1 39・1
輝な子がその日の朝、ベッドから身を起こそうとすると、彼女は起き上がれなかった。大変な不調だった。布団から一歩も出れず、やっとのことで這い出ると風呂場に向かって、シャワーを浴びた。
輝な子にもこれが悪手だということはすぐに分かった。台所に向かう頃には、体力は0だ。以前、市役所が彼女の住むGHに配布したアルファ米をザッと鍋にぶちまけ、ひと先ずかゆを作る。こんな物でもおなかは膨れるはずだ。
――なんで私が。
輝な子は思う。
――こんな目にばっかり。
輝な子は障碍者雇用で、大手の企業で働き始めたばかりだ。彼女の住む隣の部屋からは不審者の唸り声が今も届く。いつか殺されるんじゃないかと思う。GHは先日、防犯ロックを住民に支給した。企業の採用は最初は嬉しかったが、彼女のいる課全体が冷遇されていると、感じる。
頑張らなきゃ、と思うが、その頑張りが空回りしていくのが辛い。元気とか挨拶とか、そんなものは必要じゃないんだという空気を感じる。大切なのは下を向くことだ、という空気。
どうして「こう」なんだろう?
その結果がこれだ。39・1度。輝な子は関係部署に連絡を取った後、ここでのたれ死んだときに、呪う相手を数え始めた。この状況を知人やGHの管理人に話しても、思ったような返事は帰ってこず、それで輝な子の心は傷ついていた。彼女は言葉が欲しかったのだ。一度耳にしただけで心の平穏が得られるような単語や、実効性のある行動についての話が。
嘘でもいいから、そうしたものがあると輝な子は言ってほしかった。そうでなければ傍に来て、細々としたことをやってくれるだけでいいのだ。それだけでどれだけ感謝するか。
それは、決まりだから、できないという。
それに、輝な子は絶望した。