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22.狂人五人衆

 ペルソナは今、洞窟内にいた。なぜそんなとこにいるのかと言うと、依頼があったからである。何でも、この洞窟の奥深くには伝説の鉱石とその加工法を記した伝説の書があるのだという。

 依頼主は今、ペルソナの斜向かいで休憩しているパピティアだ。


 現在、洞窟探検をしているのは、ペルソナ、依頼主のパピティア、拳闘士サヴィチ、勝手についてきたパームの4人。


 なぜこの4人なのかと問うたのだが、サヴィチとパームは依頼主に聞けの一点張り。パピティアは澱みながら、戦力の為と言われた。明らかに本●ではない。何で呼ばれたんだ?


 すでに9層分は下っているが、例の伝説の気配はない。


「本当にあんのか」

「……筈」

「筈?」

「本に書いてあっただけだし」


 信憑性が薄れたな。


「早く行こう?」


 パームの元気はどこからきているのだろう。


 十層目に辿り着くと、そこに”何か”がいた。

 ”何か”は女性の姿をしていた。

 ”何か”は右の肩甲骨から歯車が見えていた。

 ”何か”は一定間隔でアッアッと音を発していた。

 ”何か”は首の裏から蒸気を排出していた。


 人と機械を融合させた見た目の”何か”の目が物理的に光った。


 ここで種族について説明せねばなるまい。

 この世界には13の種族が確認されている。主要8種、絶滅2種、その他3種に分類される。

 主要8種とは、人類、森精種(エルフ)地精種(ドワーフ)小人種(パルゥム)女人種(アマゾネス)、獣人族、魚人族、霊魂種(ゴースト)

 絶滅2種とは、拳闘士と吸血鬼。

 その他とは、書物でしか種が確認されていない神種、精霊種、そして機凱種(エクスマキナ)


 彼らがいかにして生まれ、いかにして繁殖したのかに関する書物は未だに確認されていない。ただ、絶滅の理由は明らかになっている。機体の故障を修理できる者が亡くなっていったのだ。自己修繕機能だけでは乗り切れなかったらしい。


 そんな絶滅種、機凱種を目の前にし、ペルソナ達は”何か”が機凱種と気付いていない。実物など見たことないのだから。


「俺達が足止めすりゃいいのか」


 パシンと右拳を左手に合わせて確認する。


「あぁ、その間にパピティアとパームが探し物を見つける」

「よし、いくぞ」


 その時、機凱の少女の左手から虎の爪のような鉄の爪のような、大きな爪が飛び出してきた。


「アーーーーッ!」


 ペルソナとサヴィチの間を爪で一閃するが、当たらず、横に避けたサヴィチが少女の面を殴る。牽制の一手。少女はサヴィチの方を向く。


()った! こいつ()った!」


 サヴィチは殴った手を痛そうにプラプラ振る。実際フリだけで痛いわけではない。


 少女の爪を軽々と躱すと、ペルソナが少女に切りかかる。

 ピピッと電子音が鳴ると、ペルソナの剣を見ずに躱す。少し、浅く裂く程度で済ませた。


 殴られた後の青痣が、斬られた後の赤い血が、己が生物であると、主張してくる。

 ぐるぐると回る歯車が、蒸気を勢いよく吐き出す管が、己が機械であると、主張してくる。


 生物と呼ぶにはあまりにも機械過ぎる。

 機械と呼ぶにはあまりにも生物過ぎる。

 生物であり機械である。どっちつかずの存在。

 半端者。そんな誹りも過去にあった。


 だからこそ、それを、その事実を記録し、共有した機凱種は、半端という言葉に敏感だ。


 少女は恐れられていた。懼れられていた少女を洞穴に隔離することで、安●を得ていた。少女はなぜ自分が懼れられているのかが分からなかった。[推定]し、[仮定]して[思考]しても、答えに辿り着かない。

 ある時、恐いもの見たさのいわゆる肝試しをしに来た団体があった。少女はその団体を、全員切り裂いた。

 少女の様子を確認に来た兵士があった。少女はその兵士を切り裂いた。


 少女は[憶測]により、[仮定]恐怖と[推定]好奇●と観測した。

 もっと[感情]を知りたい。[●]を知りたい。


 ほら、また誰か来た。男女二組の御来客。


「くっそ、人とも機械とも取れねぇ半端者が」


 サヴィチの悪態に少女は急速に反応する。


「[命令]取り消せ」

「っ!? 喋んのかよ、こいつ」


 ペルソナはようやく少女が機凱種であることに気付いた。


「確かにどっちつかずの半端者だが、どちらでも通用する」

「――ア?」


 少女の目が妖しく光る。先を促しているのだろう。


「人という面を持ち、機械という面を持ち合わせている機凱種は、人とも機械とも取れる。どちらでも通用する。つまり、どちらも一人前、合わせて一人で二人前」

「――ア?」


 初めてだった。今まで生物も機械も冒涜した存在だと讃えられてきた。何か、どこか認められた気がした。何だろう、この[感情]は。[推定]嬉しい? [推定]喜び? [推定]謝? 違う。どれもどこか当てはまらない。今、目の前にいる、白髪の青年の●が分からない。分からない。解らない。判らない。


 サヴィチは空気を読み、手を出さない。感謝しなきゃな、とペルソナは思う。

 少女に告げる。


「何を怖がっているんだ?」


 怖い? 今、恐がっているのか? これが[推定]懼れ? 当機が[感情]を抱いた? 個体で意志が芽生えている? もしかしていや、まさか、でも、やっぱり、だけど――――。


 そうか、これが[心]というものか。解放してくださったご主人様(マスター)。ありがとうございます。

 機械的な冷たく硬い表情はどこか温かく柔らかいものへと変わっていた。


 帰り道、結局、伝説のナンチャラは見つからなかった。


「あのさ、ペルソナ」

「何です?」


 パピティアはどこか、申し訳なさそうな顔をしながら話しかけてくる。


「ごめんね、巻き込んで」

「いや、別に」

「……実はね、貴女と仲直りを、と思ってね」

「仲直り?」

「勝手に敵視して、勝手に恨んで」

「普通じゃないか、それぐらい。恨みも妬みも嫉みも、全部その人の勝手な感情が故だろ。謝ることでもないだろ」

「気が楽になった。有難う」

「どいたま」


 後日。


ご主人様(マスター)、何を探していたのです?」


 あの後、当然のようについてきた少女が、疑問を口にする。


「何だっけか、何か伝説の鉱石とその加工法を探していた気がするぞ」


 少女が何か考え込み始める。


「どうした?」

「[推定]伝説の鉱石は当機の[体]こと。当機の体は特別性」

「…………ほう」

「伝説の書物は当機の[頭脳]のこと。使い方も網羅している。当機、凄い?」

「………………そうだな、凄いな」


 心を手に入れた機凱種少女はどこか嬉しそうに給仕に戻るのであった。

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