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九十六.大きな音にはノイキャンを精鋭たちには賞賛を

「ならば実際にやってみせるのが良かろう!」


 スタンピードを起こすという言葉を疑う、僕やロンさんを笑うかのように。

 そう言ってドナルドは息を吸い込んだ。


 途端に空気がシンと張り詰め。


 その張り詰めた空気ごとドナルドは吸い込む。


 すうううううううううううううううううううううううううう。


 長く長く。

 この場の空気が薄くなったと感じるくらいに息を吸い込んだドナルド。


 どれほど吸っただろうか。

 ドナルドはいつしか上を向いたまま、ピタリと止まっていた。


 その違和感に、ん? と皆が注目した瞬間。


ーーー二ーー三ーーー二ーーー二ーーーーーー三ーーーーーー

ーー二ーーーーー二ーーー三ーーーーーー三ーーー二ーーーー

三ーーーーーーーーー二ーーーーーーーー二ーー三ーーー二ー

ーー三ーーー二ーー三ーーーーー二ーーーー二ーーーーーーー

ーーーー二ーーー三ーーー二ーーーー三ーーーーーーー二ーー


 それは音にもならない音の波。

 鼓膜が破れるかと思わんばかりの超高周波がドナルドの嘴から放たれた。


 ぎゃああああ。


 ロンさんの竜の咆哮にも負けていない、その鬨の声。


 もー耳いたあい。思わずペタンと耳を閉じる。


「もう、ドナルド、いきなり……」

 やめてよう。と言いかけた言葉は音にできなかった。

 背中から感じる濃密な気配に口が止まってしまったから。


 僕ですら毛並みがチリチリしてしまうほどに圧倒的な暴力の気配が坩堝の森から放たれている。


 ドナルドの鬨の声に呼応するように、ドリースダンジョンからぶわりと不穏な空気が放たれ、その一瞬後、爆発音かと聞き違えるほどの轟音が世界を破って、ダンジョンの入り口から魔獣が世界に解き放たれた。


 ドリースダンジョンからはそれなりに距離があるというのにわかるのだ。


 距離なぞ消し飛ばすほどの濃密な魔獣の気配。

 純粋な暴力の気配。


「なにこれえ!!」


 僕が驚いてドナルドを見るとやはりニンマリと笑っている。

 イタズラ大成功の顔である。

 あー。

 確かにこれは大成功だよう。いやあ、スタンピードってすごいんだねえ、前世の記憶だとスタンピードっていうのは地獄の始まりだけれど、味方側に立つとすごい心強いなあ。

 味方側あ……。


 地を揺るがす轟音があっという間に迫り来て。

 僕らの足元がまるで地震のように波打っている。

 狸のお腹の肉がぷるぷる震えてるんだけども?


 ……


 ええっと……本当にこっち側でいいんだよね?

 大丈夫? 

 『制御不能な魔獣軍団 VS 異世界からの侵略者 VS 世界防衛隊』てな具合の怪獣大戦争みたいにならない? 下手したら人間の世界が丸ごと滅びるよ?


 感心から一転、疑いの目をドナルドに向ける。


「カカ、安心するがよい。きちんと朕の制御下にあるわ」

 そう笑ってからピイイイイと一声鳴いた。

 その声に反応して僕らの場所から少し離れた所で魔獣の気配がピタリと止まった。


 同時に地面が一度大きく揺れてピタリと止まった。


「おお! すごうい!」

「で、あろう?」

 僕の驚いた表情にドナルドがニンマリと笑う。鳳のドヤ顔だねえ。まるで僕がビビった事を喜んでいるようだ。むう、狸はお気楽だけど基本ビビリだからね。心配なんだよう。


 なんて感じに狸が頬を膨らませていると。

 今度は竜魔族のロンさんが、前触れもなく、天と地を破りそうな咆哮を放った。


 ぎゃああ。

 こっちも耳痛あい。

 お耳ぺたーん。のいきゃーん。


 何事かとロンさんを見れば。


「おお! 皆の者! 獣の世界には負けてられんぞ!! 魔族の精鋭どもよ! 戦は数ではない所を見せつけるのだあ!」

 鳳には負けてられんとばかりに檄を飛ばしてらっしゃる。

 そんなロンさんの檄に魔族の精鋭が吠える。

 こちらの声も天を震わせ、地を揺らした。

 ふふ、でも僕は耳を閉じてるから平気よ。もう耳はいたくない。


 頼もしい。

 鳳の王と魔の王。


 彼らがいればきっと世界は救えるなあ。

 なんて思いながらドナルドとロンさんを交互に見ていると。


 そんな二人もなぜか僕をみている。


 へ? なあに?


 狸も僕をみている。

 魔族のみんなも僕をみている。


 ん? これなに待ち?


 え? 僕が出撃の号令を? だすの?


「ぼく?」


 とだけ、キョトンとした顔とジェスチャーで問えば。


 場の全員から無言で首肯だけが返ってきた。


 えー。僕はそういうガラじゃないんだけどなあ。でもみんな待ってるし、待たせるのもアレだし、仕方ないなあ。って事でトトトと歩いてドナルドの前に歩み寄って、そのままスルスルとドナルドの頭の上に立つ。

 大きな声は苦手だから。

 忍術を使ってっと。「(たぬき)隠神流(いぬがみりゅう)忍術  飛声(とびこえ)」よし、これで声を拡散できるようになったっと。


 いざ!


 かわいいかわいい狸の前脚を天に突き立ててっと。


 みんなきくのだあ!


「みんなーいくよー! えいえいおー!」


 僕の口から出たのはなんとも間のぬけた言葉。

 こんな締まらない号令だけれど。でもこれが僕らしい。狸らしい。のんきな号令だから。


 でも大丈夫。


 だって。


 これに応える声は、天人魔、三世界の全ての声で。


 この世界が揺らぐほどの大音声なんだから。


 きっとこんなのんきな感じで異世界からの侵略者(ぼくのぜんせ)にだって勝てるさ。



お読み頂き、誠に有難う御座います。

少しでも楽しかった! 続きが楽しみだ! などと思って頂けましたら。

何卒、ブクマとページ下部にあります★の評価をお願いいたします。

それがモチベになり、執筆の糧となります。

皆さんの反応が欲しくて書いているので、感想、レビューなども頂けると爆上がりします。

お手数お掛けしますが、是非とも応援の程、宜しくお願いいたします。

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