九十九.兄を思う弟を思うと
「やっと俺を見たか。それで良いんだよ」
そう言って微笑んだ僕の弟、灰司。
目が赤く染まっている。
そうか、お前も成ったのか。赤目の忍者に。
可哀想になあ。
あの赤目は人間の潜在能力を解放する忍法を受けた忍者の特徴であり、神農流の特徴だ。それが旗印にまでなっている。それが神農流忍軍の強さの秘訣。下忍でも、他の忍軍の上忍くらいの力になれる。
だけれど強くなれる代わりに命を削る。だから他の忍軍ではやらないし、うちの専売特許みたいになってる。
魂に刻むあの忍法は異世界に転生しても有効なのか。
それともこっちの世界でだけ忍法を施したのか。
わからないけれど。どっちにしろ良い事ではない。
前世の僕は不死の肉体を持っていたから真っ先に受けたけれど。本家の人間は基本的にやらない。頭領になるべき人間が早死にしては意味がないからだ。
それを施されているという事は、家からは重要視されていない、そういう事だ。
神農の家に何より執着していた灰司なのになあ。
そんな憐れみの視線に気づいたのか、また一層に灰司の気配が濃くなった。
みんなを逃した方がいいなあ。
「みんな、中庭から出ていてくれる? キンヒメ、話は後でするから、今はみんなを頼むよ」
「ええ、わかったわ」
キンヒメはすぐに人間の姿に変化してビビっているおやじとリケイを両脇に抱えた。
「アニキ! 俺も一緒に!」
「リキマル、ダメだよう。あれは僕だけの獲物だから」
「く、アニキが……そんな事を言うの……初めてじゃねえか」
弟には弱くてねえ。ついつい獲物でも何でも欲しがるものはあげちゃうんだよねえ。
でもね、あれはダメだよう。
あれも僕の弟だからねえ。
「うん、確かに……珍しいねえ」
理由は答えないけれど。
リキマルにならわかるだろう?
「わかった……アニキ、死なないでくれよ。俺らの頭目なんだからさ」
なんとなく理解したのかリキマルはうつむいた。
僕を心配してくれているんだろう? ありがとう、大丈夫だよう。
「わかってるよう」
僕は小さく頷いた。
「さ、リキマル、行きましょう」
「アネゴ、ああ、わかった。おやじとリケイは俺が運ぶよ」
リキマルは狼の姿に変化して、その背におやじとリケイを背負って、中庭から王都の方へと逃げていった。
「リント、死ぬなよお!」
「にいちゃあん!」
逃げ去って行く方向からおやじとリケイの嬉しい声が聞こえる。
ちゃんと逃げてくれて良かった。大丈夫、僕もやばかったら逃げるよう。逃げるは狸の本分だからねえ。
「ねえ、リント」
キンヒメだけはまだ逃げておらず、僕の隣に立っている。
少しだけ声が震えている。
「なあに?」
そんなキンヒメを安心させるために、できるだけいつもののんきな僕の声で答える。
でも絶対に視線を灰司から逸らす事はない。
「愛しているわ」
その言葉。
それと同時に感じた頬への柔らかい感触。
二つを残し、キンヒメは中庭から駆け出していた。
僕はその後ろ姿の気配だけを見おくった。
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