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7.帰ってきた新人達はようやく兵士達全員と会うことができたのが、馴染めているかは別である

 家に帰ってきたホーリーは、疲労感から眠気に襲われているため、早めに寝てしまおうと部屋の扉を開けた。


 部屋の中に知らない女が3人いた。


 金髪でホーリーと同じくらいの身長の女。


 どこか目の焦点が合っていない気がしてくる赤毛の少女。


 そして、白銀の髪のキャニバルがいた。


 なぜホーリーの部屋にいるのか気になるが、寝たいのでさっさと出て行ってほしい。考えが顔に出ていたのか高身長の女が口を開いた。


「私はエスキモー。キャニバルに言われてここに来たの」


 ホーリーの考えは半分しか汲んでもらえなかったらしい。さっさと出て行ってくれ。ホーリーはキャニバルの方を見た。


「来ちゃった♡」


 周りに花が咲き乱れる感覚を得てしまいたくなるような笑顔を向けられた。何も心には来ず、怒りそうになってしまう。というか、何で来た?ホーリーは問い詰めたくて仕方なくなった。


「…………何で来た?」


「う~~ん。顔合わせ?」


 疑問形で言われても。ホーリーはもう自分ではどうしようもなくなったと感じたので、周りを頼ることにした。


「誰か~~っ!?」


「「「ちょっ!?」」」


 扉を開けて思い切り叫んだ。3人娘はかなり焦りながらホーリーを止めに掛かる。プラダ―やパイクが部屋から顔を出す。


「どうした?」


「オレの部屋に」


「はいはいはい。落ち着いて落ち着いて」


 間に入ったのはラントだった。男子棟になぜ女であるラントがいるのかは分からないが、ラントはホーリーの体を押して部屋に戻していった。ブローンも現れてプラダ―とパイクに何でもないと説明していった。


「ラント?」


「お、ラントじゃん」


「は~~い」


 ラントはキャニバル達に呼ばれて返事した。そして手をヒラヒラさせながら扉を閉めた。


 今何が起きたのかホーリーに理解できていない。キャニバル達の存在を兵士達は知っている?それは全員か?それとも一部か?


 そんなことを考えていると赤髪の少女に正面から抱き着かれた。この機会で、この行動。意味が分からん。あからさまに嫌そうな顔をしていると、エスキモーが気付いて説明を始めた。


「その娘はカプリース。気まぐれで無邪気な女の子よ。正直、一緒に住んでいるけど、私達でも未だに何を考えているのか分からないわ。今は、そうね。甘えているんじゃない?」


 カプリースと呼ばれた少女がぐりぐりと胸に顎を押し付けてくる。地味に痛いので止めてほしい、と思いつつ、ホーリーが頭を撫でてやる。どこか気持ちよさそうに目を細めて、嬉しそうに身動ぎした。どうやら本当に甘えてきているようだ。どこか猫のような雰囲気を感じる。


 すると、キャニバルがすっくと立ち上がった。


「そろそろ帰ろうか」


 本気で顔合わせだけのようだ。ここで対面してからまだ5分程度しか経っておらず、ホーリーがしたことなど、名前を聞いて助けを求めて頭を撫でただけだ。


 キャニバルが懐から紙を取り出すと、机の上に置いた。


「これは私達の家の場所ね。来てくれたら最上級のおもてなしをしてあげるよ」


 チュッと接吻を投げて3人娘が部屋から出て行った。ちなみにホーリーから離れようとしなかったカプリースは、エスキモーに無理矢理はがされて連れていかれた。シクシクと口で言っていた。かなりの棒読みだったが、本当に悲しかったのだろうか。


 残されたホーリーは扉から視線を切ると、自分の寝床に移した。


「…………寝よ」








 翌夜。ホーリーは酒場に来ていた。歓迎会だそうだ。出席者はホーリーを入れると、ホーリーと面識のあるブローン達以外に面識のない13人を加えた、計22人。1人遅れてきているそうだ。


 13人の自己紹介は長くなるのでこの場では割愛させていただこう。そして、新人3人の自己紹介が終わると、各々が飲食を始めた。ホーリーは豪快に肉をガブッとかっ食らうと、グビッと酒を呷った。周りからおぉーっと拍手が来る。ホーリーは良い気持ちになっているが、ふと現実に戻った。そういえば、この世界の飲酒って何歳からだ?


