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花びらのたより  作者: 白百合三咲
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非国民

「琴葉、どういことだ?!説明しなさい。」

夏休みも明けた9月2日。夕食の後父に問い質された。

 その日は芳子が体調がいいというので横浜で会う約束をしていた。しかしその姿を運悪く父の部下でもあり、姉はるこの婚約者に見られてしまった。そして芳子と会っていることを父に知られてしまったのだ。

 琴葉の父は軍の指揮をしている。当然芳子の噂も耳にしている。

「いつからだ?川島とは。」

「夏休みに入る前です。」

「それから毎日のように会いに行ってたのか?」

「はい、しかし芳子様は女性です。疚しいことなんてありません。」

「そんなことを言ってるんじゃない!!お前はあの女が何をしたか分かってるのか?軍の政策を非難し敵国である中国人を庇うような言動ばかりしている。あいつは非国民だ。」 

「待って下さい。お父様。芳子様は中国人です。中国人を庇うのは当然ではないでしょうか?」

「どちらにせよあの女は日本軍、いや大日本帝国にとって邪魔な存在だ。何を吹き込まれたか知らないがあの女には二度と会うな。はるこがどうなってもいいのか?」   

はるこの婚約者は父の部下で陸軍所属。はることの結婚で昇格も約束されている。そうなれば園寺家も安泰なのだ。

「川島には手紙を書きなさい。もう二度と会えないと。あんな女といたらお前まで周りから睨まれる。はるこだけでなくお前のためでもある。分かるな?」

そう言うと父は書斎へと戻っていった。



 琴葉は部屋に戻って父に言われた通り便箋にペンを走らせる。

「芳子様へ

  この手紙と共に私は芳子様とお別れするでしょう。今日芳子様と横浜で会っていたところをお姉様の婚約者に目撃され父の知ることとなってしまいました。

父は日本軍を指揮しており、お姉様の婚約者も父の部下です。きっと世間体や体面を保つために私を芳子様と会わせたくないのでしょう。

 私は芳子様がなぜ日中両国からこんな仕打ちを受けなければならないのか理解できません。芳子様は誰よりも日本と中国の友好を願い行動していたはずなのに。日中が戦争なんてしなければよかったのに。

 琴葉は不本意ながら芳子様とお別れします。

        昭和16年9月2日 園寺琴葉」


琴葉は手紙を女中に渡す。女中は父から手紙がかけたら預かるように言われていた。

中を確認する女中。芳子への想いを第三者に覗かれるのはいい気がしない。

「お嬢様、明日には投函しておきます。」

(これで二度と芳子様に会えなくなる。)

琴葉は胸が引き裂かれるような気持ちでいっぱいになった。



 翌日琴葉は芳子が入院する病院には寄らずそのまままっすぐ帰る。しかしどう過ごしていいか分からない琴葉。その2日後、自宅のポストに琴葉宛の手紙が入っていた。

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