六十五.あっけない結果は大体やってないのでは?
「やった! 私はやったぞ! これで生意気な狸は死に! ユーリは私の妻となった!」
そんなサイロスさんの勝利の雄叫び。
でもね。
レデースエンゼントルメン、じいちゃんばあちゃん、子供に飼い犬。
誰しもが知っているお約束。
古今東西。
それはやってないやつのセリフなのである。
サイロスさんのドリームスラストの威力は実際凄まじく、その余波だけで、僕を拘束していた足固めなどは軽く粉砕、その粉砕された土が土煙レベルになるほどの威力だった。
その攻撃を直接喰らった僕。
普通ならば当然死ぬだろう。そう、普通の狸、であれば、あれに貫かれたら串刺しどころか、肉片すら残さず、全てが血煙へと姿を変えているだろう。
でもね。僕はリントです。
化け狸で忍者です。
死ぬわけがありません。
ほら、土煙が晴れて。
その元気な姿が見えてきたでしょう?
やったか!? 何いいいいい! 無傷だとおお!
てな感じです。
「な! なぜ!? この爪に貫かれたはずの狸が!? 肉すら残しているわけがないでしょう!? なぜだ! なぜケダモノごときが、私の爪を受け止めているのだ!」
サイロスさん、どうやら理解が追いついていない様子。
たしかに貴方の爪は僕のおでこをツンツンしてましたよ? でもねえ、貫くなんてできない。
それにしてもやっぱり殺す気だったじゃないかあ。腕試しとか言いながら殺す気だったあ。
殺意が高いい。狸怖いい。もーやめてほしいよねえ。
そんなひどい魔族にはなんで僕が生きてるかは教えてあげない!
「えー僕の事を殺そうとしたから教えてあげないよう」
「ふ、ふざけるな! 絶対に! 絶対に何か! 何かズルをしているだろう!」
ちょっと……言うに事欠いてズルって……サイロスさん……それは大人としてどうなのう?
もーしょうがないなあ。じゃあ、せっかくだから疑問にお答えしましょう。
「うーん……ズルなんて僕はしないよう。単純に硬くなっただけなんだよう」
「か、たく?」
絶句である。
ま、それもそうか。自分の渾身のフィニッシュブローが敵を貫いたはずが、相手が硬いから毛程も刺さりませんでした。って言われたらそうもなるかあ。
むふふう、ざまああ。
絶句してもインキュバスが美しいってのはアレだけど。嫌なこと言ってくるからそうなるんだよう。
さあさ、追い討ち!
ご機嫌狸がお答えしよう!
「うん、狸の変化術でね。硬くなるやつがあるの」
そう!
僕はこの間の狸合戦で戦ったダンチンの変化術を会得していたのだあ。
身体の一部、もしくは全身を硬化させるヤツね。
どっかで使ってみたかったから、今回避けられない場面があってよかったあ。そこに関してはサイロスさんに感謝だなあ。普通だったら全部避けちゃうもんなあ。
「硬くなっただけで……? 私のドリームスラストが?」
「うん、そだね」
とは言ってもここまで硬くなるのは僕だけだったけどね。本家本元のダンチンでも僕とぶつけ合ったら、金色の装甲が割れてたよ。ちょっと涙目だったね。自慢の装甲だったもんねえ。
あ、そう考えると、サイロスさんの爪は無事かな?
「そうそう、サイロスさん、爪、大丈夫?」
気になる。
「爪?」
言われて気づいたサイロスさん。自分の右手を確認する。
そこにはあるはずの、妖しく美しく、伸びた爪が見当たらない。
まるで爪切りした後に気づいた深爪のように綺麗すぎるくらいに整っていた。ナイスネイリスト!
「……ない。私の……爪……ない」
呆然としてつぶやく。
「あーやっぱりないですよねえ」
硬化した僕とぶつかったならやっぱりそうなるよね。
なんでか知らないけど、下手な物質だとぶつかったら消滅するんだよね。
何だろ? 硬化の概念がおかしいのかな?
でもね。
ま、仕方ないよね。
僕に殺意を向けたんだから。
僕を殺そうとしたんだから。
それは全部自分に返るよ。
「さて、今度は僕の番かなあ?」
「……爪、ない」
ふむ、すでに戦意は喪失かあ。
でもね、まだ終わってない。殺意はちゃんと返すよ。僕はヤンデのように殺意に喜ぶタイプじゃないから。
ぶわり、と。
毛並みが膨らむように、自然に僕の殺意が膨らんだ。
「狸隠神流忍術! 風遁カマイタチ!」
溢れる殺意が忍術にこもる。
さっきのはタロウ。
次のはジロウ。
タロウは敵を転ばせるだけ。だから可愛い。
でもジロウは違う。
ジロウは敵を切り刻む。可愛いけど怖い。
身体は風で出来ている。風は全てが鎌になる。
「疾り、刈れ」
僕の言葉にジロウは一直線に。
たっぷりとタロウの匂いのついたサイロスさんへと向かう。
つむじ風にも見えるカマイタチのジロウは瞬間移動したかのようなスピードで移動する。
そしてそのままサイロスさんと身体を重ね。
抱きしめるでもなく突き放すでもなく。
ただ無感情に。
そこに止まる事なく通り過ぎて、サイロスさんの後ろへ数歩の所で。
そのまま自然の風となり大気へ返った。
サイロスさんはポカンとしている。
そうだろうね。本人としてはただそよ風が通り抜けただけという感触だろうから。
無傷で、ただ不思議そうな顔で呆然と立っている。
そこで少し我に返ったのか、瞳に光が戻り、僕を睨んで、口を開いた。
「は? なんだ、今の、ふぁ? しょ、よかじぇ、ばった、ば、な……」
そこで言葉は止まる。
うん、喋れないだろうね。舌切れてるだろうし。
無傷で。とは言ったけど。ごめんね、本当に無傷とは言ってないんだよう。
この世界の住人は知らないだろうけど。
カマイタチの鎌は遅れてやってくる。
痛みもなく、いつの間にか切れているんだよ。
切れてると。
観測されたら、切れている。
そういう概念。
「そっかあ。サイロスさん、無事でよかったねえ。手とかは動く? ちゃんと確認したほうがいいよう?」
言葉を失ったサイロスさんは僕の言葉を聞き、戸惑いながら手を動かした。
瞬間、ぼとりと落ちる腕。
それを皮切りに。
胴体から四肢の全てが離れた。
そうなれば。
当然、立っている事は叶わず、サイロスさんのかけらは地に落ちた。
ヨシ!
自然へと霧散したタロウの仇は取ったよう!
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