「どぉした、ホーリー。難しい顔しちゃってよぉ。酒でも飲んでパァーっといこうぜ!!」


 ラントはすっかり出来上がっており、ホーリーの肩に腕を回し、起伏の少ない(ないと言ったら殺される)体を密着させてきた。ホーリーは嫌そうな顔をしながらラントを見る。


 ホーリーは昔から酔っ払いが苦手だ。


 日本人であった時は、父が酒に呑まれて会社を破産させた。この時点でホーリーは酒を憎んだ。


 ホーリーが勇者だった時、仲間が酒に呑まれて喧嘩をして、酒場に相当の損害を出した。幸い、金は足りたが、仲間内で亀裂が入った。


 ホーリーが魔王だった時、四天王が酒狂いでかなり引いた。


 ホーリーが剣奴だった時、酒を飲んだ奴は次の日の試合で必ず死んだ。両方が飲んでいる時には相打ちで両方とも死んだ。


 ホーリーはラントの気を遣いながら言葉を発する。


「酒に対する規制ってどうなっているのかな、と思っただけです」


「規制?お前酒飲んだことねェの?10歳の誕生日って酒飲むもんじゃねェの?ハッ!?もしかしてお前、9歳!?」


「…………いや、そんなわけないだろ」


「そっか、祝ってもらえなかったんだな。ぐす。可哀想に。ぐす。お姉ちゃんが祝ってあげるよ?」


 ラントは慈愛に満ち満ちた目で、胸に飛び込んで来いとばかりに両腕を広げた。


 そんなラントを無視して、酒を一口含んだ。


「不味い」


 心地よい苦みと、爽やかな後味のする醸造酒だ。思わず呟くと、無視されていた女性が復活する。


「んなっに~~!美味いだろ~~!!私はここの常連なんだよ~~~~!!」


 酒が回って面倒臭い性格になったのか、絡みが面倒になってきた。違う卓で飲んでいた拳闘士のグラディエイタ(三大拳闘士の一人らしい)がこちらを見て口を開いた。


「ハッ!ちびっ子が新人食いしてらぁ」


 ラントの動きが止まった。ギギギとグラディエイタの方を向く。


「だぁ~~~~れがっ!ちびっ子じゃあ~~~~~~っ!!私は発展途上なだけだっ!!」


 隣で叫ばれ、身を固くする。周りはまた始まったという風に見守っている。


「いやー、ラントにあの言葉は禁句なんだよね。グラディエイタは態とやってるね」


「そうなん…………です…………か……?」


 ラントの反対側に座っていたのはウィザードという男の魔法使いだったはずなのだが、いつの間にか小柄な女が割り込んでいた。


「あれ?誰ですか?」


「遅れてきちゃったトマホークちゃんでーす」


 人差し指と中指を立てて横にして目元に持っていき、最高のキメ顔をする。


「いや~、アタシとラントって相思相愛でいつも一緒に行動してたのに、最近全然一緒にいられないんだよね~~」


 机に突っ伏して、泣く真似をする。いや、本気で泣いていた。泣き上戸か。来たばかりなのにだいぶ出来上がっているらしい。


「ね~~新人、なんでなんだろうね」


「知りませんよ。そもそもあなた方が一緒にいたところを知りませんもの」


 酒が入って気持ち悪いので、激しく揺らさないでほしい。


「大丈夫よ~、トマホークちゃん。きっと一緒に行動できるようになるわ。それに、一緒に行動できていなくなって、貴方達の愛が途切れてしまうなんてありえないでしょう?」


「うんっ!エンチャントレスさん大好き!」


「も~、浮気?」


 対処を悩ませてくる面倒臭い先輩をどうしようかと考えていると、エンチャントレスという妖艶な魔女が助け舟を出してくれた。トマホークは告白とともにエンチャントレスの豊満な胸に飛びついた。エンチャントレスは満更でもなさそうににやけている。その間ラントは四つん這いで、右手を前に出して涙を流していた。さながら、付き合っていた人に捨てられたかのように。もしかしたら、相思相愛という表現は慣用句的なものではなく、事実なのかもしれない。


「よぉ新人共。楽しんでるかい?」


「おう、楽しんでるぜ」


「僕もです」


「オレは圧倒されています」


 常盤色の髪を揺らしながら、エイリアスが上機嫌に問うと、パイクは酔いが回っているのか少し尊大な態度で、プラダ―は真意の読みづらい不自然なまでの笑顔で、ホーリーは限りなく正直に答える。


 何時間も宴は続く。


 翌日、全員が二日酔いに苦しんだ。








「じゃあ、見つけられなかったってことか」


 兵舎の大広間にて、ブローンが報告を聞いていた。すでに宴の高揚感は失われている。それは当然だ。すでに宴から1週間は経過していた。ラントがナイフを磨きながら答える。


「私とトマホークとアベイトちゃんで歪みがあったって部屋に行ったんだけど、違和感はあったよ。確かに何か歪みがありそうな雰囲気があったし、実際にあるはずだって確信もしたよ。勘だけどね」


「しかし、見つけられなかった」


「うん」


 トマホークは眠そうに欠伸をした。この会議に何も興味がないようだ。アベイトは申し訳なさそうに首を傾げた。


「確かに何かはあると思ったんだけどなぁ」


 うーん、うーんと唸り、考え込む。ブローンはとある事情によりアベイトに恐がられているので、どう声をかけたらいいか悩んでしまう。


 4人は考え込んでしまっていたからなのか、2人の視線に気付けなかった。

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