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ウチのクラスが異世界行きに当選してしまった!ー  作者: 大盛小石
第一章 一か月後、ポート・レベッカで。
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2話 化受園(オーチャード) 

 化受園計画、オーチャード・プログラムとも呼ばれるこの計画の発足は、おおよそ45年前。当時の主要国によって企画・発表され、初めて化受園計画が施行されたのは1948年の事だ。当時既に希望者を募り、企画を始動する段階で全世界で公表された。内容はカイロもよく覚えていないのだが、確か「グローバル化を目指す国境無き学業プログラム」みたいなものだったはずだ。つまりは、複数の国でお金を出し合って一つの学校を作りました、というものだろう。高等教育機関に進む全ての人間は、この計画に同意するか否かの同意書の様なものを書く。全員同意しているクラスの中から、この化受園計画に参加するクラスを全世界から毎年7つ選ぶ。そう、全世界からたったの7つだ。

「それが何でわざわざ当たるかな………」

 全身に風と浮遊感を感じながらそう独り言ちる。カイロは涙目になりながらひたすらに現実逃避を続けていた。

「デ~ジャヴデジャヴデ~ジャヴや~い」

 ちょっと自作の歌を歌ってみるも、現実は何と冷たい事か。ホント冷たい。体感的にも。

 カイロは空中落下Part2を味わっていた。象牙の門に足を踏み入れてみればあらビックリ。そこは何と高度1000メートルでした!なんて

「笑えね~~~~~~~~」

 どうしよう、このまま地面に激突するんだろうか。万有引力によって無惨に死を遂げるんだろうか。リンゴみたいな固さならともかく、いやこの高さならリンゴだって木っ端微塵になるだろうが、人間なんかトマトみたいに飛び散るに違いない。

「トマトソースは嫌だトマトソースは嫌だトマトソースは嫌だトマトソースは嫌だ」

 奇跡的に助かりました♡なんて展開なんか想像できない。この状況で楽観的になるほど生存本能終わってない。

「意味深な門潜らせんならもっと救済措置用意しとけよ!パラシュートとか置いとけよ!」

 何かないのか、生き残る手段‼懸命に頭を巡らせ、ふと再び組合長のあの言葉が頭を過る。


『今なら特殊な能力だけでなく!身を守るためのお守りまでお付けいたします!』


「特殊な能力?」

 そうか、なんかごちゃごちゃ言ってたが、異世界生活だのなんだのと言っていた。にわかには信じられないが、これはまさかの異世界召喚というヤツなのでは⁉ ふん、つまりはその特殊な能力で助かるってわけだな。この俺の!特殊な能力で!

 カイロは口元を吊り上げ少し得意げにふん、と鼻を鳴らす。

 そうとなれば安心だ。さあ、これが俺の異世界生活の始まり、華々しくいこうじゃないか!

「それじゃあ、オッラァァァァ!!!!!!!!!!!!!!」

気合いを入れて雄たけびを上げ、右手を突き出し手に力を籠める。ああ、なんだか手平に力が集まって

「来ない」

えっ?えっ?と自分の手を見返すも、何の変化もない。というか、俺、特殊な能力をどうやって使うか知らない。

え、そんなのアリ?

「やっぱパラシュート付けとけよおおおおおおおおお!!!!!!」

 叫び声も空しく、カイロの体は加速していくのだった。



 風が気持ちいい。頬を撫でる爽やかさの中に、わずかに青草の匂いが混ざっている。背中や手足、首元に感じる柔らかなくすぐったさがそれかもしれない。

 な~んかものすごいデジャヴだな~、いやでもなんか甘い香りがするような…と思いながら、カイロはわずかに目を開け、瞬間カッと目を見開く。

「ん、起きたかい?」

 眼前には豊かな膨らみ。この角度で見るのは初めてだが、そう、これは間違いない、この少し重たげに揺れているモノは、O☆P☆P☆A☆I!!!!!!

 視界の端では黒く長い癖のある髪がゆらゆらと揺れ、頭の下はなんだか暖かくて柔らかい。この状態は、いわゆる膝枕、という体勢なのではないだろうか。人生初、女の人の膝枕!!!!この際、顔はどうでもいい。なんだかいい香りもするし、これだけご褒美のような状況を作ってもらったのだからありがとうございます!!!!!! いやしかし、欲を言うなら母性マシマシ包容力のあるゆったりお姉様だと嬉しい。

「起き上がれるかな?体に不調はない?」

「あ、いえ、特には」

「それは良かった」

 そう言いながらカイロはそろりと起き上がる。どうやら自分の上着をかけてくれたらしく、ターコイズブルーのコートが体からずり落ちそうになる。そうしてふっと視界に入ってきた彼女の顔に、目線が釘付けになった。

 白く、しかし健康的な肌に、整った目鼻立ち。黒い瞳は濡れるようで、長い睫毛が影を落としている。癖のある長い黒髪は豊かで艶やか、薄い桜色の唇はうっすらと笑みをたたえていた。徳利になっている丈が長めの白いニットの上からも分かるそのスタイルは素晴らしく、黒いズボンをはいているであろう足は程よい肉付きで大変素晴らしい。要するに、めっちゃ美人!!

「ふむ、激しい外傷も無いようだし、大丈夫そうだ」

 彼女はカイロの体をじっくり見つめ、体をポンポン、と叩いてくる。髪が揺れてなんだか甘いような香りが尾行をくすぐった。イカン、これはイカン!!!!!!

