二話 やつらが来ました
二話 やつらが来ました
「ブーン……ブーン……」
要の耳元で蚊の羽音が聞こえる。そのせいで不快になって目を覚ました。
「やあ」
「要さん」
枕の側にはライトハンドとレフトハンドがいた。先程の蚊はモノマネで、二人の仕業らしい。
「最悪の起こしかただ」
「仕方ねえだろ。お前みたいな巨体揺さぶれないし」
離れたテーブルの上には黒星がいた。三人一緒にやって来たみたいだ。
「どこから入って来たんですか?」
「人間の家なんて隙間だらけだからね」
「入り放題さ」
二人はニヤリと笑う。
「朝飯を作ってきた。子供ってのはどこにいる?」
床には鍋が置いてある。かすかな匂いから察するに中華粥のようだ。
「エスパーダと寝ているはずだ」
黒星は頷いて、二人に言った。
「ライトハンド、レフトハンド。起こしてやれ」
「アイアイサー!」
嬉々として押し入れに向かっていく二人を見て、要は人選を間違えたのではないかと後悔した。
サイズはパジャマを着て、不機嫌そうな顔で出てきて、スミス姉妹と初対面のあいさつをかわしていた。
「僕、ライトハンド」
「僕、レフトハンド」
「二人合わせて」
「スミス姉妹」
朝からテンションの高い事だ。左右対称なポーズを決めている。
サイズはまだ状況が理解出来ていないようだ。
「君の名前は?」
「教えてくんない?」
「サイズ……レシピ」
「僕等は君の面倒を見るために要さんに頼まれたんだ」
「要さんは仕事があるらしいからね」
「え?」
サイズは不安そうな顔になった。
「エスパーダも?」
「多分そう」
「だから君を一人ぼっちにさせまいと来たんだよ」
「あの人も?」
サイズは黒星を指差した。
「うんにゃ」
「アレは僕等のご飯係だよ」
「アレってなんだ。メシ抜きにするぞ」
「そんな殺生な」
「ブーブー」
二人は真剣に抗議していた。それが面白かったのか、サイズに笑顔が。
「やっと笑ったね」
「なかなかかわいいじゃないか」
サイズは笑顔で頷いた。子供に謙虚さはないらしい。
「よし、お前等。エスパーダを起こして、朝飯にしよう」
黒星が号令をかけると、スミス姉妹だけでなくサイズも悪い顔をして押し入れに戻っていった。