人に嘘をつき、時には自分にも嘘をつく。そしてその嘘の分だけ文化を築く。嘘がある事を前提に。その嘘をうまく使って生きている。


 そこには、いい嘘も、わるい嘘もあって。


 それが人間の文化の源だ。

 魔族は人族よりも、もう少しだけ獣に近い感じがするけれど、やはり嘘はある。

 だからその分、坩堝の森の獣よりも文化的だ。


 でも。


 私を優しく撫でるこの魔族、ユーリさんにはその嘘が通用しない。

 生きにくかったろうと思う。

 魔族の世界を出て、人間の世界に行ったのも、そこら辺に原因があるのだろうか。


 まあ、勝手な推測だから、間違っていたら訂正してね。

 と、鼻先を軽く上げて、ユーリさんを見る。


 目を閉じて、優しい表情で、私を撫でている。


 沈黙は肯定かな。


 この人とは趣味も合う。

 お互いに恋物語が好きだ。

 恋物語が好きな狸。

 狸らしくないと言われても仕方ない。

 でも何故か好きなのだ。


 流れ物の人間の遺物の中に恋愛小説があった。初めは興味本位で人間の言葉を学ぶつもりで読んでみた。何故かあっという間に人間の言葉が理解できて、本を読む事ができるようになった。


 そこからは色々と出歩き、人間の書物を収集した。


 手に入るのは恋物語ばかりではなかったけれど、それ以外の書物も知識としてはとても役に立った。

 その副産物で、言葉というものが好きになり、色々な生き物の言葉を学んだのは、リントと結婚してから、鳳さんとの面会などでとても役に立った。


 でもその全部がプラスに働いたわけでない。


 恋物語の複雑な恋を知ってしまった分、本物の恋には興味がわかなかくなった。だって、周りにいる狸と恋に落ちるにはあまりに相手がシンプルすぎるから。

 ユーリさんが魔族の恋が味気ないと言うのと同じ感覚なのだろう。


 そう考えると、私とユーリさんは似たもの同士なのかもしれない。


 私はリントに命を救われて恋に落ちて。


 ユーリさんはガッチさんに命を救われて恋に落ちた。


「ふふ、奇遇ねえ」

 心を読んだのか、無言で優しく私を撫でていたユーリさんがポツリとこぼして、笑った。

「ほんとね」

 私も笑った。


 降って湧いたような。

 女二人の笑い声が夜に吸われて消える。


 後に残った沈黙が月明かりに照らされた。


「……ねえ、キンヒメさん。あたしと、お友達になってくれない?」

「それ、いいわね!」

 異種族のお友達。

 リントにはドナルドさんがいる。絶対いい!


「いいの? あたしサキュバスよ?」

 あっさりと承諾した私に戸惑うユーリさん。

「それを言ったら私は狸よ?」

 何か問題になるかしら? 心でそう言うと、ユーリさんは微笑みながら、無言で首を横に振った。


 問題なんてない。


 ふふ、とお互いが笑う。


「ねえねえ、だったら、キンヒメさんじゃなくて、キーちゃんって呼んでいい?」

「ええ、勿論、じゃあ私はユーちゃんって呼ぶわ」

 嬉しい!

 あだ名で呼び合う友達って初めてかもしれない。ラクーン18GLDではメス狸同士だと共同体という感覚が強すぎて、仲の良い他者という存在がいなかった。


 大賛成!


 こうして私たちは友達になった。


「でも、よかったわあ」

 ユーちゃんがそう言って、安堵したようにため息をこぼした。

「何が?」

 そんな安心するような事あった?

「友達になってもらえてよ」

 ああ、そういう事か。

「なるわよー、正直こんなに親近感を持てたのはリント以外は初めてよ?」

「えー、初めて会った時はずっとフウフウ威嚇モードだったじゃないのよお」

 う。

「……それは、仕方なくない?」

 仕方なくない? ユーちゃんの事知らなかったし、なんか色気振り撒いてくるし。メス狸はフェロモンに敏感なのよ?

「そうねえ、狸さんはいい男だもんね」

 そう、いい男なの。

「とったらダメよ?」

 ダメよ?


 私の念押しの心の声にユーちゃんは笑う。


「当たり前よ、あたしの恋の相手は、わかってるでしょう?」

「ええ、ガッチさんね?」

 リントほどじゃないし、人間の美醜はわからないけど、大人の余裕があるわね。


「そ、あたしはあの男とひとつになるために魔王になりたいの」

「へえ、魔王になったら恋が叶うの?」

 それはよくわからないけど。

 魔王特典ってやつがあるのかしら?


「ええ、そうよお。むしろこれ以外では叶わないわね。何せ人間と魔族だもの。世界も種族も時間も。何もかも違いすぎるわ」

 あるのか、魔王特典。

 まあ、あるか。魔王って、鳳でいえば鳳王だしね。


 そうと決まれば。


「そっか、私、応援するわ! リントさえ良ければユーちゃんが魔王になるために力を貸すわ!」

 ユーちゃんの膝の上に立って、豊かな胸に前脚を乗せて、美しい頬に鼻チュウを。

 狸の約束だ。

「ありがと、キーちゃん」

 鼻チュウを受けたユーちゃんは嬉しそうに笑った。


 こうやって。


 お互いの恋を応援する事を誓った。


 そんな私たちは夜が更けるまで色々な話をした。



お読み頂き、誠に有難う御座います。

少しでも楽しかった! 続きが楽しみだ! などと思って頂けましたら。

何卒、ブクマとページ下部にあります★の評価をお願いいたします。

それがモチベになり、執筆の糧となります。

皆さんの反応が欲しくて書いているので、感想、レビューなども頂けると爆上がりします。

お手数お掛けしますが、是非とも応援の程、宜しくお願いいたします。

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