「あ、あの、ところでココは…」

 目線をうろうろさせながらカイロは彼女に問う。しどろもどろになってしまっているが、仕方がない。彼女は、ああ、とにっこり笑って白魚のような手でスッとカイロの後ろを指さす。その指先に誘われて、カイロの視線も後ろの方へ移る。

 さあっと風が目の前をよぎり少し目を細める。しかし、眼前に広がる景色にカイロは大きく目を見開いた。

 見下ろせるは巨大な街並み。中央に塔のような、ホールのような白い建物が聳え立ち、それを囲むように大小の建物がひしめき合い町が展開されている。町、というよりも都と言った方がいいのかもしれない。しかしその様相は現代の物とは異なり、数百年ほど時代を遡った、中世ヨーロッパかのようだった。


「ここは化受(オーチャー)()だよ」



******



「あの、すみません。もう一度言っていただけますか」

 死んだような眼のカイロに、彼女は美しい笑みを浮かべて頷いた。

「ああ、君は空から降ってきたんだが、あそこの大きな木に突っ込み、転がり落ちてくる最中いろんな枝葉に服を洋服を引っ掛け、驚いたカラスに突かれて最終的にはノーパンノースリーブの状態のまま一番下の太い幹に逆さまの状態でぶら下がっていた」

「うばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 小高い丘の、少し林になっている部分。その道のど真ん中で、カイロは余りの恥ずかしさに頭を抱えた。それと同時に自分の現在の服装を見てみる。簡単な麻のシャツに茶色のズボン。明らかに先ほどまで着ていた筈の制服ではない。要するに、俺はこの美女に下半身丸出しの所を保護され着替えまでさせられあまつさえ介抱までしてもらったと!そういうことなのか⁉

「よく膝枕しましたね」

「面白いものを見せてもらったからね」

 ああああああああ!最ッ悪だ!いや、見ようによってはご褒美なのか?って違う!そうじゃない!ここまでしてもらってありがとうございますだろう!いやホントいろんな意味でありがとうございます!

「ええっと、本当に、なんとお礼を申し上げたらよいやら………ありがとうございます」

「いやいや」

「それでその、この辺りに俺くらいの年齢の奴が30人くらい集まってませんでしたか?同級生なんですが」

 彼女は目を瞬かせ、少し考えるように目線を右上に寄せる。

「うーん、見てないなぁ。同級生ってことは、学生かい?なら、君のあのズタズタになった服と同じものを着てる?」

「ええ、まあ、はい」

 ズタズタって。確かに見るも無残にだけれども。

「ならやっぱり見てないな。あんな格好目立つし」

 なら、すでに他の奴らは出発したという事か。いくらカイロが気絶していたとはいえ、流石に一日も経っていないだろう。やっぱり薄情な奴らだ。

「そうですか。じゃあ、ポート・レベッカってどこですか?」

 ここからそう遠くないとありがたいのだが、近くにあれだけ巨大な都市があるとなるとその中にある店の名前か何かだろうか。

 そう期待を浮かべながら彼女を見つめると、今度は少し不思議そうに首をひねりながら答える。

「ポート・レベッカなら、ここから3週間はかかるけど…」

「3週間⁉」

 思わず大きな声が出た。今なんと言った。3週間だと!?

「それに君、今年の学院の生徒だろう?わざわざポートレベッカまで行くのかい?」

「ええ、なんか………そこに行くってクラスメイトから聞いて………」

 もはや呆然としてしまったカイロに、彼女は苦笑しながら何かを肩にかけてくれる。それは先ほど体にかけられていたターコイズブルーのコートだった。よく見るとフード付きでボタンやベルトのついていない、簡素な装飾のコートだ。しかも、けっこうサイズがぴったり。畜生。

「お金はあんまり持ち合わせがないけど、これ、あげるよ」

「えっ、そんな、悪いですよ」

「こういう時は遠慮しない。それに君、持ち合わせもないだろう」

 確かにそうだ。いろんなことがありすぎてもはや何が何だか分からないが、荷物も何も持っていないカイロは一文無しに等しい。売れるようなものも持っていない。強いて言うならあのズタボロの制服ぐらいだろうが、果たしてあれに価値を見出してもらえるだろうか。

 彼女に貰ったわずかばかりのコートを握りしめながら、ちょっと目が潤んでくる。

「とりあえず、ここから道なりに化受園と反対に歩いて行ったら、次の村に着くはずだ。夕方までには着くだろうし、そこに行ってみたらどうだい?」

 途方に暮れるカイロを哀れに思ったのか、彼女は慰めるように肩をたたいてくれる。なんて優しいんだろう。美人な上にスタイルも良くて、オマケにこんないい人だ。これはいつか恩返しせねば罰が当たる。

「あの、お名前伺っても良いですか?」

 彼女は優しく微笑んで、後ろで手を組む。

「私はペルシカ。君は?」

「本儀海路です。」

「モトギ…、うーん、カイロで良いかな?」

「はい」

 カイロが頷くと、ペルシカは満足そうに頷き返す。

「じゃあカイロ、君の旅路が豊かなものでありますよう」

「ペルシカさんも、このお礼はまたいずれ!」

 手を振りながらペルシカと別れ、カイロは道を歩いて行く。

 かなりグダグダだが、これが俺の異世界生活の始まりだ。夢と希望と期待を胸に、気合いを入れていこうじゃないか!


次回3話「麗しの優等生」です。

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