九十五.たまにはいいよスタンピード
「で? 具体的にはどうするの、ドナルド?」
僕の問いかけに、なおもドナルドはニンマリと笑うだけで答えない。
ああ! これは絶対に僕を驚かそうとしてるなあ。二人でイタズラ合戦をしている時にみせる顔じゃないかあ。この場面にはそぐわないその顔を見ていると、なんだかなにも考えないで一緒に遊んでた時を思い出して、ささくれていた気持ちがすううっと癒されるのがわかる。
きっと僕の様子がおかしいのを察してくれたんだろう。
ありがとう、友達。
でもそんな感謝は心に秘めておく。照れくさいから。
そういうんは全部終わってからねえ!
「もう、いいから! 意地悪しないで早く教えてよう!」
ぴょんぴょんと狸の姿で飛び跳ねる。
その姿を見てドナルドは声をあげて笑う。僕の様子が戻ったのを敏感に感じ取っているみたいだ。
「カカ、仕方ない。教えてやろう。驚くなよ?」
「驚かせたいんでしょう!? しっかりと驚いてあげるから! 早く! みんな待ってるよう! 世界の危機だよ! 王笏をなくした僕がいう事じゃないけどねえ!」
まったくだという顔でドナルドは頷くが、他の皆さんは違う。
僕の言葉通り、鳳のみんなはもちろん、ロンさんをはじめとした魔族の皆さん、おやじを含めた狸たち、ヤンデ、キンヒメも、皆一様に頷きながら、ドナルドの言葉を待っているのだから。
そんなみんなをドナルドは見回してから満足したように口を開いた。
「ドリースダンジョンからスタンピードを起こすのだ」
驚きというよりは疑問が先に立つ。
スタンピード。
叡智曰く、パンデミックした魔物が暴走、狂乱状態になり、それが大挙して、破壊の限りを尽くす事を表す言葉だという。いや知識としては知ってる知ってるう。
でもそれって偶発的に起こるものであって、意図的に起こせるもんじゃなくない?
周りの様子を見ると。
スタンピードの恐ろしさを知っているのは人間であるヤンデと、年をとった狸であるおやじだけで、この二人はその言葉だけでプルプルと恐怖に怯えているけれど、魔族なんかは僕と同じ感想なようでその実現性を案じている風だなあ。
「なんだ、誰も朕の偉業に驚かんのか?」
思ったよりも反応が薄くてドナルド不服そう。
驚いている者は少なく、驚いていたとて、ヤンデはちっさいし、狸はいつだってビビってるもんね。
「いやあ、多分、みんなスタンピードが意図的に起こせるか?って疑問の方が大きいんだと思うよ?」
ここはいっちょみんなの気持ちを代弁しようじゃないかあ。
「うむ、リントのいう通りだな、あれはダンジョンの管理不行き届きの結果だろう?」
ロンさんが僕の意見に同意する。
どうやら魔族の世界にもダンジョンはあるらしく。その中の魔物を間引いたりしてしっかりと管理しており、その管理が行き届かないと発生するものがスタンピードという認識らしい。
僕の認識も同じ感じい。
後ろに控えている魔族の皆さんもうんうんと頷いている。その中には魔王決定戦で戦ったみんなの顔も見える。
魔族の世界にもダンジョンがあってスタンピードが発生する事もあるが、意図的に起こす事はおろか、それを利用して敵を殲滅するという事にピンときていないらしい。
「普通はそうだな。だが、坩堝の森の管理者たる鳳の王、つまりは朕にはそれができるのだ」
「ふむ、それが出来るのなら、その波に魔族も乗って一気呵成に王都を攻め落とせるが……本当にできるのか?」
「カカ、魔の王よ、まだ疑うか。ならば実際にやってみせるのが良かろう!」
そう言ってドナルドは息を吸い込んだ。
途端に空気がシンと張り詰めた。
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