百二.狸のガーデーナーが笑ってらあ
一二、三、一、二、一二、一二三。
まるで腹鼓を打つかのようなリズムで。
僕は首を刈っていく。
刈られて飛んだ首が、闇の地に落ちて、小気味よくリズムを刻む。
ポンポン、ポン。
ポン、ポン、ポポン。
ポポポン。
首がまるで落ちる雨音みたいなアンビエントなビートとなって僕に降り注ぐ。
ああ、気持ちいいなあ。
なんて思いながら、無心でビートに身を任せていると。
なんだか懐かしい感覚がやってくるう。前世でもあったなあ。クライアントが敵対勢力でさ、灰司がそれと結託して僕を殺そうとした時だったよねえ。月のない夜に、真っ暗な倉庫で、敵は全員暗視ゴーグルつけた上に銃火器を装備してて、対する僕の獲物はナイフ一本。もうそうなったら仕方ないよねえ。前世の僕は死なないけれど、痛いのは嫌なので一撃で首を刈っていこうと思いますって決断するしかなかったよねえ。
ふふ、今と一緒だ。
たまにはこういうのもいいよねえ。
じゃあ今回はナイフ縛りね。
そう決めると、俄然やる気が溢れてくる。
狸の口が三日月に裂け、熱が息となって溢れる。
ナイフで首を刈り。切れ味の落ちたナイフを投げて敵の首に突き刺す。
出して、横薙げば、闇の中に朱の花が咲き、押して、ひねれば、朱の泉が湧く。まるでそれは闇の中に現れた幻想的な庭園のようで、そこには百花が咲き誇り、噴水から噴き出す水は無尽蔵。
それは全てが鮮やかな敵の命の水。
刹那の美。
闇の中に咲いた花は散り、沸いた泉は地に返る。
その途中でもちろん僕のもふもふとした自慢の毛並みにも降りかかるけれど、造園作業に夢中になっている僕は毛並みが穢れるのも忘れ、毛で作ったナイフは何度作り直したかわからない。後半は手で持つのも億劫になって、腕にそのまま生やしたり、飛ばしたり、そのまま体に残して爆発させたり、して。
気づけば。
手、どころか、身体中血まみれ。
あら、ばっちい。
と気づいたタイミングくらいには既に動く敵はいなくなっていた。
「終わりかな?」
索敵してみると、生命反応は感じられなかった。
ころんと足元に転がっている首を見れば、どうも見覚えがある。
「ん? これって王都ですれ違ったおじさんだ。見覚えがある。でもおじさんが忍者なわけないしなあ……」
考えられるのは、魂を転移させての体の乗っ取りか。
ふむう。それだったら灰司がマーティンの姿だった説明もつくなあ。
……え? てか灰司すごくない? 空間操作系の忍法を完成させて、その上で魂操作の忍法も完成させて、異世界の侵略を計画したってこと? シンプルにすごくない?
いつの間にそんな成長してたんだ?
魂操作系の忍法なんて、僕の不死身の肉体に並ぶ神農流の最終命題なんだけどなあ。
「灰司、成長したんだねえ」
これだけ敵対しても、どれだけ命を狙われても、やっぱり弟の成長は嬉しいなあ。
うーん、それだけに殺さなきゃいけないのが残念だようねえ。こっちでもあっちでも殺さなきゃだもんなあ。
「さて、そろそろ出る支度しないと」
僕は立ち上がって辺りを見回す。
闇しか見えません。
でも、地面があるんだから絶対に壁もあると思うんだよなあ。
声が聞こえるって事は……音はあるのよねえ……って事は、よし、あれで試してみよっと!
君に決めた!
「狸隠神流忍術! 音天地看破!」
油蝙蝠が持ってたエコーロケーション系の魔法を改造して作った忍術。前世でも似たような忍法はあったけれど、機械任せだったもんねえ。いやあ魔法の世界万歳だよう。
あ、音が返ってきた。
「えっと、ここから右方向へ10Kmくらいの距離に果てがある感じかなあ。上はまだ音が返ってこないから、果ては大分上なんだろうなあ。うーん、とりあえず、そこまで行ってみよっかなと」
ぼふん。
僕は鳳の姿に変化して果てに向かって飛んだ。
◇
「ふむ、ここが果てかあ」
こんこんと壁を叩いてると床と同じような感触が返ってきた。音天地看破の結果を分析してみるに、ここはどうやら20Km四方の空間となっているようで、そこを僕の処刑場としたらしい。蠱毒の壺みたいだねえ。
それにしても。これを灰司が作り出したんだよなあ。
すごいなあ。
「うーん、あとは脱出するだけなんだけど。これは異空間を作成して閉じ込めているんだろうから、論理としては僕も空間を歪めて元の世界に戻ればいいんだよなあ。でもなあ、僕は空間干渉系の忍法って前世でもあまり研究できなかったからなあ。研究しようと思ったら丸ごと灰司に盗られたんだよねえ。あ、これがその研究結果か! そっか! 灰司が空間忍法が使える理由はそれかあ! すごい! きっと前世では科学的にアプローチしていたのをこの世界では魔法で代用しているんだろうから、灰司が人間の世界としか接触していないと仮定して……空間魔法をゲットできるとしたらもちろん人から取得したんだろうなあ。て事は、人の叡智を持ってる僕にもできるんじゃない?」
出来ると思うと。
なんだか出来る気がしてくるのが狸の良い所。
叡智で何もない空間を眺めてみる。
ぼんやりと『空間魔法によりできた壁』という文字が浮かぶ。
「知ってるう」
さらにその『空間魔法』という文字を叡智でみる。
じっと見る。
あ、いける。
そんな気がして。僕は闇に手を触れた。
瞬間に。
闇は晴れ、世界に光が差した。
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