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花びらのたより  作者: 白百合三咲
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登校日

 8月も終わりに差し掛かった頃琴葉は女学生最後の夏休みを過ごしていた。

その日は登校日で久々に学校。教室では級友達と再会に心を弾ませていた。

級友達は銀座まで買い物に行ったり、兵庫まで宝塚の舞台を観に行ったりと各々特別な時間を過ごしていたようだ。琴葉は少女歌劇等特別な場所には行かなかったがそれでも良かった。なぜなら少女歌劇のすたあにも似た人に毎日会っていたから。

 琴葉達は教室の掃除をすますと校庭で配球(ばれーぼーる)級対抗試合(くらすまっち)を行った。琴葉の級には倶楽部に入ってる子の活躍により見事優勝した。


 昼休み。級友達が机をくっつけ合わせお昼にしてる間、琴葉は1人自分の机でお弁当を食べながら便箋を取り出し手紙を書いていた。

「琴葉さん。」

琴葉に声を書けてきたのは圭子。学級委員をしてる優等生だ。

「どうしたの?圭子さん。」

「ねえ琴葉さん、芳子様ってどなた?」

圭子は琴葉の手紙に書き出した芳子の名前に目をやる。

「ちょっと見ないでよ。恥ずかしいじゃない。」

「もしかしたらエス?」

「違うわよ。」

「圭子さん、エスではなく疑似姉妹よ。」

他の級友達が割って入ってくる。

琴葉の通う山ノ手女学院ではかつて上級生と下級生が特別親しくなることを英語のsisterの頭文字をとり、「エス」と言っていた。しかし今は敵性語排除令により日本語で「疑似姉妹」と言っている。

「皆さん、見ないで下さい。」

琴葉は立ち上がり教室を出ると級友達がおしゃべりを始める。

「ねえ、琴葉さん怪しくない?」

「芳子様って呼ぶぐらいだから年上よね?」

「もしかしたら専科か先生かしら?」

「でも芳子なんて名前の方いたかしら?」

「ひょっとしたら卒業生かもしれないわ。」





 琴葉が手紙に書いていた「芳子」は山ノ手女学院の専科生でも先生でも卒業生でもありません。 

「川島芳子」

中国の王朝の王女に生まれかつて日中両国を賑わせた男装の麗人なのです。  

なぜ一女学生である琴葉がそんな人物と親しい関係にあるのか?

 夏休みに入る前親友が入院してる病院にお見舞いに行ったときだ。琴葉は院内で迷子になり中庭へと迷い込む。

その庭で男物の着物を着て佇んでいたのが芳子だった。薔薇が咲き誇る庭のベンチに和服姿で腰掛ける男装の麗人。

琴葉にとってはかつて少女雑誌で見た宝塚歌劇の男役そのものでした。琴葉が芳子に惹かれるまで時間はかかりませんでした。

少し話しただけだが芳子に「また会いに来てほしい。」と言われ毎日病室まで会いにいくようになった。


「芳子様へ

 今日は女学校の登校日です。帰りに少しだけ顔をみせに寄ろうと思いましたがあまり遅くなるといけないので手紙だけ残していきます。

 学校では級友達と久しぶりに会えておしゃべりが弾みました。配球(ばれーぼーる)級対抗試合(くらすまっち)では私の級が優勝しました。

 お昼休みにこの手紙を書いていたら同じ級の圭子さんに芳子様のことを聞かれましたが答えませんでした。だってお話したら芳子様を独り占めできなくなってしまいそうだったから。

芳子様には琴葉だけの芳子様でいてほしいです。って思うのは私の我が儘でしょうか? 

       昭和16年8月25日 園寺琴葉」

琴葉は帰り際に病院によると手紙は受付の看護婦に預けた。

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