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百三.文福狸のぶるぶる水抜き

 ここは光差す世界。


 元の世界に僕は戻ってきた。

 異空間を抜けるとそこは王城の中庭だった。


「空間魔法できちゃったあ!」


 やったらできた。まあなんとなくやれる気はしてたけどねえ。ロンさんから竜魔族の変化を取得した時に一緒にもらった、放った瞬間に相手に当たるパンチ、確か名前は『竜魔拳法! 真光深淵破壊拳!』だっけか? あれってきっと高出力のエネルギーで空間と時間を捻じ曲げて相手に拳を当ててるんだよなあ。で、これができるって事は、空間系の魔法も使えると思ってたら案の定使えたんだよなあ。できてよかったあ。

 ……でも、心残りが一つ。

 やるからには忍術にしたかったんだよう! カッコよく術名を叫んで空間を破りたかったあ! なんかヌルって破れちゃったしさあ。あーもったいないことしたあ。後でカッコよくしようっと。


 むうむうと悶える(ぼく)を目の前にして、灰司は唖然としている。

 突然現れてむうむうしてたら、そらそうか。

 ちゃんとご挨拶。


「やあ、僕だよ」

 シュピンと前脚でご挨拶。


「ふざけんな! なんで出てこれてんだよ! 異空間だぞ? 俺の許可なしで出れるわけねえだろ!?」

 早速地団駄を踏んでいる灰司。

 やっぱりこれは灰司だなあ。叡智で見てみれば、マーティン・サバラって名前と、土戸灰司って名前が被ってる。見た目の肉体はマーティンだからあ、って事はやっぱり魂だけが灰司なんだろうなあ。


 すると、魂だけ異世界転移する方法でこっちに来てるのは確定っぽいなあ。

 あの首を切りまくった相手も王国の民に向こう(ぜんせ)のやつの魂が入ってたって事かあ。


 ふむ。

 消えた人間と。

 増えた人間か。


 見覚えのある首と。

 見知らぬ忍者たち。


「おい! 黙ってねえでなんとか言え!」


 考えて黙っている僕に、灰司が唾と怒りを飛ばしてくる。

 もーしょうがないなあ。説明するよう。


 その前にちょっと毛についた血を払わせてね。

 ブルブルっと。

 濡れた犬が水を飛ばすように狸は血を飛ばして綺麗にします。


「汚ねえ! こっちに血を飛ばすんじゃねえ!」


 灰司は怒ってるけれど仕方ないよねえ。君がやったんだから。

 こっちは完全に体についた血液を外に飛ばしきってさっぱりしてるんだからいいじゃないかあ。


 綺麗な毛並みのかわいい狸になったろう?


 て事で、さて説明しよう。


「なんで出て来れたかって? 壁を割ったら割れたから出てきたんだよう」


 ふふ。シンプルう。


「あああああ! 俺の忍法は完璧だあ! 破れるわけがねえだろう!」


 まあねえ。僕以外には破れないだろうねえ。ロンさんのパンチでかろうじてって感じじゃないかな? でもねえ。僕には破れるんだよなあ。結構強い空間だったよう? でもねえ、褒めてはあげなあい。


「安普請? 欠陥住宅? 普通に割れたよ?」


 しれっと狸。


「がああああムカつくなああああ!! てかなんであの人数に襲われて死んでねえんだよ! 狸になっても不死身は健在かよ!」


 また地団駄踏んでる。


「いやあ、こっちの体は殺せば死ぬよう。でもさすがにあの中にいた彼らには僕は殺せないよう。灰司、僕がそんなに弱いと思ってたのう?」


 実際、この狸の体は殺せば死ぬ。心臓を刺せば死ぬし、肺を壊せば息はできないし、毒には耐性がありそうだけれどそれでも猛毒は効くだろう。この世界に来て僕は定命を得られたんだ。家族や友達だけじゃなくて、定命まで貰えるなんて、ここに関しては本当に灰司に感謝している。


「思ってねえよ! それでも大群にやられて、消耗して傷を負った状態で放置すれば死ぬだろうがよ!」


「確かにそうだけど。あの程度の奴らから傷ひとつもらわないってのは考えなかったのかなあ? ま、なんにせよ、今度は灰司の番ね。狸隠神流(たぬきいぬがみりゅう)忍術  血飛沫緊縛陣(ちしぶききんばくじん)


 忍術発動。

 感謝しているから、灰司は楽に殺してあげる。

 これでも割と僕は怒ってるからね。

 僕が首を飛ばしたあの中には僕が見知った人だっていたはずだから。


「は? ふざけんな! 俺が簡単にやられ……動けねえ」


 そうね。

 なんのためにさっき体についた血液を飛ばしたと思ったのさ。そもそもブルブルってしただけで血塗れ狸が綺麗さっぱりピカピカ狸になるわけないだろう?

 忍術に決まってるじゃないかあ。

 魔族のノスフェラさんからいただいた血液魔法を忍術に応用したこの忍術。僕の毛並みに汎用性が高い魔法だったから色々と改造させてもらったよう。

 今は血を透明化させて灰司の全身を拘束している。


 ふふ。もう地団駄は踏めないねえ。


「ま、マジで動かねえ。血なんて一滴か二滴しか受けてねえじゃねえか! んなんで、なんで全身が動かねえ」


 地団駄を踏もうとしても体がピクリとも動かない。


「そりゃあ気付かれないように、血を透明にしたからねえ。せっかくなんで見せてあげるよう」


 僕は血の透明化を解除する。

 途端に灰司は血まみれの姿に変化する。


 すぷらったあ。


 頭も顔も手も足も体も。

 その全身に隈なく血を纏っている。


 血に、塗れている。


「うおお! んだこれはよお! 汚ねえ! ふざけんな! なんとかしろよ、哲人お!」


「だあめ」


 灰司のその姿は君が招いた結果です。

 君がやったのはこういう事です。君がこの世界の血をのぞみ、そして望み通りにその血に塗れています。


「望み通りだろう?」


「僕はちゃんと弟の望みを叶えてあげるお兄ちゃんだからねえ」


 そう言って。


 狸はにっこりと笑いました。



お読み頂き、誠に有難う御座います。

少しでも楽しかった! 続きが楽しみだ! などと思って頂けましたら。

何卒、ブクマとページ下部にあります★の評価をお願いいたします。

それがモチベになり、執筆の糧となります。

皆さんの反応が欲しくて書いているので、感想、レビューなども頂けると爆上がりします。

お手数お掛けしますが、是非とも応援の程、宜しくお願いいたします。

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