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九十八.弟と戦争と

「ねえ、よくやったじゃないか、灰司」


 数時間前に僕が逃げ出したばかりのバルコニーに、いつの間にか立っていた弟に声をかけた。


 見た目はまったく違うけれどねえ。

 あの姿は確か……ハニガンの弟の、ええっとマーチン、じゃなくてマーチンロウ、じゃなくて、ええっとお……ああーマーティン! マーティンだ!

 弟が弟の体の中に入り込むなんて、僕とハニガンって運命的じゃない?


 というか、そもそも灰司ってどうやってこっちの世界に来たんだろう? 異世界トラックに轢かれたのかな? いや、違うか。やつは異世界からの侵略者だって話だから計画的な犯行か。きっとなんかしかのこっちへくる方法があるんだろうなあ。


 っていうと、僕がどうやってこっちの世界に来たのかもわかってなかったなあ。寝て起きたら狸だったし。そこからはこっちの世界が色々と幸せすぎて、その辺の理由とかを考えてこなかったからなあ。

 転生した理由は前世の家族にいじめられた仕返しをする事だと思うんだけどお。


 うーん。ま、考えてもその辺はどうせわかんないしなあ。後で灰司にどうやってきたか聞いてみよっと。


 そもそも、あれが灰司って事で話を進めているけど、ほんとに灰司だよね? あの姿は間違いなくハニガンの弟、マーティンだけれど。中身は絶対に灰司だと思うんだよなあ。

 あのねばっとしたしつこい気配を僕は忘れられないよう。ほんっと……あれにはさんざん嫌がらせされてきたもんなあ。ラボを施設ごと乗っ取られた事もあったしさあ。

 考えられるのは魂操作系の忍法かなあ?  でもなあ、灰司にあんな高度忍法つかえるかなあ? 無理じゃないかなー?


 なんて、僕がつらつらと考えている間にも、灰司は自分の名前が呼ばれたであろう僕らの方を見るけれど、そこに彼の見知った僕はおらず、眉を顰めながらキョロキョロとしても、僕が見つからず軽く地団駄を踏んでいる。


 あー、あの挙動は灰司だよねえ。

 気に入らないとすぐにあの癖が出るんだよなあ。いかにもお怒りですってポーズ。あれって部下に嫌がられてたのまだ知らないのかなあ。仕事中に感情で言ってる事変わるって評判だったんだよねえ。


 んで、あいつが今回の異世界侵略の首謀者かなあ。

 あんなに前世で優しくしてやったのにさあ。ラボ盗まれても怒らなかったし、もらったお菓子を盗まれても怒らなかったしさ、時には僕からおかずを分けてやった事もあるじゃないか。


 そもそも、あいつはなんで僕をここまで恨むんだよう。

 あいつが欲しがったものは全部あげたのにさあ。

 ラボは情報を秘匿してたし、お菓子もおかずも毒入りだったからかな?

 そうなのかな?


 そんな感情でバルコニーの灰司を睨んでいると。

 視線を感じとったのか、声をかけた主が僕だと気づいたようだ。


 灰司の、マーティンの、顔が醜く歪む。


「ハハッ、狸がしゃべってると思えば、お前が哲人かよ、なんだそのナリはよお、クソだっせえ」


「ダサいかな? 僕としては気に入ってるんだけどねえ」


 もふもふまんまるな毛並みも、ちょっと硬めな肉球も、短くて細めな鼻も、垂れ下がった隈取りも、全部全部かわいかろう?

 わかってないなあ、灰司はあ。


「相変わらずだな、そのこだわりのなさはよ。厄介払いのために異世界に転生させてやったってのに、あっちでも死なねえ、こっちでも間抜けな狸の姿で邪魔しにくる! ほんっとに! どこまでもお前は邪魔な奴だよな!」


 こだわりはあるよ。こだわった上で狸が至高だって言ってるのにさあ。伝わんないなあ。狸の話をしてたのにさ、厄介払いとか、転生とか、違う話にすり替えるし……って、え? 僕を転生させたのって灰司なの?


 え? マジで?


 黒幕なのはわかってたけど、僕を転生させたのまで灰司だったの? 異世界侵略しようってのに救世主(笑)まで一緒に送り付けたの!? 転生した理由がもうわかっちゃった。聞いてもいないのに教えてくれるなんて、灰司は転生して親切になったねえ。


「ほんとに!? 転生させてくれてありがとう!」

 心底感謝の念があふれ出して言葉になる。


「がああアアアアアアアア!!! あ!り!が!と!う! じゃああねえだろうがよおおおお!!!」

 あらま、罵詈雑言が止まらないわあ。もっと憎めよ、とか、俺を見ろ、とかなんか、言ってるねえ。


「あ、キレた。灰司も相変わらずだねえ。すぐキレるんだからあ。いやあ、転生させてくれたのはほんとに嬉しいんだよう。家族もできたし、妻もできたし、友達もできたんだ」


「ざけんなざけんな! ふざけるな!! もっとお! もっとお俺に! 真剣に向き合え! 俺はお前を殺しにきた! こっちでもあっちでも殺す! お前の大事なものは全部壊す!」

 こっわ。殺意たかあ。

 僕の大事なものは絶対に壊せないよ。

 生まれて初めて大事なものが出来たんだよ。


「それは無理だよう。あっちの僕は殺してくれてもいいんだけれど、こっちに手を出すならさ……」

 殺す。そんな僕の言葉は灰司の言葉にかき消される。


「うるせえええ! 俺は! 手を出しに! ここに来たんだよ!」

 なるほどね。


「じゃあ、戦争だよ」


 僕は全ての力を内包させたハニガンの姿に変化した。



お読み頂き、誠に有難う御座います。

少しでも楽しかった! 続きが楽しみだ! などと思って頂けましたら。

何卒、ブクマとページ下部にあります★の評価をお願いいたします。

それがモチベになり、執筆の糧となります。

皆さんの反応が欲しくて書いているので、感想、レビューなども頂けると爆上がりします。

お手数お掛けしますが、是非とも応援の程、宜しくお願いいたします。

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