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百十七.不条理ペテン師の勝利宣言

 それはまるで弾幕のように降り注ぐ。


 天雷。


 どうやら欄人がムキになっているようで、雷はキンヒメだけを狙う。


 一見すると、隙間なく降り注いでいるように見え、逃げ場などどこにもないように思えるが、しかしキンヒメには全部見えているようで、降り注ぐその全てを華麗に避け続けた。身体がブレたり揺れたりして見えるのは残像か、幻像か、まるで忍者みたいだなあキンヒメ。


 まるでショーのようにキンヒメは舞い続け。


 まるで特殊効果のように雷は火と光となって舞台を彩る。


 僕の妻は本当に綺麗だなあ。


 なんて僕が呆けている間にも時間は経ち、ある程度避け続けた所で、段々と雷のテンポはゆったりに変わり、キンヒメの舞踏もまたスローダウン。


 そして。


 まるでショーが幕を引くように。


 ふっと雷が止んだ。


 しかし、雷を落とし、天に浮かんでいた黒雲はいまだ残っていて、それらは僕らから少し離れた場所に一気に集まって、なんらかの形を作り始めた。むう。なんかムカつくから軽く炎やら毒やらを黒雲に浴びせてみたけれど、一部が欠損するだけで大勢には影響がないみたいだった。


 その行先を見てみれば。


 その黒雲は段々と人の形を成す、集合する雲の密度は段々と増し、形作る人のディテールが固まっていって。

 最終的に成したその人の形。

 それは。


 土戸欄人だった。


 ガッチさんの姿ではなく。僕が知っている。前世そのままの姿の。

 ここにいるはずのない土戸欄人の姿だった。


 あり得るはずもない。だって異世界からの侵略に肉体そのものを送り込む事はできていなかったはずだし、今の一瞬でそれが出来たとも思わない。だからこそ灰司も欄人も現地の人間の体に魂を割り込ませて乗っ取った。

 何よりも欄人の性格上、絶対に自分の本体を晒す事はあり得ない。


 これはなんだ、と。


 僕は。


 よく見る。

 よく嗅ぐ。

 よく聞く。


 ふうん、と。

 僕の鼻がなった。

 ああ、なるほど。大体は理解した。


「リントリント、あれ、だれですか? ガッチさんは?」


 急に見慣れない陰鬱な男が目の前に現れて焦っているキンヒメが僕に駆け寄ってきて男の正体を問う。はあー、焦ってる顔も可愛いなあ。さっき踊り終わったとは思えないほどに全く息も切れていない。ただ少し頬が上気し、額がしっとりと汗ばんでいるだけだ。むふう、汗の匂いすら花のように芳しいんだよなあ。どうなってるんだあこれえ。


 ってダメダメえ、侵略者の首魁が目の前にいるってのに流石にボケすぎだなあ。


 改めて、欄人に視線と意識を向ける。

 ふーむ、汚いおっさんだ。

 欄人は今までのっとっていたガッチさんの、あの王様然とした風貌があったからこそまだ見れる姿だったけれど、久々に元々の姿を見るとほんと嫌な感じの男だよねえ。言いたくないけど、正直、前世の僕に似てるよ。死神みたい。


「あれがさっきまで戦っていた土戸欄人の本当の姿ぁ……って言えるのかな? わかんないけど前世ではあいつはあの姿だったんだよう。ガッチさんはどこだろう」


 この辺りには気配はない。

 でもここからは逃げられないからこの中に異空間を作って隠しているんだろう。


「でも……なんであそこで止まってるんですか?」


 確かにそうだねえ。

 正体を現したのならさっさとかかってくればいいのに。罠かな? それともさっきの雷遁で力を使い果たしたかな? 後者が妥当かな? あの黒雲の正体が僕の推測通りならそこまでのスタミナはないはずなんだよな。


 わかんないから、聞いてみるか。


「……あんたとその姿で会うのはほんと久しぶりだね。ねえねえ、それ、ナノマシンでしょう? 落雷も、それでやってたんだよねえ。僕と共同開発していたナノマシン忍法完成してたんだねえ?」


 おそらく。あの黒雲の正体はナノマシンだろう。

 僕とあいつで、蟻装兵をベースに、それを超小型(ナノマシン)化して、群体として運用する事であらゆる場面に対応可能な兵器とするべく開発をしていたのがコレ。


 ハードとしては完成していて、それをどうコントロールするかが課題だったけど、さっきの雷遁や、今こうやって欄人の姿を形作れている状況を見るに、どうやらその辺もクリアになって完成しているらしい。人間の体を異世界に送る事はできなかったけど、ナノマシンならこっちの世界に転送できたって事かな? それとも空間忍法をこっちで進化させて運べるようになったのか。そこら辺はわかんないなあ。


