30.最終決戦②
「ペルソナ、そいつは?」
「ビトレイアル。仲間さ」
「悪夢が終わる」
「悪夢を終わらせる」
「英雄になろう」
「英雄で在ろう」
「行っちゃったね」
下着を見られることなど気にせず、パームは仰向けのサヴィチの頭の横に立つ。
「そぉだな」
肌を上気させ、息を切らしながら答える。
「ばらばらだった體と魂を一致させていっていた。さっさと息を整えて俺らも行くか」
「いーよー」
「十五年ぶりだな、魔王シュド」
ゆるりとブローン達の方を向き、橙色した空を見上げ息を巻いたあの日の言葉を再び口にする。
「だいたいこの世の外連味は夢だって見せてくれない。楽観主義的な横着者は、欲張った夢を見てる。若干世の中が五里霧中な中、人々はなぁなぁで進む。そんな退屈な人生なんてごみと同じくポイだ。楽しく激しく生きて行かなきゃつまらないじゃないか」
「何が言いたい」
「来てくれて嬉しいぜ」
皆が皆、自分の得物を構える。
「ホント、飽きないな、君達は」
シュドの右手が光る。
「ママ、ママ、流れ星」
小さな子供が母親の袖を引っ張り、空に指を差す。
「ん~? 流れ星?」
母親が子供の指の先を見ると、城の最上階から光が出ていた。
「また流れ星」
子供の無邪気な声が母親には届かない。
「出鱈目だ。なんだこの光線」
「触れれば蒸発、か」
「どうしたどうした。お前の全ては虚言か? 不条理と不平等と不可思議でできたこの世を生きる、理性と知性の化け物どもめ」
シュドは楽しそうに告げる。
光線を縫い、セイバーの細剣がシュドに届く。
「しっ!」
「ヌぉ!?」
退いた先はビトレイアル。
「ハッ!」
「くっ」
ひらりひらりと致命的にならない、重ねても致命にならない傷ばかりを重ねていく。
イケると感じた者とどこか危ないと感じた者がいた。ビトレイアル、セイバー、パイク、ラントが前者、ペルソナ、ブローン、サヴィチが後者だ。
ラントの小刀ごと、シュドは蒸発させようとする。
右手が光る。
空中にいたラントに逃げ場などない。
光と少女の間に影が割り込む。
もし、ランパートかフリントだったならば、足止めにならず蒸発していただろう。
割り込んだ影の主、サヴィチは蒸発せずにその光を屈折させて見せる。
「サヴィチ……?」
「何の疑問だ、シュド。言わなきゃ俺も分っかんねぇよ」
「一つ一つ聞こう。何でここに来た」
「何年も一緒にいんだ。互いの思想が全部一緒なわけねェだろ。お前は今、暴走しているって俺基準で判断した」
「……」
「俺の見てる世界だ。判断を下すのは俺しかいない」
「その通りだね。じゃあ、どうやって弾いた」
「何年も一緒にいんだ。俺も馬鹿じゃねぇ。特徴ぐらい掴める」
「良いだろう」
シュドの顔から余裕がなくなっていく。
サヴィチが地を爆ぜさせる。
サヴィチの速さはシュドでは反応できない。
サヴィチの拳がシュドの顔に入り、拳の振り抜きに合わせて一回転半する。
セイバー、パイク、ビトレイアル、ペルソナがシュドの方へと走る。
シュドは立ち上がろうとしたところで、腹にサヴィチの蹴りが入る。三剣一槍が身体を切り裂く。
「ぐ、ふ、おぁ」
傷口に手を当てながら、血を吐き退く。
セイバーが追い打ちを仕掛けようと、サヴィチが引き留める。
「っ!」
セイバーは左腕を掴むサヴィチを睨むべく振り返ろうとした時、セイバーの鼻先を光が貫く。
シュドは笑っている。
「来いよ~。あとちょっとだったのに~。サヴィチ~? 何で止められた?」
喋りが粘っこくなるのに対し、サヴィチは冷静である。
「本能、だな。野性の勘ってやつ?」
「流石」
シュドの足先が爆ぜる。
