4.見た目に反した冷静さを持つ団長と役割に反した軽薄さを持つ魔王の登場は祝福されたものなのか
ケイン、ラント、アヂルはまだ別にやる事があるらしく、次に現場には行けないらしい。相当ブラックな職場だ。いや、新人でこんな重労働を初回からの時点でブラックか。
代わりにブローン、アベイト、セイバーが加わってくれるらしい。団長まで引っ張り出してくるなんてやっぱりかなりのブラックぽいな。
「どうも、アベイトです。回復係です。よろしくお願いいたします」
「私はセイバー。よろしく」
アベイトは金春色の髪を揺らしながら丁寧にお辞儀をした。セイバーは気怠げに挨拶をした。ホーリー達も挨拶をする。何故か妙にパイクがテンパっていた。そして、先ほどからチラチラとセイバーのことを見ている。一目惚れか?
パイクがナンパを仕掛けに行った。大いに笑ってやろうとプラダ―を引き連れるために横を見ると、そこにプラダ―がいなかった。プラダ―はプラダ―でアベイトに話しかけられて耳まで真っ赤にさせていた。色ボケか?この童貞野郎どもめ。そうだよ、嫉み妬みだよ。
パイクの方に視線を戻すと、玉砕していた。苛ついたセイバーに腹を蹴られたようで蹲っていた。セイバーはブローンに説教を食らっている。ブローンが眉根の皺を揉み解している。セイバーはすごく勝気そうな態度で腕を組んでいた。
6人は馬車に乗り込む。ブローンが綱を持って馬を操っている。何で団長が、と思ったが、馬車内に居たくなかったのだろう。セイバーの隣にパイクが座り込み、プラダ―の隣にアベイトが座った。ホーリーはどこに座るべきか悩んだ。悩みに悩んでプラダ―の隣、御者台近くに座ることにした。
馬車の中が明らかに殺し合いに行く雰囲気ではない。いたたまれなくなり、ホーリーはブローンに話しかける。
「団長、これあとどれくらいで着きます?」
「そうだな。あともう少しだろうな。何人敵がいるのかも、どんな罠があるかも分からん。気を引き締めていくぞ」
全員が真面目な顔で頷いた。
拠点はちょっとした屋敷のようだった。2階建てで左右に出っ張った形をしており、上から見たらHかΠのような形をしているだろう。前庭には犬型の獣が十数匹ほどいた。パイクが眉根を寄せる。
「ありゃ何だ?」
「ふむ。おそらくカイオウティだろうな。門番か?」
コヨーテのようだ。初めて生で見た。
カイオウティは刃を剥き出しにして、尾を太く膨らませ、水平に持ち上げている。こちら側も剣を抜き、警戒する。
「気をつけろよ。いつ襲ってくるのか分からんからな」
ブローンの言葉に反応するようにカイオウティが跳躍する。ブローンは跳躍した1匹を仕留めようと、構えるとあることに気付いた。跳躍した高さ、高くね?おそらく4mは跳んだだろう。カイオウティが高く跳んだおかげで難なく迎撃できる。それを見届けた残りのカイオウティは目を鋭くさせると、また1匹が跳躍した。ブローンが迎撃しようとした瞬間、残りのカイオウティが突進してくる。ただの突進と、突進と噛みつきの同時の個体の2種に分かれている。そのせいで迎撃に苦戦している。
3分ほどで自然と円形の陣形に追い込まれる。プラダ―が恐怖に顔を引きつらせているが、ブローンはいたって冷静に状況を分析し、最適解を導き出す。
「お前等、自分の目の前のカイオウティだけを相手しろ。私達も背中を向け合って円形を組むぞ。その中心にアベイトを置く。アベイトは回復に徹してくれ」
「「「「「了解」」」」」
カイオウティ達は円陣の周りをそれなりの速さで走っている。時折ジャンプをして脱出させないようにしている。実に狡猾だ。しかし、狡猾さの下駄を履いたところで、戦闘能力がブローン達を超えない。円陣を崩すことができず、最後の一匹まで斬り伏せられた。
「随分、細かい傷を大量につけられたな」
