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百九.妻の声が聞こえますか?

 キメた!


「リーチ義父さん、リキマルさん」


 私は足を止め。

 覚悟を持って。

 狸の本分に逆らう事なくとても自然に逃走する家族のみんなに声をかける。


「どうしたんじゃあキンヒメ、早よ逃げんとお! リントに迷惑がかかるんじゃあ」

「おねえちゃあん、早く逃げないと危ないよう」

「姉御、どうしたんだ、脚でも痛めたか? まだ俺には余裕があるから、背中に乗ってくれ」


 急に逃げる事をやめた私に気づき、戸惑うように私の少し先で足を止めてこちらを振り返りながら、口々に心配して叫んでくれる家族のみんな。自分が元人間だと気づいてからも、彼らが家族であるという気持ちは全く揺るがなかった。愛するリントとその家族。優しく私をラクーン808に受け入れてくれた絆は間違いなくここにある。


 そうだ。

 リントが何であっても。

 私が何であっても。


 この感情には何も関係ないじゃないか。


 私が守る。


 私が守りたいんだ。


 世界を。


 家族を。


 リントを。


「私、リントの所へ戻ります! みんなは先に行って逃げてください」


「姉御! アニキの覚悟をわかってないのか!?」

「そうじゃあ、リントなら何とでもなるじゃあ。わしらが行っても邪魔になるじゃあ」

「おねえちゃあん危ないよう」


 家族は口々に私を心配してくれる。

 でも私は行かなければいけない。だってリントはいまピンチだから。リントの声が小さくなっているし、リントの気配も希薄になって、代わりに世界を滅ぼす気配が強くなっている。


 私にはわかる。


 でもみんなには説明できない。私が救世主だなんて。絶対に言えない。みんなはリントが、リントこそが救世主だと思っている。だから絶対にそれはそのままにしておかなきゃいけない。


「きっと今の音はリントが忍術を放ったんですよ、だから勝負はもうすぐつくと思うんです。だから最初に私がリントを祝わないといけないんです! 私、妻なので!」


 我ながら苦しい言い訳。


「妻、じゃあ仕方ないじゃあ。わしもヒメに会いたいじゃあ」

「妻ならば仕方ないだろうな」

「おねえちゃあん、妻だもんねえ」


 うん。何だか納得する雰囲気だ。

 何だこの妻に対する圧倒的な信頼感。とはいっても納得してくれたならばよかった。


「じゃあ、皆さんは安全な所で他の方達と合流できればしてくださいね。私は行きます。妻、なので!」


「いい妻じゃあ」

「アニキは幸せだな」

「にいちゃあん、よかったねえ」


 そんな家族の言葉に見送られて、私はリントの元へと脇目もふらず駆け出した。


 ◇


 逃げた道を戻るだけ。


 それがとても大変だった。


 轟音は鳴り止まず、破壊は止まらず、瓦礫が私に降り注いだ。


 その中を狸の姿で駆ける。小柄な獣姿であれば狭い隙間も抜けられるし、降り注ぐ瓦礫もきれいに避ける事ができる。


 走れ。


 疾れ。


 奔れ。


 愛する夫の元へ。


 ◇


 走った先。


 私の目の前にはピンク色の肉の塊がある。

 それは破壊のかぎりを尽くす。殴り、刺し、焼き、凍らせ、飛ばしていた。それは城壁を破壊し、扉を突き刺し、中庭の木々を焼き、壊れた噴水から噴き出す水を凍らせ、あらゆる所に風穴を開けていた。


 世界を破壊するという確固たる意志が感じられる。


 にも関わらず。

 なぜか私の方には攻撃が飛んでくる気配はない。


「‥‥…リント」


 私だけを避けるようにして飛び交う攻撃。その中にうっすらとリントの匂いがする。きっと私にしかわからないだろう。この肉の塊を見て、この苛烈な攻撃を見て、リントだとわかる人間がいないのはむしろ好都合かもしれない。リントそのものの姿で破壊を尽くされて、それを目撃でもされていたら、何も言い訳なんてできなかっただろう。


 リントはあくまでも救世主なのだ。

 みんなの救世主として世界を救って私と末長く生きていくんだ。


 そのために。


 私は変化して。


 ぼふん、と。


 姿を人間に変えた。


 リントなら、煙の中から現れて、片手を上げながら、「やあ、僕だよ」などと言うだろう。

 本当にかわいい夫だ。

 今から私はそんな可愛い私の夫に声をかける。そしてそれに都合が良いから人間の姿に変化した。


 私は胸に掛かっているネックレスの宝石を片手で握り、それに魔力を流す。流した魔力が対となる宝石に向かって流れていくのがわかる。間が詰まっているようで途中で止まるが、無理矢理魔力を流しこみ、その詰まりを解消しながら、なんとかリンクを確立した。

 多少苦労したが、無事に二つはつながった。


 このネックレスは。

 リントと私が人間の世界でお揃いで作った魔道具。リントがどこに行っても。私がどこに居ても。話ができるようにと、リントが買ってくれたネックレス。


 二人の絆。


 これならきっと今の状態のリントとも話ができる、と私は考えていた。そしてネックレスを握るにも魔力を流すにも人間の姿の方が圧倒的に効率がいい。人間に姿を変えたのはそのためだ。


「リント、聞こえる?」


 私はネックレスに手を当てたまま、魔力と一緒に声をネックレスに流した。



お読み頂き、誠に有難う御座います。

少しでも楽しかった! 続きが楽しみだ! などと思って頂けましたら。

何卒、ブクマとページ下部にあります★の評価をお願いいたします。

それがモチベになり、執筆の糧となります。

皆さんの反応が欲しくて書いているので、感想、レビューなども頂けると爆上がりします。

お手数お掛けしますが、是非とも応援の程、宜しくお願いいたします。

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