六十三.たぬきキョンシーと呼んでほしい
ユーリさんの代わりに魔王決定戦に出場して勝つんだって。
そういえば魔王決定戦があるとか、スキル取り放題とか、言ってたけど。
うーん。
僕はさ、ユーリさんの護衛を引き受けただけのつもりだったんだよなあ。
そのために、空を駆け。海を割り。地を揺るがした。
そうやってたどり着いた魔族の世界で僕を待っていたのはサキュバス、インキュバスの集落防衛部隊でした。
うふふ。
狸よりも勇敢だね、さすが魔族。
でもね。
まだまだあ! 全員ひっくり返ってお腹を見せてくれるまで驚かしたるでえ。
なんて考えながらバッサバッサと羽を羽ばたかせていたら。
あれ? え? 元の狸に戻んなきゃダメ? そなの?
……はあい。
変化を解いて元の狸の姿に戻った僕は、ユーリさんに脇を掴まれ持ち上げられた。
のびーん。
たぬきのびーん。
キョンシーたぬきポーズ。みんな知ってる? キョンシー。
あれを使う忍者もいたんだよ?
そんな体勢で、そのまま運ばれる。
あー揺れるー揺れるー、お肉がふるんふるんと揺れるよー、どうだー可愛いだろう? なんて感じで楽しみながら運ばれていると、ユーリさんの両親らしき人らとごたーいめーん。
あ、お二方とも、明らかにひいてますね。
わかります。
「ふむ……この狸が? 魔族の精鋭に勝って優勝する、と? なあ、ユーリ、何を考えているかわからんが、本気で優勝する気がないなら魔王になるなんて言わずに大人しく家で婿をとらんか?」
すっごい綺麗な男の人が僕とユーリさんに怪訝な目で見てくる。
まあねー。いきなり娘がもふもふな狸を連れてきて、これ、魔族全員よりも最強の狸だから、ヨロシク!
って言い出したら正気は疑うよね?
ましてや三十年行方不明だった娘だしね。
「お父さん、婿の話はいまする必要はありませんよ! でもね、ユーリ。それにしたって、その……たぬき? 狸が魔族の精鋭全員に勝つっていうの?」
「そうよ? この狸さんはあたしが見てきたどの生物よりも強いわ」
そんな娘の言葉に、両親は呆れたようにため息をついた。
娘の正気や洗脳を疑わないのは、ユーリさんが精神感応系スキルを保持している事を知っているからかな?
「少なくとも、お父さんもお母さんも、その狸の実力は信じられん……すまない」
「ま、そうよね。じゃあさ、試してみる?」
え? ユーリさん?
そこに僕の意志はありませんよ? せめてお墓の前で泣いてから言ってください?
僕、死ねませんけど。
「ふむ、それならば……狸が負けた場合は、魔王を諦めるんだな?」
「うん、その程度だったら仕方ないわ」
「じゃあ、相手は誰にするか……」
あれえ? えー? 僕の意志は? 僕の許可は?
なんて戸惑っていると後ろの方に控えていた防衛軍の中から声が上がった。
「私だ! 私が相手をしようではないか! そして私がその狸に勝ったらユーリと結婚させるという約束を果たしてもらおう!」
ん? なんか一石二鳥みたいな事言い出してるイケメンだなあ。
魔族の流儀的には結婚しかったら相手をぶんのめしたらオーケーみたいな感じなんだっけ? まあ、ご本人たちが良いなら良いんですけど……うーん、僕には馴染まないなあ。
などとむにゃむにゃ考えている間に、言い出しっぺのインキュバスさんが、走ってこっちに向かって来ている。うーん、走るだけで絵になるなあ。インキュバスってすごお。
そんなインキュバスさんを見て、ユーリさんが嫌そうにポツリと呟いた。
「あー、泣き虫のサイロスじゃない……」
大変不名誉な二つ名付きで飛び出してきたインキュバスを呼称するユーリさん。
さすがに泣き虫サイロスは、あのイケメンには不釣り合いな名前だと思うよう? 身体も割と細マッチョだし。人間姿の僕といい勝負するくらいにはかっこいいよう?
「お知り合い?」
相変わらずのびーんと持ち上げられたままの僕は、上を向く形でユーリさんの顔を見る。
「幼馴染よ」
嫌そうな顔ですね? 心の中でそう思うと、正解、嫌なのよ。としかめっ面で返ってきた。
なるほどね。訳ありですか。
ま、それはともかく。
「それよりもさ、魔王決定戦の代理とかさ、僕、なあんにも聞いてないんだけど?」
「うふふ、ごめんなさいねえ」
謝罪だと言うのに、この満面の笑顔である。
魅了を垂れ流すのをやめていただきたい。
「絶対思ってないくせにい」
「そうねえ。でも狸さん、スキルが欲しいんでしょう?」
「うん」
それを言われると弱い。
僕の研究者魂が震えて震えて、ついつい会いたくなってしまう。
「だったら手っ取り早いのは魔王決定戦に出て勝つ事よ? 魔族は自分より強い相手の願いは聞くわ」
ほう?
「それは……勝って、奪え、と?」
バローって事ですかあ?
「そ、魔族らしいでしょ?」
まあ、魔族らしさってのを僕は知りませんが。
要は、エンドレスバローっ事ですねえ。
「で、まずはあの泣き虫のサイロスに勝って、奪えと?」
「そう、なるわねぇ。あたしの事も守れるし、狸さんは新しいスキルも得られる」
ね? 望む所でしょうって顔をやめなさいよう。
でもね。
悔しいけど。
「しょうがないにゃあ」
望む所なのよねえ。
僕はユーリさんの腕の中からもふんと地面に降りた。
んふう、いっちょやるかあ。
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