「ねえ、あの苦労してた制御方法をどうクリアにしたのう? 教えてえ」


 わかってるんだよう。こんな話をしている場合じゃないのはわかってる。敵が目の前にいて、一見弱ってるように見えているんだからさっさと倒しちゃえようって僕も思う。


 思うんだけどさあ。

 ……でもさでもさ、気になるんだよねえ。僕の悪い癖だあ。だって前世で開発途中で制御方法の解決策に困った挙句にペンドしてたプロジェクトなんだよう。気になるじゃあん。

 欄人、教えてくれないかなあ。


「はあ、魂操作だよ」


 あらま、あっさり。

 へへ、教えてくれるんだねえ。


「そっかあ、魂操作かあ、なるほどねえ。なんだかんだ、あんたってやっぱりすごいよね」


 魂操作の一言で。

 それだけで理解できた。

 そっかあ、そういうアプローチかあ。人間の脳で統合制御する方向は完全に手詰まりだったからねえ。なるほどなるほど、魂操作忍法をそこまで習得してなかった僕には考えつかない発想だったなあ。

 きっとこっちの世界に来るための魂操作忍法の研究開発の過程で、ブレイクスルーが起きて、そしてそれを応用して、分霊を全てのナノマシンに宿して操作できるようになったって事ねえ。

 すごいなあ。ナノマシンの群体に意識を残し続けておけば不老不死もほぼ叶ってるんじゃない? 異世界侵略も結果は別にして実行まではできてるし、なんか欄人の世代で神農流忍法の長年の悲願がほぼほぼ結実してるじゃん。


 すごおい。


 と素直に思う。


 でもね。


 その功績は絶対に残させないよう。


 魂の一端でも僕の前に晒したって事はさ。

 灰司と同じになるんだよう?


「その姿を見せて、その説明をした瞬間に、あんた負けてるけど、わかってる?」


「はあ、わかってる」


 欄人も灰司の顛末はわかっているんだろうねえ。

 ん、て事はだよう?


「負けるってわかってて、出てくるって事は……」


 あ、陽動だあ。

 そうか、これは命を賭けた陽動だ。こいつは、そういう奴だった。


 僕が理解したのを表情で察した欄人は穢らわしく嘲笑う。


「ああ、そうだよ。狙いはそっちだ」


 欄人の顎がノイズのように動いて僕の背後を指し示す。


「しまった! 狙いはキンヒメか!」


 振り返った先にいたのは。

 口の中へと大量の黒いモヤが流入し、天を向いて喘いでいるキンヒメの姿だった。


「はあ、その女、救世主に覚醒して間がないな。未来が見えるようになったらしいが、意識の埒外は見えないらしい。なあ、哲人、俺はお前に負けて死ぬだろうけどな、ただでは死なんさ! お前も救世主も世界も全部を苦しめてから死ぬよ。そいつの体内で自己増殖するように命令した。お前も知ってるだろう、このナノマシンは人間の体の中で無限に増殖できる! 俺のナノマシンに体を喰い破られて死ぬがいい! はあはは! 救世主が死ねば! この世界も傷を癒す事ができまいよ! はあはは、はははあはあ!」


 勝ち誇ったように、ため息まじりの奇妙な笑い声を上げる欄人。

 ヤツなりの勝利宣言だ。


 きっとこれで満足なんだろう。

 そういう性格だ。自分が負ける。自分が嫌な思いをする。自分が苦しむ。


 ならば。


 お前らも全員が同じ思いをしろ!

 と、そう考える人間だ。


 なら望み通り。

 まずはお前から死ね。

 見たい未来だけを抱いて。


 死んでいけ。


 そんな僕の意思に呼応するように。

 欄人の足元に陣が浮かぶ。


 そこから欄人も逃げる事はない。

 大半のナノマシンをキンヒメに回しているから動けないのだろう。


 でもそれだけじゃない。覚悟をしているんだ。

 自分の死を。

 そんな欄人は僕を見て嘲笑う。


 だったらさ。

 僕も今だけは前世のように、陰鬱な笑顔で返してあげるよう。

 せめてもの手向けだ。息子として殺してあげる。


神農(じんの)流忍法  量子地獄炎陣(ゲヘナの火)


 声と意思が奔り。

 陣から瞬時に炎が燃え上がる。


 その炎で欄人を形作る物質の全てが一瞬で燃え尽きた。

 灰も残さない。そしてその炎はそのままどこまでも伝播する。

 時間も空間も世界線も越えて。


 お前を焼き尽くすだろう。



お読み頂き、誠に有難う御座います。

少しでも楽しかった! 続きが楽しみだ! などと思って頂けましたら。

何卒、ブクマとページ下部にあります★の評価をお願いいたします。

それがモチベになり、執筆の糧となります。

皆さんの反応が欲しくて書いているので、感想、レビューなども頂けると爆上がりします。

お手数お掛けしますが、是非とも応援の程、宜しくお願いいたします。

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