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花びらのたより  作者: 白百合三咲
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最終回 届かなかった手紙

 琴葉が芳子と別れて幾年もの月日が流れた。

2017年。終戦から72年が経ち年号も変わった平成29年の9月。琴葉は天寿を全うした。

 神奈川の自宅では葵が祖母の遺品を整理していた。押し入れを開けると生前祖母が愛用していた物がでてくる。 

皆女学生時代に書いていた日記や手紙があった。「園寺琴葉」

日記の表紙には結婚前の名が書かれている。

葵は日記のページをめくる。琴葉は日記に同じ人物のことばかり書いてあった。よほどその人が好きだったのだろう。 

 手紙は全て琴葉に宛てた物であったが差出人の名前がない。手紙の中をみるのは気が引けるが葵を中を開ける。

全て同じ人からの物で琴葉の日記に書かれていた人物だ。


「川島芳子」

それはかつて長きに渡って中国大陸を納めた王朝の末裔、そして戦中に日本と中国で人気を博した男装の麗人の名であった。

 琴葉は生前芳子との思い出をよく嬉しそうに話してた。お墓にも連れてってもらったことがある。

 再び日記帳を開くと白い封筒が落ちてきた。

そこには宛名はなく、裏には琴葉の名前が書いてあった。

 きっと出し忘れた手紙だろうと思い葵は中を開く。


「芳子様へ

  私は今この手紙をどこにだすべきか迷っています。貴女に届くことはないのだから。

それでも私は書かずにはいられません。

私は今日芳子様の処刑を新聞で知りました。この悲しみをどこにぶつけたらいいか分かりません。きっと私は芳子様を祖国反逆者として語り継ぐであろう中国史を永久に恨むことでしょう。

 そして私自身も。もしもあの日横浜港で芳子様が北京に帰るのを止めていたら、北京ではなく他の地で共に新たな道を歩もうと言っていれば違う未来があったでしょう。

 私は芳子様のニュースを新聞で見る度胸が痛みました。「戦犯、反逆者、漢奸」心ない言葉の数々が胸を痛みつけます。芳子様は日本人に裏切られながら、日本人である私を快く受け入れてくれました。例え国が違っても心は通い合っていた。そんな芳子様が祖国反逆者でもましてや非国民でもあるはずがありません。むしろ芳子様こそが真の愛国者と言うべきでしょう。

 芳子様は以前私にお兄ちゃんと呼んでほしいとおっしゃっていました。だけど私にはそれができませんでした。なぜならそう呼んでしまえば私達は兄妹みたいになってしまうから。

 私はずっと貴女が好きでした。だから私のことは妹ではなく一女性として見てもらいたかった。

 そんな我が儘が芳子様の切なる望みを叶えるのを邪魔してしまった。それだけが心残りです。

どうか今は安らかにお眠りください。

       昭和23年3月25日 園寺琴葉」



昭和23年3月25日。それは芳子が北京の監獄で処刑された日であった。この手紙は出し忘れたのではない。出すことができなかったのだ。


「葵ちゃん」

「はるこおばちゃん。」

そこに琴葉の姉であるはるこがやってきた。

はるこは今年で96才。かつてはこの家に住んでいたが夫の死後息子夫婦と共に東京に移り住んだ。葵が幼い頃は時々遊びに来ては葵の面倒をよく見てくれた。

「琴葉、芳子さんとの思い出皆取ってあったんだね。」

はるこは葵が広げた手紙の山に目をやる。

「おばちゃん、これ」

葵が差し出したのは琴葉が出せなかった手紙だ。

「これお棺に入れない?」

しかし

「その必要はないわよ。」

はるこからは意外な返答が帰ってきた。

「きっと琴葉は今頃天国で芳子さんと再会している。今まで言えなかったこと直接伝えてると思うわ。」

「私もそう思う。」

葵は納得すると手紙をもとあった場所に再びしまう。

                  FIN

琴葉のモデルの方は実際も手紙のやりとりがあったり、北京に誘われたのと一部実際のエピソードも取り入れてます。

ですが作中の手紙の文面は作者オリジナルです。 

 彼女は晩年芳子様との思い出を本にし、芳子様の生存説を信じ、再会を望んでいたと語っておりました。

 

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