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百二十一.人間のしがらみを狸が垣間見

最終話 1/2。

 僕らの世界創生(ケーキ入刀)で、歪んだ世界は全て元に戻った。


 ……んだけど。


 歪んだまま動いていた世界を一気に元に戻すとどうなるかなあ?


 そうです。

 反動が出ますねえ。


 神隠しにあって、異世界からの侵略者の魂に操られていた人間たち……まあつまりは、僕が調子に乗って首を刈りまくった人間たちは、救世主の力で強まった時間魔法によって、その命を戻した。


 それ以外の人間たちも魔族や鳳、坩堝の森の獣と殺し合ってお互いほぼ全滅になっていたが、それも時間魔法で元に戻った。その過程で大多数の世界防衛連合軍は赤目の忍者軍団と相打ちになっていたので、それらも時間魔法で元に戻った。


 流石に鳳王であるドナルドや魔王のロンさんなんかは、余裕で無事だったけど、灰司の空間魔法を破る事ができずに閉じ込められていた。そんな強力な異空間に、生き返った人間も、生き返った魔族も、生き返った鳳や獣も。


 全部が異空間に捕えられていたので。

 これを救世主パワーの空間魔法によって一気に解放した。


 となると、どうなるか。

 まあ、もちろん、大混乱だよねえ。


 だってさあ、人間の世界にいきなり魔族と鳳と坩堝の森の獣が出現するんだよう? 神隠しにあっていた人間たちは体を乗っ取られていた記憶なんてないから、状況としてはいきなり知らん場所にポンっと放り出された状況で。しかも目の前にはでっかい鳳やら、おっそろしい魔族やら、凶暴な獣がいるわけだ。


 大パニックだったよう。もしかしたら異世界からの侵略よりも凄かったかもしれない。いやむしろ異世界からの侵略中は静かだったんだよなあ。は、あれは嵐の前の静けさだったか!


 なんてバカな事を思っちゃう位に。

 逃げる、戦う、叫ぶ、転ぶ、の阿鼻叫喚オンパレード。


 もちろん、魔族や鳳や獣たちに敵意はないから、そんな混乱した人間たちを襲う事はないけれど、そんな事は市井の人間にわかるわけもなく。みんな王城に助けを求めて殺到した。その中には衛兵なんかも混ざっていたし、騎士も、貴族も、平民も、みんながみんな王に助けを求めていた。

 その時に僕らは王城にいたんだけど、この国の王族はちゃんと民に信頼されているんだなあ、と感心していると。


 いつの間にかに、そんな尊敬の対象であるヤンデが僕の横に立っていた。

 一緒にオヤジとリキマルとリケイも居る。全員無事なようでよかったあ。

 どうやら偶然合流して、そのまま僕のいる所までやってきたらしい。僕とキンヒメが、ヤンデの無事を喜んで、さっき思ったこの王族への評価を、そのまま伝えたらすごく喜んで気絶しそうになっていた。


 その間も国民は大挙して王城に押しかけてくる。衛兵も騎士も民衆と同じように逃げ込んでいるのだから、城のセキュリティなどあってないような状況で、僕らのいる中庭も、人がいっぱいのぎゅうぎゅうで、人の多さで二次災害が起こりそうな状況になっていた。


 けれど。


 実際はそうはならなかった。

 彼がそうはさせなかった。


 その彼とは誰あろう。


 ガッチ・ローズ前国王だった。


 いつの間に現れたガッチさんは、王城のバルコニーに立ち。


 強く、優しく、威厳に満ちた声で宣言する。


「聞けえ! 民衆! 我らはあ! 異世界からの侵略戦争に! 勝利したあ! 街中にいる! 魔族の皆々や! 鳳や! 獣たちは! 全てこの世界を共に守った功労者であり! 敵ではない! 恐れるな! 敬意を持ち接すれば攻撃はされない! 現に今も彼らは我らを傷つけないであろう! 彼らは共に勝利を祝う仲間だ!」


 どうやらその声には魔法が乗っているらしく。この王都の全ての人間に届いているようで。

 民衆はその声、ガッチさんの威厳のあるその姿を見て、一瞬だけ呆気に取られたが、しかしそれはすぐに熱狂へと変貌した。熱狂は圧倒的なガッチコールとなって、それは大きな渦となった。


「ガッチ! ガッチ! ガッチ! ガッチ! ガッチ!」


 USAみたいになっとるけれど。もちろんこれには、当然仕掛けがある。

 普通だったらいきなりさ、

「戦争が始まっててそれが勝利で終わってて、そこらに溢れてる異形は味方です」

 そんな事言われても信じられんと思う。だって民衆は戦争のせの字も知らない間に負けていたのだから。それでも民衆はガッチさんの言葉を盲目的に信用した。


 それはなぜか。


 答えは簡単、隣にはユーリさんが立っているからだ。


 はあ、やりおったわあ。ガッチさんの声に精神干渉系の魔力のってるもの。そりゃあ、あっという間に信用するよう。一歩間違ったら洗脳だよう。やばいことするなあ。こわこわあ。なんて考えてたら、そんな僕の心を読んだのか、ユーリさんは僕を見てにっこりと蠱惑的に微笑んだ。だからこわいのよう。


 とはいえ、この状況を瞬時におさめるにはこの方法が一番いいと僕も思う。あのまま混乱し続けていたら世界を救うために戦ってくれたみんなに、人間が徒党を組んで攻撃をしかねない。そうなったら今度は内戦だ。せっかく守った世界がまた傷つくのは耐えきれない。


