表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇落ち  作者: 中川 篤
1/3

1 39・1



 輝な子がその日の朝、ベッドから身を起こそうとすると、彼女は起き上がれなかった。大変な不調だった。布団から一歩も出れず、やっとのことで這い出ると風呂場に向かって、シャワーを浴びた。

 輝な子にもこれが悪手だということはすぐに分かった。台所に向かう頃には、体力は0だ。以前、市役所が彼女の住むGHに配布したアルファ米をザッと鍋にぶちまけ、ひと先ずかゆを作る。こんな物でもおなかは膨れるはずだ。

――なんで私が。

 輝な子は思う。

――こんな目にばっかり。

 輝な子は障碍者雇用で、大手の企業で働き始めたばかりだ。彼女の住む隣の部屋からは不審者の唸り声が今も届く。いつか殺されるんじゃないかと思う。GHは先日、防犯ロックを住民に支給した。企業の採用は最初は嬉しかったが、彼女のいる課全体が冷遇されていると、感じる。

 頑張らなきゃ、と思うが、その頑張りが空回りしていくのが辛い。元気とか挨拶とか、そんなものは必要じゃないんだという空気を感じる。大切なのは下を向くことだ、という空気。

 どうして「こう」なんだろう?

 その結果がこれだ。39・1度。輝な子は関係部署に連絡を取った後、ここでのたれ死んだときに、呪う相手を数え始めた。この状況を知人やGHの管理人に話しても、思ったような返事は帰ってこず、それで輝な子の心は傷ついていた。彼女は言葉が欲しかったのだ。一度耳にしただけで心の平穏が得られるような単語や、実効性のある行動についての話が。

 嘘でもいいから、そうしたものがあると輝な子は言ってほしかった。そうでなければ傍に来て、細々としたことをやってくれるだけでいいのだ。それだけでどれだけ感謝するか。

 それは、決まりだから、できないという。

 それに、輝な子は絶望した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