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百十六.貴方と居たいと見える未来

 欄人の気配が変わる。


 元々はガッチさんの風貌でありながらも、そこから王家の威厳とかは一切消え失せて、陰鬱なしょぼくれたおっさんとなっていた欄人だったのが。


 そこから一変。


 ドロドロになった濃密な殺意と、泥々とした下卑た敵意を纏い。

 それを真っ直ぐ僕らに向けてくる。


 ああ。


 怖気が奔る程に懐かしい。


 物心ついてから嫌ってほど浴びせかけられた殺意と敵意。本物を知らなければ意味がないとか言ってたけど、その実は本当に僕を殺したくて放たれていた殺意と敵意。


「欄人……鈍ってないねえ」


 そんなのんきな僕の言葉をいさめるように、欄人からノーモーションで放たれたクナイが、キンヒメに向かって走る。僕ののんきな言葉には、いつもの嫌味な言葉ではなく、明確な攻撃が返ってきた。


 ああ、これも懐かしい。

 よく言われたなあ。


 戦闘中にペラペラと喋るな。泣くな喚くな感情を捨てろ。敵の攻撃に視線に筋肉の動きから敵意を知り殺意を測って相手の行動をどこまでも読みきれ。動きを止めるな。足と手と視線と全部を無関係に動かせ。相手を惑わせ、自分は相手を全て理解しろ。


 その全てを利用して殺せ、と。


 忘れもしないよう。


 もちろん僕だって何も戦闘準備をしてないわけじゃない。


狸隠神流(たぬきいぬがみりゅう)忍術! 反転刃陣(はんてんじんじん)!」


 キンヒメと欄人の間には透明な蜘蛛の巣が張ってある。


 これは蜘蛛の糸を精緻に張り巡らせ、敵の攻撃をそのまま放たれた場所に反転させて返す忍術で、キンヒメへと放たれたクナイをそのまま欄人の元へ跳ね返す。

 しかし、真っ直ぐにクナイが向かった先には欄人はいない。


 勢いをなくしたクナイは地面に刺さり、ジュウと不釣り合いな音を鳴らして地面を焼いた。


 毒か、焼水か、どちらにしろ僕の蜘蛛の糸には効果はないやつか。


「リント、ごめんなさい」


 意識の外から飛んできたクナイに反応できなかった事を詫びるキンヒメ。


「大丈夫。僕もごめん。戦闘が始まったってのに、気が抜けてた。もう始まってるから、周囲を警戒して」


 中庭には欄人の姿も形も気配もない。

 僕が忍術を発動する一瞬の隙に姿をくらましたんだ。


 気配を探っても見当たらないから空間魔法で自分の空間に隠れたか。


 少なくとも僕の空間断絶陣(パニックルーム)の中からは出られないから逃げる事はないだろうけど。

 灰司の時みたいに異空間から連続して攻撃されたら僕はともかくキンヒメは対応できないかもなあ。


「キンヒメ、欄人は多分異空間から攻撃を仕掛けてくると思うから、空間の違和感に気をつけてくれる?」


「はい!」


 と言っていると。

 上空になんだか怪しいモヤが何個も浮いている。

 明らかに怪しいと判断してのその下から身を避けると。


 突如としてそこから殺意が湧いた。


「ぎゃあ!」


 一瞬の殺意から突如として一筋の雷の矢が降る。


 それは文字通り光の速さで光った瞬間に地面へと着弾した。


 クナイなんて甘いもんじゃない。あれは質量があるから殺気を感じてからでも簡単に避けられるけれど、雷は光だ。気づいたら当たっているだろう。僕でも避けるのが精一杯だ。


「雷遁……か」


 魔法の気配すらしない。純粋な神農流の忍法だろう。腐っても頭目だなあ。すごい忍法だ。

 なんて感心している間はない。その間にも手の内を明かした欄人は雷遁の素なるであろう黒雲の数を雲霞のように増やしている。もうすでに黒雲は天を覆わんばかりになっていて、それからは濃密な欄人の気配、まるで欄人そのものような気配を纏っている。


 黒雲の層は僕の上よりもキンヒメの方が厚い。


 まずい。

 僕なら殺気が雷に変化する前に動けば光だって避けられるけれど、キンヒメはそうはいかない。くそう、欄人のやつ、それがわかってて、徹底的にキンヒメを狙ってきてるなあ。

 雷を防げそうな忍術は……アレと……アレか……試すか。


「キンヒメ、欄人がキンヒメを狙って雷を落としてくる! 僕の忍術でガードするねえ!」


「いえ! 大丈夫です!」


「ん? 大丈夫?」


「ええ、リント、私、見えるかもしれません」


 そう言いながら、キンヒメは左足を後ろに一歩引いて、体勢を半身の状態に変化させた。


 その瞬間。


 ビシい!


 さっきまで足があった場所に殺気すらもなく雷が落ちた。


「え? なにそれ?」


 戸惑う僕にキンヒメは微笑みかける。

 白い頬が桜色に染まり、豊かな金色の髪が揺れる。


「私、見えます! どこに攻撃が来るのか。見えるんです。リント、そこ、ぴょんっと後ろに下がって」


「ほへ?」


 戸惑いながらもぴょこんっと跳ねて後ろに飛ぶ。

 同時にそこへ雷が落ちた。


 すげえ! これなんだこれえ!


「重なって見えるんです、現実と未来が。なんというか……簡単に言ってどこに攻撃が来るのか見えるんです!」


 そう言っている間も雷がキンヒメを狙って落ち続けている。

 それを全て華麗に避け続けている。まるで踊っているように。

 あちこちで光が弾け。

 雷は地面で火花となる。


 それを背景にキンヒメは踊り続ける。


 かわいい。美しい。神々しい。

 どんなに言葉を尽くしても尽くし足りない。

 ニコニコと笑って舞い踊るキンヒメ。

 ぴょんぴょんと飛びまわるキンヒメ。


 これが真なる救世主の姿だ。


 ほんと僕の妻かわいい。



お読み頂き、誠に有難う御座います。

少しでも楽しかった! 続きが楽しみだ! などと思って頂けましたら。

何卒、ブクマとページ下部にあります★の評価をお願いいたします。

それがモチベになり、執筆の糧となります。

皆さんの反応が欲しくて書いているので、感想、レビューなども頂けると爆上がりします。

お手数お掛けしますが、是非とも応援の程、宜しくお願いいたします。

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