 だから。

 いい方向に導くならアジテーションも悪い事じゃないんだよなあ。


 しかしそれが気に入らない人間が一人隣にいます。


「クソ親父ぃ……美味しいとこだけ持っていきおってえ。わらわが……わらわがどれだけえ……」


 唇を噛むヤンデです。

 そりゃそうだよねえ。この国が侵略されている間に孤軍奮闘していたのはヤンデなんだからねえ。ガッチさんはむしろ侵略者にいいようにされてた側だしねえ。それをいうと僕も同じ側だから、口が腐ってもそんな事は言えないけどねえ。でもねえ、ヤンデの気持ちもすごくよくわかる。僕も前世はそっち側だったから。


 仕方ないから、僕だけはそれをわかっているよ、と優しく頭を撫でたら、今度は本当に気絶した。


「実存のリントが……概念のリントを超えるのじゃあ」


 なんて倒れぎわに言っていたから、オヤジのキンタの上に寝かせておいた。

 くさそうだなあなんて眺めているとヤンデが寝言を漏らす。


「ああ、ほのかにリントの香りがするのじゃあ」


 ショッキング。

 待って! 僕のキンタはそんなにくさくない!

 むかついたので軽くデコピンしたら、ヤンデは二ヘラと笑った。

 くそう、無敵かこいつ。


 ◇


 こんな感じで、ガッチさんが現れてその場はいったんおさまって、戦後の後始末が始まるのだけど、女王のヤンデはというと、ここまでの孤独な戦いで疲れ果てて、僕のデコピンで気絶したまましばらく目を覚ます事はなかった。そりゃそうだよなあ。ゆっくり養生するといいよう。


 そんなヤンデの代わりに、ガッチさんが王代理になったんだけど、この人、無能なフリをしていただけで、実はくそ有能だったんだよねえ。おかげでとてもハイペースで戦後処理は進んでいくわけだけれど、このガッチさんの行動に僕らも巻き込まれて忙殺されるわけである。


 狸がいくらやだよう。とは言っても、百戦錬磨の手練手管で僕らは巻き込まれていく。


 まず。

 人間の貴族たちへの状況説明に伴って。

 僕らは救世主夫妻として紹介された。


 これは本当にいやだったよねえ。

 全員元に戻したから、いけすかない人間たちまで蘇らせてしまったので、とっても不快な奴らに絡まれる事になったよう。なまじ僕がハニガンの姿だったから、妾の推薦やら貴族への復帰やらを強要されるし、ハニートラップもしかけてくるし、挙句の果てにはキンヒメを妾にしようとする貴族までいて。


 これには僕もブチギレた。


 んで、仕方ないから全部、異空間にしまっちゃった。

 へへ、ゲヘナの火で燃やさなかっただけ穏便だよねえ。

 何回かそれを繰り返していたら、いつの間にか静かになったから、よかったよかった。

 ガッチさんもめんどくさい奴らが消えて、助かったらしいし、めでたしめでたし。


 大変だったのはそれだけじゃなくて、そこから残った貴族や商人やらの人間の有力者に、魔族や鳳を仲介して紹介しなきゃいけないのもあって、これはそこまで嫌じゃなかったけど、本当にめんどくさて退屈だった。

 だってさあ、何回も何回も同じ事を繰り返すんだもん。

 変わるのは紹介先の人間だけ。ロンさんやドナルドも軽くうんざりしてたよう。


「これって本当に必要?」


 あまりの退屈さに我慢の限界を迎えた僕は。

 一度、謁見の間で、多くの貴族や魔族と鳳に囲まれた状況で、ガッチさんにそう確認した。

 するとガッチさんから返ってきた答えはこうだった。


「すまないな、千年先まで人間がこの脅威を伝えるのにこれは絶対に必要なのだ。今回、人間は何もできずに敗北し、魔族と鳳と救世主にただただ救われた。これを恥の記憶と反省の記録にしなければならない。魔族や鳳の方々との連携不足も原因だったと思うから、これも強化したい。それらの全てをつなぐ事ができるのは、リント殿とキンヒメ殿の救世主夫婦だけなのだ。だから、すまないが今回だけは協力してくれ」


 そう言って、深々と頭を下げられてしまった。この頃には王代理からちゃんとした王に復権していたから一国の王様から頭を下げられた事になる。さらに言えば隣にいる新王妃のユーリさんにも一緒に頭を下げられてしまった。


 くう、これじゃあ断れないじゃないかあ。


 でもまあ、そういう目的なら仕方ないなあ。


 協力するのもやぶさかではないよう。戦争の記憶がないというのなら思い出せばいいんだよねえ。

 ならばこうだ、と僕は実際王都の人間がどうなったかを、「狸隠神流(たぬきいぬがみりゅう)忍術 幻影幻肢痛覚陣(過去回想シーン)」を使い、その身に痛みをもたらして教えてあげると、過去回想から目覚めた後には、皆一様に自分の首を触って、命がある事を泣きながら喜んで、天を仰いで大きく体を震わせた。


 それを見せてから、死んだ貴方たちを救ってくれたのは魔族のみんなや、鳳のみんなだよ。と優しく教えてあげれば、貴族たちは一様に己の無力さを恥じて反省してるように見えた。


 うんうん、はじめからこうすればよかったねえ。

 これで一千年後に今回みたいな体たらくにならないかな?

 うーん、どうかな? 人間は忘れっぽいしねえ。


 まあ、きっとガッチさんとユーリさんが王位についていればキチンと後世に伝えていってくれるだろう。


 丸投げ丸投げえ。


 こんな感じで人間世界の後処理は続いた。


 早く帰りたあい。



次話で終わります。

AM10時に投稿予約済み。

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