社会人
"ハア、もう疲れた"
僕は跳んだ
僕は蝶になった
蝶は空高く舞って行った
僕は啞然としながらそれをただただ眺めていた
その蝶が夜空に浮かぶ星程の大きさになるまで・・・
僕は目が覚めた
誰一人として居ない電車の中で
"この電車は何なんだ?"
そんな事を思いながらふと窓に目をやる
外では綺麗な蝶が舞っていた
それとその後ろには美しい夜空
まるでこの世の物とは思えない景色だった
僕がその景色に見とれていた時
窓ガラスの反射で誰かの姿が見えた
振り返るとそこにはスーツを身にまといメガネをかけた真面目そうな人間が向かいの席に座っていた
「貴方はどうしてこの電車に?」
その人間が僕にそう尋ねてきた
"さて、どうしてだっただろう"
そんな事を思った
僕はどうやらこの電車に乗る前の記憶が無いみたいだ
「さぁ、わかりません」
僕がその人にそう言うとその人は悲しげな表情をした
「実は私もでしてね」
人懐っこい笑みを浮かべてその人は言った
"なんだろう、この人の笑みを僕は見覚えがある気がする"
そう思いながら僕は無いはずの記憶で頭が痛くなる
「にしてもこの景色綺麗ですね」
その人が僕に話しかけてきた
「そうですねぇ」
なんと返せば分からなかったので適当に相槌を打った
「私はこんな景色が大好きなんですよ」
「夜空を舞う蝶は美しいですからねぇ」
その人は僕にそんな事を言って一拍置く
「でも蝶だって悩みや苦しみから逃れるために舞っているんですよ」
一拍置いてその人はそう言った
"人間みたいだな"
僕はそう思いながらその人の話に頷いた
「おっと、私はそろそろ行きますね」
その人はそう言って去っていった
美しい蝶の舞う空を走る電車の中その人は消えていった・・・