ブローンが汗を拭いながら発した言葉に、声に出さないものの、全員が肯定する。全員が武器に着いた血を拭き取り、刃の状態を確かめる。
「よし、中に入ろう」
ブローンが一歩踏み出すと、左足から刃が生えてきた。
「団長!?」
アベイトは慌てて回復魔法を掛ける。ホーリーとセイバー、パイク、そしてプラダ―はブローンとアベイトを取り囲んで警戒する。
「今の攻撃、誰か何か見えたか?」
「匕首しか見えなかった」
「僕もです」
「…………顔に何か描かれていた誰かだったわ」
その誰かは姿を見せない。ブローンの回復が終わってなお、緊張が緩まない。どこから攻撃が来るのか分からない。まだ狙われているのか、もういなくなっているのかも分からない。
誰かの声がどこから響く。まだこの場にいたようだ。声はいたるところから響いているのでどこからか分からない。
「僕はハイド。ここで君達を殺して、僕は幹部になる」
言い終わるのと同時に、今度はプラダ―の足に匕首が刺さった。
「団長。相手は獣皮に隠れています何とかしてカイオウティの死体から離れましょう」
「成る程な。じゃあ、無理矢理行くか。お前等、走れ!」
ブローンが叫ぶと、皆が何の躊躇いもなく従った。アベイトは治療を受けていたプラダ―にお姫様抱っこされていた。顔を赤らめている。お幸せに!
匕首が何度も飛び出してきて、2,3の切り傷を創らされたが、何とか切り抜けた。
もうブローン達の周りには獣がいない。これ以上ハイドは追いかけてこないのか?そんなことはなく、ハイドが姿を現した。顔を黄褐色に塗り潰し、黄褐色と黒の混じった服で身を包んでおり、カイオウティに隠れることを特化させた格好だ。
「僕を舐めるなよ」
力任せにカイオウティの死体を投げ飛ばし始めた。ホーリーやパイクが構えようとした時、それよりも早く行動する者がいた。セイバーが一歩前に出たのだ。
「任せて」
その言葉に激昂したハイドがセイバーに匕首を振り回す。セイバーは持っている細剣で、次々とハイドの攻撃を切り落とし、相手の胸を突く。ハイドは両膝を着き、倒れた。
「相手が分かればなんてことないわ」
セイバーは細剣に付いた血を拭いながら、つまらなさそうに告げた。
夜でも灯りが耿耿と照る繁華街。肩を落とした黒髪の青年と、50代半ばほどの白髪の老人が歩いていた。
「僕ってそんなに威厳がない?」
「……そのようなことをおっしゃる時点で、という話でございますがね」
「そうだよね~~」
青年は更に肩を落とした。老人はもの凄く申し訳なさそうに目を逸らす。
「どうすれば威厳って出るんだろうね」
「堂々としておられる姿はとても威厳に満ちていらっしゃると思われます」
「堂々と、ね~~」
青年は遠い目をしている。この段階で一切威厳を感じることができない。纏っている雰囲気が軽薄すぎるのだ。そのまま青年は家の扉を開けた。
「分かったよ。堂々としようじゃないか。でないと、皆に申し訳ないからね」
「決意、素晴らしく思われますが、それを閨でおっしゃっている時点で威厳が出ないかと」
青年は老人の言葉が聞こえないふりをして、3人の女性に向かって跳び込む。
「あ、セイヂ、もう行っていいよ」
青年は1人の女性のお腹に頬ずりをして、他の2人の女性から撫でられながら発言する。
セイヂは深々と腰を曲げると、家を出た。
「魔王様のお考えは立派だ。あとは威厳さえあれば」
セイヂは眉間の皺を伸ばすように抓みながら、溜息を吐いた。
屋敷に入る頃には辺りはすっかり夕暮れとなっていた。
「お前等、もうこの辺りは暗くなる。中はもっと暗くなることが予想される。紙燭を持て。最大限の警戒をしろ。行くぞ!」
ブローンの短い号令と共に、皆は紙燭に火を着け、中に入っていった。
「侵入者か。5、いや、6人か」