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四十二.怒りで穏やかに全てを体に

「覚悟はいい?」

 感情のない僕の声。


「覚悟すんのはてめえじゃあ、ぬすかすう!」

 僕を完全に舐めているダンチンロウは、不敵な笑みで僕を見ている。


 そうだよね。

 僕は無表情だもんね。

 ビビってると思うよね。


 でもね。

 違うの。


 僕、怒ってるの。


 怒って無感情になるの久しぶりだなあ。

 前世でも滅多になかったけど、今世では初めてだなあ。


「なんじゃあ? ビビっちまってお返事もできなくなったのかあ? おん?」

 目線を落とし、無言になった僕を完全に勘違いしている。


「うん、そう思うなら、それでいいよ」

 僕は肯定する。


「おうおう! ほんなら優しく痛めつけてやるからの! じゃあーー」


 行くでえ!


 ダンチンロウは気合のこもったいい声でそう叫ぶ。

 途端にその身体に変化が起こる。


 足が、腕が、胴が、キンタが。


 一瞬で硬質化した。

 否。

 硬質ではない。


 金色に輝いているその姿、これは硬質化を通り越して金属化している。


 全身を金属の鎧を纏った状態になっている。

 それに合わせてダンチンロウの大きさも変わっているし、フォルムもすでに狸のそれではない。


 体長は二足で立った狸状態の僕の五倍位で、巨人と呼んで差し支えないサイズ、スタイルはスラっとした長身、細身の二足歩行。その体表面はつるりとしている。

 今は顔は覆われていないが、この調子なら、最終的には顔も覆うんだろうなあ。


 そうなったら、おおよそこのファンタジー世界には似合わない近未来的な見た目になるだろう。

 うーん。前世で見たモノに似たようなやつがあったなあ。たしかあ……脳波を増幅した電気刺激で、身に纏った流体金属の形を変化させながら動作させるパワードスーツだった。あれは軍事用品だったと思うけど。うちの流派でも技術協力したんだよなあ。

 それに似ている。

 こんなの、この世界においてはオーバーテクノロジーが過ぎて、あんな能力を持ってれば、そりゃあ増長もするだろうと、ダンチンロウの言動に少し合点がいった。


 しかしそれは目の前の狸を許す理由にはならない。


 絶対にわからせてやる。


「どうじゃあ? この金色の姿こそキンヒメにふさわしい姿じゃあ! ほれ、わいの姿を見て、てめえも絶望したじゃろう?」

 なるほど、金色つながりでキンヒメに執着してるのかあ。

 納得ぅ……って、するわけなくない!?

