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五十.なぜこんなにダメ親父?

 アークテート王国。


 その王城、東棟の最上階にある貴族牢に僕らは閉じ込められている。

 牢とはいえど、貴族用の牢だから、まるでどこぞの高級ホテルのような室内で、普段土に穴を掘った巣穴に寝ている僕ら狸からしたら天国のような部屋である。

 まあ、牢らしい所といえば、窓に鉄格子がはめられていて、出入り口側には壁ではなく同じく鉄格子となっていて室内が監視できるようになっている事だけだけど、そんなのは瑣末な問題だよねえ。


「ふいー、おかしな事になったねえキンヒメ」

「そうですね、ですが、リントがしっかりと私を妻だと言ってくれたのは嬉しかったですよ」

「そう? 当然だけどねえ」

 うへへ、もっと褒めて。


 僕とキンヒメは同じ貴族牢の床でゴロンと転がり、重なっている。人間姿とはいえ、狸の習性は変わらず、とりあえずゴロンってして重なっているのが一番落ち着く。

 何よりもこの床に敷かれている絨毯がとても柔らかい。なんなら坩堝の森の下草よりよっぽど柔らかくてふかふかしている。そんな床にゴロンっとしないわけにはいかなかろう。


 幸いな事に、僕とキンヒメは同室に収監されている。

 別々に入れられてたら、僕は多分即座に脱獄してキンヒメの牢に向かっていただろう。よかったあ、普通は夫婦で同じ牢になんて入れてもらえないからねえ。どうやらここに僕らを収監した偉い人が、実質無罪の僕らに気を利かせてくれたらしい。

 女王以外はまともなんだねえ。


「にしてもリント、これからどうします?」

「うーん、どうしようねえ。逃げるのは簡単だけどさあ、ただ逃げたら、夫婦で観光も出来ないし、せっかくの新婚旅行が台無しになっちゃうよねえ。なんか良い案ないかなあ」

「そうですね、せっかくここまで来たのですから、私も後学のために人間の国は見てまわりたいですね」

「だよねえ……」


 のびーんとへそ天で寝転ぶ僕、その腹にぽてりと顔を載せて、横向きで寝転んでいるキンヒメ。

 傍目には悩んでいるようには見えなかろうが悩んでいる。

 そんな僕たちに向かいの牢から声がかかった。


「おい、そこの呑気な夫婦」

 向かいの牢に人がいるのはわかっていたけど、まさか話しかけてくるとは思わなかったなあ。


 さっきまでベッドで寝転んでたおじさんは、いつの間にか、僕らの牢に面した方の鉄格子の前に椅子を移動させてそこに座っていた。

 短めに整えられた赤い髪と、髪同様に整えられた赤い髭。

 おじさんはイケおじ風味の容姿に、高級そうな部屋着をまとい、椅子へ浅めに座って優雅に足を組んでいる。

 気楽でチャラそうな見た目に反して、そこはかとなく威厳があるおじさんだなあ。


 僕はヘソ天から起き直って、床に座り直した。

 キンヒメはまだ僕から離れたくないらしく、足と足の間に体をもぐらせ、僕の太ももを枕にしている。


 さて。


「なんか呼んだあ? おじさん、なんか用? 僕らをここから出してくれる感じ?」

 ダメもとで聞いてみる。

「バカ言うな、見ての通り、俺もお前らと同じく牢獄の住人だ、そんな権力あるわけねえだろうが」

 だよねえ。

「収監されてるって事は、おじさんも女王を怒らせたの?」

 怒らせた。その言葉に一瞬おじさんは驚いた表情を浮かべたが、すぐにまたチャラい感じの表情に戻った。


「ま、そんなもんだ」

 って言っているが、肩をすくめて、表情は笑っているし、明らかに誤魔化している。

 絶対に違う理由だろうよう。ま、どうでも良いけど。

 おじさんは笑って続ける。

「も、って事は、お前らはあの女王を怒らせたのか?」

「うん、すっごい怒られた」

 僕が答えると。

 おじさんはへー、と一声感心して、ざらりと口元の髭を撫でた。

「どうしたの?」

 僕は問う。

「いや、あの女王をよく怒らせられたな、と思ってよ。俺の知るあいつは国家の利害だけで生きているし、そのためなら、感情なく、淡々と、親だって殺す女だぜ。怒りとかないもんだと思ってたぜ」

「そう? 女王様は前回も今回もとっても感情的だったよ?」

 うん。初めて会った時から感情的だった。

 鳳王の霊羽に魅了されていたし、僕の首を切ろうとしてた時は冷静だったけど、結婚だなんだの話を持ち出した時には結構弱気な所を見せていたし、手の甲に別れの口づけをした時なんてあばばばしてたよう?

