表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

102/127

九十七.波乗り狸の足取りまずい

 波だった。


 僕の号令に端を発した進撃は地を埋め尽くす波となった。


 魔獣の波が地をうねり、空を飛ぶ鳳や魔族は地を波立たせる風のようで、それに乗って進む地上戦力はみな一騎当千の兵だった。

 僕らは順調に占領された王都へとなだれ込み、王都の人間にとって変わって現れた、黒づくめの集団を蹂躙している。蟻装兵(ぎそうへい)の体内にはトラップで蟻酸が詰め込まれているのだが、魔獣の群れはそれをものともせずに。


 踏みつけ。


 切り裂き。


 食いちぎった。


 感情のない蟻装兵(ぎそうへい)は無為にその活動を停止させていった。


 王都の路上にはその体液すらも黒い残骸が撒き散らされた。


 順調だった。


「じゃあ、魔族は本体から離れて王都の右側の殲滅に向かう!」

 誰が言ったか。

 誰もそれに異を唱えなかった。

 ある程度の魔獣を従えて魔族は消えた。


「ふむ、我ら鳳も負けていられんな。左側は我らが受けもとう」

 誰が言ったか。

 誰もそれに異を唱えなかった。

 残りの魔獣を従えて鳳は消えた。


 順調すぎるほどにすこぶる順調だった。


 そうやって順調に進軍して。


 敵を殲滅して。


 いざ、王城にたどり着いた時には、そこには狸しか残っていなかった。

 王城の中庭で我に返った時にそこに立っていたのは。

 リキマル、リケイ、おやじ、キンヒメ、僕、だけだった。


 ああ、はめられたのだと。

 そこで気づいた。


 僕は、僕だけは、もっと前に違和感に気づくべきだった。


 王都の門戸が開いている事。


 王都の街中に忍びがいない事。


 敵の抵抗が少ない事。


 これらの事実に気づくべきだったんだ。

 でも誰も気づけなかった。僕も。


 僕らは敵に酔わされていた。

 自分達が強いと。

 圧勝していると。

 このまま異世界の侵略者を殲滅できると。


 そこをつかれた。


 どんなに気配を探ってみても、すでに魔族と鳳の気配は王都の中にはない。


 死の気配すらない。


 まるで神隠しにあったかのように。

 王都の民と同じように。

 消えていた。


 これは空城計だ。

 圧倒的優勢だと勘違いさせて、巣の奥まで誘い込み、罠にはめた。


 僕がきっと普段通りだったら、これが敵の空城計だとすぐに気づけただろう。


 多分、僕も酔っていたのだろうと思う。


 制御されたスタンピードという力に。

 魔族たちの圧倒的な武力に。

 異世界に転生して魔法を得た僕の忍術に。


 王城で僕を挑発する、僕がよく知る気配に。


 酔わされていた。


 ◇


「リント……」

 キンヒメが不安げに僕の手をとる。

 普段は暖かい肉球が冷たく硬くなっている。


「大丈夫、僕がいるから」

 その肩を抱いて言葉をかける。


「にいちゃあん」

 リケイが心細そうに鳴く。ここまで来てくれてありがとう。今日のために化け狸になってくれてたんだな。あんなに嫌がってたのに。キンタがおっきくなってリーサちゃあんに嫌われても鳴くんじゃないぞ?


 リキマルは闘志に震えている。

 頼もしい。

 おやじはいつも通りビビって震えている。

 キンタでっかい。


 戦況は圧倒的に不利になってはいる。

 僕らは主戦力である、坩堝の森の獣と、魔族の精鋭を失った上で。


 敵の主戦力と正面に相対しているわけだ。

 戦力はなく、正面には虎、後門には狼に詰められている。


 まさにお手本通りみたいにはめられたわけだ。


 僕があほ狸だったってのもあるけど、相手がうまく準備して僕の気を引きながら、罠に気づかせないように見事にやってのけたのだ。

 そこばっかりは賞賛だ。


 拍手拍手。


 僕は見覚えのあるバルコニーの上に立っている人物に向けて前脚で精一杯の拍手を送った。



お読み頂き、誠に有難う御座います。

少しでも楽しかった! 続きが楽しみだ! などと思って頂けましたら。

何卒、ブクマとページ下部にあります★の評価をお願いいたします。

それがモチベになり、執筆の糧となります。

皆さんの反応が欲しくて書いているので、感想、レビューなども頂けると爆上がりします。

お手数お掛けしますが、是非とも応援の程、宜しくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