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六十一.キンヒメの毛並みにユーリの扉がオープンセサミ

 僕の背中に涯てはない。


 ぬははあ。

 かっこよかったあ?

 今のかっこよかったでしょう?


 どうも狸です。


 お母さん、僕はいま空にいます。

 なんてねえ。


 うん。


 ……空飛ぶとテンションおかしくなるんだよなあ。


 と言うことで僕はいま魔族の世界に向かって空を飛んでいる。

 いまは早贄尖塔を越えて、断罪連峰を眼前に望んでいるくらい。


 人間の世界からここに至るまで。

 一時間ちょっとくらいかな? たぶん前世のジャンボジェットか、それのちょっと上くらいの速度を出している。

 すごくなあい? 狸すごくなあい?

 そうよ、狸はすごいんだよう? 冬毛の時にもふもふしてるだけじゃないんだよ?

 ドヤア、狸ドヤア。


 うん。


 ……空飛ぶとテンションおかしくなるんだよなあ。


 もうモノローグはやめとこうっと。


「キンヒメえ、寒かったりしない? 大丈夫う?」

 背中のキンヒメに問いかける。

 一応風魔法で防風結界は作ってあるけれど念の為確認だよう。


「ええ、大丈夫ですよ。実に快適な空の旅です。いつもありがとう、リント」

 キンヒメから返ってきた言葉は実にリラックスしていた。

 慣れたねえ。さすがキンヒメ。


 反面。


「ね、ねえ、キンヒメさん、あ、ああなた、すっごく落ち着いてるけど……これが落ち着いていられるの?」

 サキュバスのユーリ・エメラルダさんは歯の根も合わないご様子。

 ふふふ。そうでしょうそうでしょうとも。

 ミステリアァスなサキュバスさんもこの状態では流石に平静は保てないでしょう。

 狸、満足。


「初めてはそうなりますよね? 私もなりましたよ。なれますよ?」

 ふーんと鼻息混じりに狸姿のキンヒメがユーリさんに答える。


「な、なれなの? だってあたしはいま鳳の背中に乗ってるのよ? 鳳に接近遭遇して、腹の中じゃないのよ? なんなのこの状況? あたしが人間の世界に来る時にどれだけ鳳に追いかけ回されたかわかってる!?」

 うん、なんかムキーってなってるねえ。

 鳳が相当のトラウマらしい。


「そう、言いましてもねえ。なにせリントの事なので、深く考えたらダメですよう?」

 あれ? キンヒメ? そんな風に思ってたの?

 そんなにやらかしてないと思うんだけどなあ。

「そ、そうなのね……ってほんとにそうなの?」

 まだ納得していないご様子のユーリさん。


「仕方ないですね。特別にあたしの毛並みを撫でさせてあげますから、少し落ち着いてくださいな」

 え? キンヒメ? 僕以外に毛並みを許すのかい?

 待って! 待ってよう!


「はい? 毛並み? 撫でる? それで落ち着くわけないでしょう?」

 なんだとう!? キンヒメの毛並みを撫でた事ない癖にい! 撫でたら落ち着くどころか、堕ち着いちゃうからなあ! 覚悟しとけよう! ってやっぱダメだよう! それは僕だけのだよう!


「まあ、いいですから。絶対に落ち着きますよ?」

 絶対的自信のこもったキンヒメの言葉。

 それはどうやらユーリさんに響いたらしい。

「う、うーん。わかったわあ。物は試しね。じゃあここ来て、そうそう、あたしの足の間に」

 あー、僕の、僕だけのキンヒメの毛並みがあ。

 どうしよう。キンヒメがサキュバスに快楽堕ちさせられたら。

 僕の大好きなキンヒメがユーリさんに盗られちゃ……


 わ、ないな。うん、それはない。


 だってキンヒメの毛並みだよ?

 あのキンヒメの毛並みなら、逆にサキュバスすらも快楽堕ちさせるだろうなあ。


 うん。


 見てみたい。

 メスサキュバス。

 堕ちるとこ。


 と、いうわけで。ちょっと静観。


「はいはい、来ましたよ。ではどうぞ? 特別ですよ」

 ふふんとキンヒメの鼻がなる。

「なんだかあなたも大概に偉そうな狸ねえ、所詮毛並みでしょう? 気休め程度にしかならないだろうけど……どれどれ……ってえええええ! なにこれえええ! やばああああああああ」


 空の上に響く嬌声。


 ガバッと天を仰いだユーリさん。

 目を閉じて。

 息を大きく吸い込んで。

 再びキンヒメの毛並みに向き合った後は。


「はあ、はああ、はあはあ、やばあ、この毛並み、やばあ」

 小声で何事か呟きながらキンヒメの毛並みを優しく撫でるマシーンへと成り下がった。


 堕ちたなあ。


 ふむふむ、まあまあ、そうなるだろうさ。

 キンヒメの毛並みを他人に堪能させるのは業腹だが、そのリアクションに免じて許してあげよう。

 彼女の毛並みは、金の名を冠するにふさわしい。その毛色からは想像がつかない程のツヤと感触なのだあ。吸いつかれながらも反発されているという不思議な感覚に陥るほどの手触り、置いた手がどこまでも沈んでいくと錯覚する柔らかさ、それをひと撫でするごとにふわりと薫る華やかな香り。


 嗅覚と触覚と視覚を全てをキンヒメに奪われる。


 世の何物よりも触りたくなる。

 それがキンヒメの毛並みだ。


 くそう。ついに他人に知られてしまったか。

 たまに人間の姿になってキンヒメを撫でたくなるくらいには僕も中毒になっている。


 いいじゃない妻の毛並みを撫でるくらい!


 それにつけてもやはり毛並みを撫でるのは人間の姿が一番向いていると思う。

 これだけのために人間へ変化できるようになってもいいくらい。


 ククク。

 これでユーリさんもキンヒメの虜だねえ。

 サキュバスまでも虜にするとは。


 さすが僕の妻。



お読み頂き、誠に有難う御座います。

少しでも楽しかった! 続きが楽しみだ! などと思って頂けましたら。

何卒、ブクマとページ下部にあります★の評価をお願いいたします。

それがモチベになり、執筆の糧となります。

皆さんの反応が欲しくて書いているので、感想、レビューなども頂けると爆上がりします。

お手数お掛けしますが、是非とも応援の程、宜しくお願いいたします。

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