 それをおじさんにやんわりと告げる。


 おじさんは驚き、キンヒメはむすっと怒って、なぜかヘソに鼻を突っ込んできた。

 ん、キンヒメえ、なんでえ。やめ、くすぐったあい。


 だめえ。


 そんな僕とキンヒメの軽いじゃれつきの終わりを待って、おじさんは口を開いた。

 

「くく、そうか、お前ら、いやお前が噂の男か」

 おじさんはまた口ひげをざらりと撫でた。

「噂ってえ?」

 やめてよう、くしゃみしちゃうよう。

「女王に国より愛された男って噂さ」

「えーなにそれ!?」

「聞き捨てなりませんね。リントは私の夫です!」

 キンヒメが再びヘソに鼻を突っ込んでくる。くすぐったいからやめてえ。


「おじさん、変な事言うのやめてよう。キンヒメが怒っちゃうんだからあ」

「すまんすまん、でもお前も楽しそうじゃねえか」

「えーそんな事ないよう」

 楽しいですけどね。謙遜しておきます。

 そんな否定の言葉に、キンヒメが反応した。

「え? リントは楽しくないのですか? じゃあもうやめますね」

 ダメダメ。

「あ、本当は楽しいです。もっとしてください」

 やめないでくださいお願いします。

 クセになっているのです。

「なら良いのです」

 にっこりと柔らかく笑う可愛い妻。


 キンヒメもわかっていて言っているし。

 僕もわかっていて言っている。


 にへらと笑い合ってから。


 僕は膝の中のキンヒメの金色の髪を軽く撫でる。

 キンヒメはその手の感触に嬉しそうに頬を太ももに擦り寄せてくる。


 そんな僕ら二人を、おじさんは目を細めて見ながら、再び口を開いた。


「しかしなあ、噂の男ってのはどんなやつかと思ってたら、ただのバカ夫婦だったとはなあ」

「えー、嬉しいなあ」

 お褒めいただきありがとうございます。

 バカ夫婦ってのは素晴らしいですよう。

「お、よく褒めてるってわかったな。良い夫婦ってのはバカだよな」

 あ、ほんとに褒めてた。

「そうそう、難しい顔して二人でいたってつまんないしねえ。これくらいが良いよねえ。これがわかるって事は、おじさんも奥さんはいるの?」

「おお、いたな」

 懐かしそうな顔をする。

 そうか。いた、なんだな。牢の中にいるんだもんな。訳ありだよね。


「変な事聞いちゃった、ごめんね」

「いや、構わんよ、末娘を立派に産んでくれた結果だ。よく頑張ってくれたよ」

 そっか。前世でもお産ってリスク高かったもんねえ。この世界だとそれよりもリスクが高いんだね。

「おじさん、娘さんがいるの?」

 牢の中にいる親とそれを待つ娘かあ。ドラマが始まるなあ。


「おう、いるぜ。お前と同じくらいの歳だな」

 そっか、おじさんって僕の父親くらいの年齢なのねえ。それにしては若く見えるよう。若見えイケおじ。


「すごいね! おじさん、男手ひとつで娘さんを立派に育てたんだねえ」

 簡単に出来る事じゃないよう。

 誇っていいと思う。おじさんの娘だとちょっとチャラく育ってそうだけどねえ。ラクーン808のメスみたいに怖い感じの娘に育ってそう。


「おうよ! 立派に育って、今はこの国の女王だ」

 女王?


「は? 女王?」

 おじさん大丈夫?


「そうだ、このアークテート王国の女王、ヤンデ・ローズに育ったな」

 目の前には自信満々に答えるおじさんがいる。


 は?


お読み頂き、誠に有難う御座います。

少しでも楽しかった! 続きが楽しみだ! などと思って頂けましたら。

何卒、ブクマとページ下部にあります★の評価をお願いいたします。

それがモチベになり、執筆の糧となります。

皆さんの反応が欲しくて書いているので、感想、レビューなども頂けると爆上がりします。

お手数お掛けしますが、是非とも応援の程、宜しくお願いいたします。

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