一話 彼が電話を掛けました
一話 彼が電話をかけました
電話をかけた相手はライトハンドだった。
「要さん?」
「何の用?」
レフトハンドの声も聞こえる。
「君達に子守を頼めないかなって思って」
要は仕事で自分達が世話をできない事、明日能達がが迎えにくる事を話した。
「子守?」
「姉御以外に子供を産ませたの?」
「違う!」
思わず語気を荒げてしまう。
「じゃあまさか姉御が?」
「他の男の子供を?」
「面倒みてもらう子は能の彼氏と住んでいる小人だ」
「そんな孫請けみたいな仕事」
「僕等は受けないよ」
拒否されるのは想定外だ。
「でも能に服作ってもらうなら、恩を売っておいたほうが良いんじゃないかな」
「僕等はピクシー族だ。デカい子のお守りなんて無理なのさ」
「それに要さんがいないとご飯出ないもんね」
これが本音のようだ。
「作り置きしておくよ」
「いやいや」
「出来たてが一番でしょ」
なんで小人は食べ物に固執するのだろう。しかもわがまま。
要はこのむちゃぶりに必死に応えた。そして一つの妥協案を思いついた。
「師匠に頼むしかない」
「師匠?」
「って誰?」
「李黒星。料理の師匠」
「え? 無理だよ」
「あの人、子供苦手じゃない」
「だから、サイズ……子供の事はライトハンドとレフトハンドでやって、ご飯を師匠が作るんだ」
「都合良すぎない?」
「黒星がOKする保証ないじゃん」
二人は乗り気ではないらしい。
「仕事は休めないんだ。それに女性にしか頼めない」
要はアックスがやらかした事を告げ口した。
二人は声を揃えて、「あー」と何かを察した声を出す。
「アックスが残念なのは平常運転だから」
「仕方がないよね」
「それがサイズが男の小人を嫌わないとも限らなくて」
誰もアックスが残念だという事を否定しなかった。そして話はもう流れていっている。
「僕等はしかないわけだね」
「頼られるのはイヤじゃないんだけど、要さんの代わりが黒星っていうのがね」
まだ了承してくれない。
「分かった。今度何か二人のために作るから」
「よっしゃぁ!」
「約束だよ」
とりあえず二人は朝イチで来てくれる事になった。あれだけゴネていたのは何だったのか。
「これから話し合う事があるから切るね」
「そうだ。何を作ってもらうか決めないといけない」
要の返事を聞く前に電話は切られた。それに要のレパートリーと相談してくれる気もないようだ。二人の食べたい物を練習なしに作る事になるかもしれない。気軽に言うべきではなかった。
「はぁ」
ため息をつき、要は黒星に電話をかける。
「あ、もしもし師匠ですか? 実は……」
要はライトハンドとレフトハンドにサイズの子守りを頼んだ事、その条件として黒星に料理を振る舞って欲しい事を告げた。
「子供ってお前等のか?」
「いえ、知り合いの子を預かってまして。期間が延長されて」
「それであの二人か」
「アックスは嫌われてしまって、先ほど追い出されました」
「なるほど俺は昼飯を用意すれば良いのか?」
「いえ出来れば朝に」
「よし分かった。二人を拾うのは任せておけ」
「ありがとうございます!」
これで根回しは終わった。後は予定通りに進むかどうかだ。