シュドの身体能力は格段に上がっている。シュドの拳がサヴィチの交差させた腕に入る。サヴィチは踵で足元を削り、速度を鎮める。
パイクの槍は無茶な跳び方で避け、パイクの顔に踵が入る。
ブローン、ビトレイアルに蹴り、拳をそれぞれ入れ、ラントの手首を掴んで投げ飛ばした。ペルソナの剣は腹を浅く傷つけるが、掌底を見舞われ、鼻を砕かれる。
「そぉいや、血ぃ流しゃ流す程、身体能力が向上されんだっけか」
「いつ知ったんだ?」
サヴィチは肩の調子を確かめるように右肩を押さえ、ぐるぐると回しながら思い出す。
「初めて共闘した時かな」
「覚えてないな」
「……造花め」
サヴィチが地に一歩踏み出し、地面を割る。シュドの肉体は破格の強さを手に入れていた。しかし、それでもサヴィチの方が速かった。
近づくサヴィチにニヤリと笑い、シュドは右手を構えた。
ふわりと甘い匂いがシュドの鼻をくすぐる。
「は?」
自然とシュドの意識が天井に向かう。
そこに、隙間が――――。
シュドの右手をサヴィチの左足が砕く。掌の骨が砕かれ、肘の骨が罅は入り、ズレ、肩が外れ、ボコりと隆起する。
驚きに上げる声も疑問による声も喉元で押し退け、絶叫が口から出る。
曲がりひしゃげた右腕を押さえようと動かした左腕にペルソナの剣が入る。くるくると左腕の肘から先が廻り飛ぶ。
「今ならまだ間に合う。改心するか?」
発言主のブローンを睨み、シュドは叫ぶ。
「聞いてもいない傲慢なアドバイス。それは健常者の理論理屈。そのすべてが眩しくて妬ましい」
力の入り切らない右手をブローンに向ける。その右手も跳んだ。
飛ばしたのはラント。
その手には手斧。
「敵討ちだ! 馬鹿野郎!」
ラントはシュドを精一杯に睨みつけ、言ってのけた。
しかし、シュドには両の手がなくても口があった。口から光線を放とうとする。
口から放つと数日は味が分からなくなるため、嫌になってしまう。
鼻から空気を吸い溜め込む。口を開こうとした時、下から掌底が。
サヴィチの掌底は顎骨を砕き、光線を喉に押し止めた。
暴発した光線は、喉を焼き溶かし固め、気道と食道を塞ぎ、神経を断ち切った。
シュドの最期、サヴィチと目線で会話する。
『あーあ、僕の生もここまでか』
『止めようとしたら、死にやがって』
『止め刺した奴が何言ってんの?』
『知らねぇな』
『跡を継ぐ気はないかい?』
『自由に生きるっつーお前の考えにゃ賛同するが、お前の跡って言うのは遠慮するぜ』
『キルは許してくれるだろうか』
『常に自分が正しいと信じている善良な人々の中で汚れても正義を貫いていこうとするお前の姿勢は褒められるだろうよ』
『じゃあね』
『あぁ、また来世』
受け身を取ることなく、シュドの体は無造作に倒れる。
「終わったのか?」
「死んだよ、綺麗にな」
サヴィチはブローン達の方を向く。
「お前等はどうすんだ。俺らはもう敵対意識はねぇよ」
「……戻らせてもらおう。自分達の居場所に」
「いやー、激しい戦いだったねー」
天井からパームが下りてくる。その手には林檎の包焼が。
「パイク、パイク。十五年前の言葉覚えている?」
「十五年前……あっ」
パームをパイク以外は頭に疑問符を浮かべる。
「これ、城下町のセラちゃんの焼く、林檎の包焼。役立ったでしょ?」
ブローン隊は帰りに林檎の包焼を買い、帰還した。
「夢で逢えたら」
くだらない。夢で逢えても、現実では逢えないのなら哀しみを生むだけ。
「傍に入れたら」
愚かすぎること。傍に入れても護れないなら意味がない。ないなら、悲しみを生むだけ。
雨に隠れて、一人で泣いても、あの人はいない。
夜も明けやしない。