「いや、別に? しないけど」

 絶望も納得も、しない。

「ぐはは! 強がりをいうなあ! わいのこの姿を見て生き残った奴は滅多におらんからのう! 覚悟せえや!」

 その言葉を言い終わるタイミングで、僕の予想通り、顔の部分も身体と同じようにつるりとした金属に覆われた。


 その姿を見て。

 ああ、やっぱり僕の予想通りだなあ、と思った瞬間。


 その場からダンチンロウが消えた。


 あ、大丈夫。

 僕にはしっかりと見えてるよう。忍者の動体視力をなめたらあかん。


 そこそこのスピードだからきっとリキマルやキンヒメには消えて見えてるだろうって事ね。


 消えたダンチンロウは真正面から僕にパンチを放ってきているよう。

 その右手の先端は金属状でするどく尖っている。おーこれ当たったら確かに死ぬし、この速度でのパンチを避けられる相手は滅多にいないだろうなあ。


 まあ僕は避けるけどね。


 スッと。


 一瞬の後、後方でメキメキバリバリとした破壊音をたてて森が哭く。


「なあんじゃあ!?」

 狸も哭いた。

 僕に攻撃を避けられたダンチンロウは勢い余ってそのまま直進、止まる事ができずに木の幹に衝突していた。きっとあの攻撃を避けられた事なんてないんだろうな。

 確かにねえ。あれなら大蜘蛛ですら一撃で土手っ腹ぶち抜けるねえ。


 でも。

 それは僕に、じゃあない。


「てめえなにしたんじゃあ!」

 戸惑いを怒りで誤魔化しながら、こちらに戻ってくるダンチンロウの顔はぴかぴかの鏡面仕上げで、表情はわからないけども多分中の顔は真っ赤っかだろうねえ。

「避けたんだよう」

「狸がアレを避けられるワケがねえんじゃあ! てめえ薄汚ねえマネしとるじゃろうがあ!」

 いや、してないよう。避けただけえ。

「うーん、そんな事するまでもないけどねえ。ただ早いだけの尖ったパンチだし……あ、刺さると危ないから、それ切っといたよ」

 僕が指さす先。

「は? なんじゃああこりゃあああ!?」

 その先にある自分の右手を確認したダンチンロウは驚く。

 そこにはスッパリと途中から切り取られた自分の右手があったから。


 あらま、顔を覆われてても視界は確保されているのねえ。

 有能。

 じゃあこれも受け取れるでしょう?


「ほい、返すよう。これが本物の腕ってわけじゃないんでしょう?」

 僕はすれ違いざまに切り取った腕の金属部分をダンチンロウに放り投げた。

 あまりの驚きにダンチンロウはうまくそれを受け取れず、身体に当たって、重めの金属音を鳴らしてそれは地面に落ちた。

「これを、わいのこれを切った、じゃあと?」

 ああ、そうだよ。

 自慢の金属化。自慢の速度。自慢の硬度。自慢のパンチ。

 全部を。

「切ったよう。そしてこれからは僕の番。腕と言わず、全部全部、キンタの根元まで切ってあげる。そして切るだけじゃない。潰すし、擦るし、溶かすし、燃やすし、凍らせるし、蒸発、させる」

 キンヒメを物扱いした君には。

 僕の全ての変化、僕の全てのスキルを使ってわからせてあげるよう。

「は……は? そ、んな事、できるわけねえのじゃあ、わいらは狸やぞ……」

 普通はね。

 でも僕は普通じゃない。今回ばかりは普通じゃなくていい。それに普通じゃないのはお互い様じゃない?

「うん、狸だよう。怠惰だし、戦いは嫌いだし、怖ければ逃げるし、驚けば気絶する」

 それだけじゃないけれど。

「て、事は、今言ったのは、やっぱり……は、ハッタ、リじゃあ、なあ?」

 そう思いたい気持ちはわかるけどね。

「違うよう。僕にはできる。見てて」

 静かに僕は印を結ぶ。


「は、は……は」


狸隠神流(たぬきいぬがみりゅう)忍術! 鵺変化(キメライド)!」


 全ての変化を。

 僕の身体に。


 (フェニックス)を。大蜘蛛(ビッグスパイダー)を。人間(ヒューマン)を。洞窟狼(ケイブウルフ)を。毒蜥蜴(バジリスク)を。屍人(グール)を。油蝙蝠(オイルバット)を。火蜥蜴(サラマンダー)を。人間土竜(ノーム)を。風精霊(シルフ)を。


 今の僕の変化の全てを。

 この身におさめる。


 その姿はまさに異様にして威容。


 風を、炎を、氷を、土を、毒を、酸を、糸を、牙を、爪を、羽を。


 そして知性を。


 自在に操る。


 化け物。


「さ、こっからは僕の番だよう」


 どこが顔かもわからない。


 でも僕の顔は確かに。


 ニヤリと笑った。




お読み頂き、誠に有難う御座います。

少しでも楽しかった! 続きが楽しみだ! などと思って頂けましたら。

何卒、ブクマとページ下部にあります★の評価をお願いいたします。

それがモチベになり、執筆の糧となります。

皆さんの反応が欲しくて書いているので、感想、レビューなども頂けると爆上がりします。

お手数お掛けしますが、是非とも応援の程、宜しくお願いいたします。

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