百十一.再会し愛し合い
僕は覚醒した。
した……んだけれど。
華麗に復活! やあ、僕だよ! とはいけず。
小さくうずくまったまま、顔を上げる事もできず、前脚で顔を隠して丸まったままでいる。
「リント、もとに戻ってるの知ってますよ? 起きてきて私に言う事はありませんか?」
スーパーキンヒメの迫力がすごう。見えないけど声の圧がすごい。
「うん……ごめんよう」
僕は相変わらず顔を隠してうずくまったまま謝る。
「リント、謝るにしてもちゃんと起きないとダメですよ」
丸まった僕の背中の毛をゆっくりと撫でる。諭すような声。うふう、やっぱりキンヒメのナデナデが一番安らぐなあ。もしかしてこれで僕の肉は戻ったのかなあ?
ぜんぶキンヒメに助けられたんだなあ。
なおさら顔があげられないよう。
「わかってるけど、さ、でも……恥ずかしくてさ、キンヒメにあわせる顔がないんだよう」
穴があったら入りたい。狸じゃなくてアナグマになりたい。
「何が恥ずかしいんですか? リントがいなければ今頃この国は異世界からの侵略者で溢れていましたよ?」
まさに。
「それ、ねえ。言いにくいんだけどねえ、僕が、それなんだあ」
「リントが異世界からの侵略者って事ですね?」
うん。と僕は地面に向かって肯定する。
「ある程度は予想してました」
そうなの!?
「え? 知ってたの!?」
「ええ、あくまで可能性の範囲内ですけど……」
何だか急にキンヒメの声に元気が無くなった。やっぱり僕が侵略者だと確信してガッカリさせちゃったのか。
「そっかあ、知ってたのかあ。それなのにさあ、僕は自分の事を救世主だあなんて思いこんじゃって、救世主補正でうまい事世界を救えるうなんて思いこんでさあ、イキった挙句のその結果、僕が侵略者だったなんて、恥ずかしくてもう無理だよう」
あああ、自分で言葉にするとその酷さが際立つう。
恥ずかしい。
「リント」
僕を暖かく呼ぶ声。それと一緒に脇の下に優しく手が差し込まれ、僕の体が一瞬の浮遊感に包まれた後、柔らかいキンヒメの胸の中に着地した。
あ、人間の姿だったんだ。とキンヒメの胸の中で今更ながらに認識した。
「キンヒメ、かわいい」
ふいに本音が口をつく。
「ふふ、褒めたって許しませんよ。今からお説教なんですから」
優しいながらも芯のある眼差しに。僕は少しだけ僕を取り戻せた気がする。
「うん、ちゃんと謝るよう。聞いて。キンヒメにはずっと言えてなかったけど、僕はさ、この世界じゃない異世界から転生してきた転生者って存在だったんだ。前世は忍者で、前世の記憶を持っていたから強かったの。その力で家族からチヤホヤされて、友達もできて、キンヒメみたいな妻までできて……幸せになったんだ。でも、そのせいで僕は勘違いしちゃった。僕はこの世界の全てを愛していて、僕も世界の全てから愛されてるって……でも違った」
僕はキンヒメの胸に隠れるように顔を埋めて。
違ったんだ。と呟くしかなかった。
そんな僕にキンヒメは声をあげた。
「もう!」
むう、としたキンヒメの声、そしてポンっとなる僕の腹鼓。
赤ちゃん抱っこされている状態の僕の腹がキンヒメにポンと鳴らされたのだ。
この緊迫した場面には似合わない。どうにも狸らしく、僕らしい、間の抜けた音だ。
「ふわぁ! キンヒメぇ! 急に何だよう!?」
驚いて顔あげる僕。
眼前にはキンヒメの顔が大写しになっていて。その刹那に僕の鼻にキンヒメの柔らかい唇が当たった。人間の嗅覚の何倍もある僕の鼻腔には一瞬でキンヒメの美しい匂いで爆発した。
目の前には顔を紅くした大好きな妻がいる。
「言わなきゃいけないのは違う言葉ですよ?」
そんな事をいう、愛する妻へ。
自然と口から溢れる言葉は。
「キンヒメ……ただいま」
だった。
これで僕は帰ってきた気がした。
これを言うべきだったんだ。
「ふふ、それでいいんですよ。リントがごちゃごちゃと言うのは似合いません」
確かにい。狸にそういうのはいらないかもお。
「うん」
「それに、私、言ったでしょう? 私はリントがどんな姿でも、どんな狸でも、狸ではなく、人間であっても、愛しているって。それにね、私だけじゃないですよ? リントは世界から愛されている。家族から愛されている。友達から愛されている。だから大丈夫、ね?」
「僕、愛されてるかな? こんな悪い事をしているのに? 敵だと思ってこの国の人たちいっぱい殺したよ? この城も破壊したよ? あのままほっといてたら坩堝の森を破壊して、海を肉で満たしながら渡って魔族の世界も破壊して、どこまでも増殖しながら全部を壊してたよ? 今はおさまってるけど、もしかしたら、またそういう存在になるかもしれないんだよ? そんな僕でも愛してる?」
「ええ、愛してます。なにせ、妻! ですから!」
急に胸を張ってドヤ顔のキンヒメ。
おう、どうした? 笑っちゃうよう。
「ぷふう、なにその、圧倒的な妻感」
「え? 知らないんですか? どうやら狸って妻ならば、何があっても大体しょうがないで済むらしいですよ?」
「嘘だよう! 僕、狸だけど、知らないよう。なにそれえ?」
「ふふ、私も狸ですけど、知りませんでしたよ。でもね、さっきお義父さんたちに、私は妻ですから! って言ったら、一人でここに戻る事を納得しくれましたもん」
「うふふう、それはうちの家族が特殊なんだよう」
「ね、だから大丈夫ですよ。二人で何とかしましょう」
そう言って今度は優しくお腹を撫でてくれる。
「……うん」
あったかい。
僕とキンヒメ。
そして僕らの家族なら何とかなる。
そんな気がした。
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