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五十四.あんな?人間ってな?概念になんねん

 ふう。


 僕は一息つきながら、王城の廊下を一人で歩いている。

 女王をなんとかかんとかわからせてから、僕はひとまずキンヒメの待つ貴族牢に戻る事にした。


 え? どうやってわからせたかって?


 うーん? 聞きたいの?

 じゃあ、貴族牢に着くまでねえ。


 女王はどうやら僕の殺気がクセになってしまったらしいのでそこからアプローチする事にした。上手くいけばアークテート王国での自由が保障されるかもしれないしね。

 なんというかこういうのは前世でとった杵柄ってやつだから得意ではある。


 好きではないんだけどねえ。


狸隠神流(たぬきいぬがみりゅう)忍術! 過去回想(かこかいそう)!」

 なんちゃって。


 ◇


 僕は殺気に喘いでいる女王に向けた感情をピタリ止めた。


「あ、がっは? あ、あれ、リント? 止まった? どうしたのじゃ、リント」

 急に止まった殺気(かいらく)に女王は戸惑った。


 それによって力が緩んだ女王の腕を引き剥がして、僕は女王と少しだけ距離をとって、少し屈み、視線を女王に合わせてから問いかける。


「女王、これ(殺意)、欲しいの?」


 女王にぎりぎり届かないくらい、うっすらと殺気をまとわせて、その殺気で頬を撫でるかのように、僕はにっこりと笑う。ただでさえ美しいハニガンの顔だ。鏡で見たらきっとゾッとするほど美しかっただろう。


「ああ、欲しい、ほしいのじゃ。リントの感情を、妾におくれえ」

 殺気を浴びてもいないのに恍惚となる女王。

 それだけ僕の表情と言葉が美しかったんだろう。


「そう、欲しいの? でもね、ダメだよ、あげない」

「があ! なぜじゃあ!? 妾は女王じゃぞ!」

 飢えた獣のように吠える。

 しかし僕にとって女王は獣じゃないし、捕食者たりえない。


「ほら、原因はそういう所だよ?」

「……何がじゃ」

 精一杯の威嚇を叱られて、途端に女王の尻尾は丸まる。


「ヤンデは、さ。国が好きだったでしょう?」

「そうじゃ……でも今はリントの方が好きじゃ」

 元カレの話をされたと思ったのか、イヤイヤと、赤い髪を振り、それでも潤んだ瞳は僕を見つめている。


「別に責めているわけじゃあないよ、ただね、国を愛していた時に見返りを求めていた?」

「い、いや、求めておらん。国は概念じゃ。見返りなど求められぬ。ただその成長を見ているだけで幸せだった」

「僕も、それと同じだよ。僕はヤンデにとって概念だ。僕が輝く事がヤンデの幸せだ。僕が自由に、無自覚に、放つ殺意を浴びていれば幸せなはずだ。違うかい?」

「ち、ちが……」う。妾はリントが欲しい。


 と言いかけた女王のくちびるを人差し指で閉じて。

 同時に軽く殺気をあててあげる。


「ちが……わないだろう?」

「あっ、はあ。違わない」

「いい子だ」


 僕は殺気を引っ込める。


「あ、ああ……」

 殺気を求めて女王の口が半開きになり、赤い舌が露わになる。

 ぬらっとした口の中から冬でもないのに白い吐息が漏れるようだ。


「欲しいんでしょう? でも、ね。ヤンデがキチンとわかるまでお預けだよ?」

「何を、妾は何をわかればいいのじゃ?」

 すがるように教えを請う。


「僕は自由なんだよ。殺気をだそうと、引っ込めようと、どこを歩こうと、誰といようと。逆に、ヤンデが僕に自由を与えてくれるならば、僕はどこにでもいるようになる。ヤンデがいると思えばいつだって僕はヤンデのそばにいる。わかるかい?」

「……妾が自由を認めれば、リントは妾のそばにいるようになるのか?」

 一瞬の沈黙の後、僕の言っている事を要約し反芻する。

 さすが一国の女王。


「ああ、そうだよ、ヤンデはやっぱり頭がいいね。そうすれば僕は君の中で概念になるからね。国と一緒さ。国はいつだって君のそばにいただろう?」

「ああ、確かに国は妾を裏切らないし、ずっとそばにいた。リントもそうなるのじゃな? わかった。アークテート王国の女王として認める、リントは自由じゃ」


 よし、っと。

 これで僕の目的は完了した。


「うん、それでいいよ。じゃあこの僕は、もう行くよ」

 帰ろっと。

 くるりと踵を返して歩き出す。


「……あ、ご褒美が、ほうびが欲しい」

 そんな僕の背中を弱々しく掴む女王。


 ほうび? むしろ与える側なのよね、貴女は。


 ま、いいか。


「ん? ほうび? もう与えてるよ、感じない? もう君の中で僕は概念だ。君が欲しがれば全方位から向かってくるよ。ほら、目を閉じて、世界に僕を感じて、試してごらん」

 僕の言葉に素直に従った女王はすぐに反応した。


「お、おおおおおお! 全方位からリントがあああああ」


「あ、一つ言い忘れてた。僕が存在するこの国の運営をおろそかにしたら、僕も同時に消えるから。国も変わらず愛してあげてね。国と僕は同じだと思ってねえ」


 中毒になりすぎて国が滅んだとか洒落にならんからねえ。

 釘は刺しておかないと。


「ああ、嗚呼嗚呼、わかったのじゃあ、リントおお!」


 身悶えながら返事をしている女王だった。


 ちゃんと聞いてたかなあ?



お読み頂き、誠に有難う御座います。

少しでも楽しかった! 続きが楽しみだ! などと思って頂けましたら。

何卒、ブクマとページ下部にあります★の評価をお願いいたします。

それがモチベになり、執筆の糧となります。

皆さんの反応が欲しくて書いているので、感想、レビューなども頂けると爆上がりします。

お手数お掛けしますが、是非とも応援の程、宜しくお願いいたします。

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