第一章プロローグ 「ご当選おめでとうございます!」
「おめでとうございます!」
カランコロンカランコロン!
高らかに鳴るベルの音、一緒に振られているでんでん太鼓はカポカポ軽快な音を立てている。ついでに両足を交互に上げてぴょこぴょこ小躍りをしているため、履いている下駄がカンカン響く。
教壇に立ち両腕を振りながらまるで商店街の福引にでもあたったかのように赤い半被をひらめかせる人物は、顔面に安っぽい天狗の面をつけ、その上から手拭いをかぶっている。半被の下はよれたスーツ姿で、どこぞの浮かれた商店街の組合長にでも見えそうである。
「な、な、なんと!皆さんは『オーチャード計画』にご当選いたしました!」
目の前の人物にあっけにとられていた教室内は、その一言にわずかにざわつく。そのざわつきをものともせず、テレフォンショッピングの売り文句の様な口調で天狗面の組合長は続けた。
「今から30分以内にオーチャードにいらっしゃった方には、今なら特殊な能力だけでなく!身を守るためのお守りまでお付けいたします!」
組合長の言っている内容が理解できず、教室内のざわめきが大きくなる。それまでぽかんとしていた担任が「静かに!」と叫びながら慌てて組合長に早足で駆け寄る。
「あの、とりあえず少しお話を……」
「皆さんを待ち受けるのはスリル、冒険、ファンタジー世界、それからえーっと、そう、今時はやりの異世界生活です!ご当選された皆さんはなんと衣食住の保証付き!」
禿げ上がった汗に若干の脂汗をかきながら、担任は少し気圧される。しかしそれでも食って掛かろうとする担任に対し、組合長はぱっと口元を抑えて発言を制す。
「象牙の門を潜ればそこは何と不思議な世界!皆さんお気軽にどうぞお試しください」
面の下は見えないが、組合長がわずかに笑ったような雰囲気を醸し出す。なおも何か言おうとした担任にかぶせるように組合長は声を張る。
「それでは皆様、改めまして」
ふわり、と足下から風が頬を撫でる。次に教室の真ん中あたりの列の生徒の制服がふわりと風にあおられたように膨らんで、瞬間、教室の床に亀裂が入る。
「ご当選おめでとうございます!」
「「「「「「「「ぎ、ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」
「一か月後、ポート・レベッカでお会いしましょ~」
パカッと軽い音が鳴り、強烈な浮遊感が遅れて体を襲う。激烈な絶叫と共に、富山高校1年3組の生徒たちは果てのない地面に落下していったのだった。