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3.ホーリー達は実践を通じて何かを手に入れたのでしょうか?

 3日後、不穏な予言通り、実践をすることになった。先日ラントが捕まえた男――ヂェイドの証言により、諜報には2人の仲間がいることが判明した。今からその2人がいる仮拠点へ行くのだ。向かうのはホーリー、パイク、プラダ―、ラント、そしてアヂルの5名だ。


 160㎝ちょっとの身長でバンダナを頭に巻いているアヂルは、道中匕首の手入れをしていた。こちらと会話をする気がないらしい。その割にはこちらを厭らしい目で見てくる。どこか値踏みしているような目なので、安心している。この人は分かりやすい人だ。


 仮拠点から少し離れた場所でいったん歩を止める。アヂルが早速提案してきた。


「敵って2人なんだろ。班を分けようぜ、班」


「んじゃ、ホーリーは私の側な」


 アヂルの声は相手を逆撫でるようなものだった。一応味方なので何も言わないが、相手だったら絶対に嫌だ。ラントはホーリーの肩に腕を回し、親指を立てた。身長差がかなりあるので、ラントがかなりプルプルしていて無茶をしているように見える。爪先立ちどころか片足立ちしている。実はホーリーは空気を読んで腰を落としている。


「ラン姉が言うならしゃーねーな。じゃあ、パイクとプラダ―は俺の方な」


 お調子者のように溜息を吐きながら首を振った。新人3人に意見は求められない。どうやら拒否権はないようだ。








「俺はアヂル。速度重視の匕首使いだ」


「僕は……」


「いい。いい。ブローンから聞いてる」


 手をひらひらとさせてプラダ―の言葉を遮る。パイクは最初っから名乗る気がない。この男は軽薄なのでどこで情報を漏らす可能性を感じてしまったのだ。


 プラダ―は名乗りを止めさせられたのでどうしていいのか分からず、中途半端な位置で手を浮かせている。


 アヂルは手の中でクルクルと匕首を回していたが、突然匕首を掴んだ。厭らしく曲げていた眼が、スッと細まり、その場に立ち止まった。


 パイクとプラダ―もそれに倣って立ち止まる。パイクもプラダ―も腰を落として状況を見守る。何も起こらない。何でアヂルは止まったんだ?


「出て来いよ、敵さん」


 アヂルが不敵な笑みを浮かべながら言うと、背中側に右手を回した状態で敵が現れた。肋骨が浮き出るほどに痩せた背の高い男だ。明らかに右手に何か仕込みがあるだろうと思える。敵は右手を背に回したままにして、左腕を広げた。


「まず戦うなり、お話し合いをするなり、何かする前に名乗らせてもらおう。私は<黄鐘>(林鐘)のランキーだ。以後、お見知りおきを」


「こっちも名乗っておこう。俺はアヂル。こっちの槍持ちがパイク。地味なのがプラダ―だ。別に覚えなくていいぞ」


 覚えなくていいのなら、なぜ、こちらの名前まで明かした。パイクは白い眼を味方であるアヂルに向けた。


 アヂルが話し終わるのと同時に、ランキーが匕首を投げた。難なく避けると、アヂルは匕首をランキーに向ける。ランキーが2本目を投擲すると、アヂルはすでにそこにはいなかった。


「っ!?上かっ!?」


 言った頃には匕首が肋骨に入ってきており、気付いた時には、左側の肋骨の隙間に1つずつ丁寧に切り傷が作られていた。


「あ?え、は?」


「お前さん、遅すぎたな」


 ランキーは血を噴きながら倒れた。何が起きたのか、ランキーには理解できなかった。パイクとプラダ―もランキー同様にアヂルの姿が見えなかった。


 これが正規に騎士団に勤め続けた者の強さなのか。








 アヂルが戦闘方法を明かす少し前、ラントは一つの扉の前で立ち止まった。


「どうしたのですか?」


「しっ」


 ラントは人差し指を口に当て、もう一方の手で扉を指す。ホーリーはその指を辿り、扉を見つめる。


「中に居る」


 ラントは腰元の小刀に手を添え、それを見たホーリーも剣を抜く。ラントは小声で喋る。


「開けるよ」


「はい」


 ゆっくりと扉を開け、その両隣にそれぞれ待機する。


「誰だ?」


 中には襤褸で髪がぼさぼさの男が剣の手入れをしていた。何も焦ることなく、ただ冷静に背を向けたままだ。


「アンタこそ誰だい?おっと、こちらは名乗っておこう。私はラントだよ。覚えて逝ってね」


「私は<壱越>(黄鐘)のラゲドだ」


「いちこつ?こうしょう?よく分からないけど、アンタはやる気みたいだね」


 ラントはラゲドの手に持っている剣を指さして言う。すると、ラゲドは徐に首を横に振りながら、ラントの方に向き直った。


「…………私は武具の手入れが趣味なだけだ。戦いはあまり好きではないよ」


 ラゲドは剣を持ちながら立ち上がる。身長がホーリーよりも高い。その長身から見下ろされる目にしては、怖すぎる。目に光がない。もうすでに何かを諦めている。


「2人がかりか?」


「いんや。こいつが相手する」


 ラントがホーリーの背中を押し、前に出させる。え、初耳なんだけど。ホーリーがラントを睨みつけるが、一切動じない。ホーリーの思いは表情に出ていただろう。しかし、ラントは笑いながら右手をひらひらとさせている。


「お前がサシで勝って、初めて騎士団入りを祝ってやるよ」


 マジかよ。ホーリーの表情はかなり分かりやすく変わる。律義に待ってくれていたラゲドが両手で剣を構える。ホーリーは片手で剣を構えた。


「いざ」


 ホーリーとラゲドが剣を合わせる。上段、横薙ぎ、袈裟懸けの3種の繰り返しをしてくるため、対応が楽になってくる。ホーリーはラゲドの剣をかち上げ、剣が戻ってくる前に横一線、斬りつけた。


「ばか……な……」


 こうしてホーリー達の実践が終わった。








 帰り道、ホーリーはパイクとプラダ―の愚痴を聞き流していた。むしろ、ラントとアヂルの方の会話を聞いている。ラントは御者台に座り、馬を操っているアヂルに話しかけている。


「私等はいちこつこうしょうだったけど、アヂル達はおうしきりんしょうだったのか。何のことだろうね」


 ラントが疑問に思っているのは<称号>についてだ。ホーリーもそれについて考えている。壱越、黄鐘、黄鐘、林鐘。これは十二律と呼ばれるものだ。壱越と黄鐘(おうしき)は日本式、黄鐘(こうしょう)と林鐘は中国式のものだ。十二律は音楽の十二の標準楽音で、1オクターブの間に約半音間隔に十二音ある。だった気がする。そうすると、少なくとも<称号>を持っている者は残り十人はいるということだ。魔王軍の層は厚いようだ。


 兵舎に着くと、ブローンとケインが待っていた。


「お帰り、お前等。連戦のお知らせだ。仮じゃない拠点の位置が分かったぞ」


 ホーリーの眉に皺が刻まれた。いい加減休ませてくれよ。

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