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29.最終決戦①

 城に入ってすぐ、鉄紺色の髪を掻く赭の男が立っていた。

 全員、武器を構える。ひしひしと感じ取れる雰囲気から、皆がそう行動したのだ。


「ペルソナってのはどいつだ?」

「俺だが?」

「こっちに行ってな。左側の部屋に入って階段上って、最初の左側の部屋にな、お前に恨みを晴らしたいって息巻いている娘がいんだ。行ってやってくれや」

「行くと?」

「行ってくれ。後は魔女っ娘共は前回魔法対戦したところにいるってハグに伝言を頼まれてんだ。言わなきゃいけねぇのはこのくらいかな」

「お前は?」

「個人的にやり合いてぇ相手はいねぇが」

「いや、お前は誰だ?」

「あ、そっちか。俺は<迦諾迦伐蹉>だっけか、のサヴィチだ」


 サヴィチはやる気なさそうにひらひらと手を振る。


「ブローン、パイク。私達は行かせてもらうわ」

「了解」

「俺も行かせてもらう」

「分かった」

「勝手にしろよ」


 サヴィチは奥の部屋に引っ込む。





 篝火に照らされて、いまいち顔の見えない外套を羽織った人物が部屋の中に佇んでいた。


「貴方はホーリーでいいの?」

「今はペルソナだが、確かにホーリーだ」

「良かった。貴方がいてくれて」

「……」

「恨みが晴らせる」


 辺りに人形が浮かび上がる。


「<諾矩羅>って言わなきゃいけないんだけど、今は<頞儞羅>のパピティアで名乗らせてもらうわ」


 ペルソナは剣を抜く。


「俺もペルソナというべきだろうが、今だけはホーリーと名乗ろう」


 ホーリーは恨みの籠った人形達と対峙する。

 ホーリーは走り出し、人形を往なし、弾き、切り伏せ、パピティアに一直線に向かう。


「インカーネイト!」


 パピティアの声に合わせ、人間大の人形がホーリーを止める。

 インカーネイト。人の姿をした魔物の魂の入った人形。闇堕ちをしたパピティアが黒魔術に触れ、辿り着いた領域。


「貴方を殺すために身に着けた力!」

「俺は、君を殺すつもりなど微塵もない」

「何だと!?」

「君の父親と約束したのだ。十五年前の死の間際に、『夢や希望、輝く未来、どんなことでも君とならば乗り越えられえた。喜怒哀楽も、君といれば曝け出すこともできた。様々なことを教え、教えられ共有していったが、死だけは共有したくない』と言われたんだ」

「本当だとしても、止められたんだよ、止まらないんだよ。残された側の気持ちを考えていないよ! 死んだらそれでおしまい。でも、遺された人は一生それを抱えて生きるんだよ! 恨みが消えてくれないんだよ!」


 パピティアはホーリーとエクスキューショナーに怒りを爆発させる。

 インカーネイトを剣の腹で叩き、着壁させ、パピティアの腹も剣の柄で突き、気絶させる。


「あっ……」


 か細い声を上げ意識を落とす女性を優しく受け止める。床に優しく寝かせ、剣を収めた。


「お前等は側にいてやれよ」


 人形達は困惑しながらもパピティアを囲んだ。





「私はアベイト。貴方は?」

「私は<羅怙羅>のアレイ。この戦いに死者は出させない」

「貴方も嫌なのね。自分のいないところで死者が出てしまうのが」

「”も”ってことはそう言う事なのね」


 アレイは右手を差し出す。


「私達、手を組まない? 敵味方関係なく、死者を出さないっている同盟」

「良いね。乗るわ」


 アベイトはその手を取り、頷く。

 アレイは懐から一枚の紙を取り出す。


「これ、このお城の地図よ。ここが今いるところ。この道が今貴方が歩いてきた道よ。参考にして」

「ありがとう」


 アレイは地図に指を当てながら説明すると、アベイトはお礼をして懐にしまう。


「がんばって」

「貴方こそ」


 アベイトとアレイ。二人の回復薬の戦いが始まる。





 パシャパシャと淡水路を進む。


「ここね」


 エンチャントレスとウィッチは螺旋階段に辿り着く。様々な感情が巡り、融け、混ざり、散り、意を決して上り出す。一段一段を踏み上っていくと、そこに空色鼠の髪をした醜い魔女がそこにいた。


「久し振りね」

「えぇ、本当に久しいわね。あの二人はどうしたのかしら」


 上品な動きを身に着けた魔女の挨拶に対して、上品の中にどこか怒りを混ぜた魔女が返す。


「結論だけを言っても混乱するだろうから、順番に一人ずつ話していくわ」

「えぇ、分かったわ」

「まず、貴方達の方に直接被害を出したキル。あの子はすでに亡くなったわ。あの戦いで死んだ。私が看取ったから間違いないわ」

「っ!?  そ、そう」

「ソーサラとソーサレスは二人同時に説明するわ。二人は魔術工学を修めて、その方面の仕事に就職したわ。今は魔王軍に籍だけ置いている半脱退状態よ」

「そ、そんな。決着はどうすれば」

「それは知らないわ。最後に私ね。エンチャントレス、最初に言い忘れていたから改めて言うわ。有難う。貴方が私に愚かで醜い穢れた思考だって罵られて気付いたの。身の醜さばかり恨んでいたけど、それを恨んでいた私自身の考えがよくなかったんだって。おかげで私を雇ってくれるところが見つかったわ」

「……」

「だから、感謝。私には恨みはないわ。ただ感謝。私には戦う理由がないわ」

「じゃあ、私の恨みも晴らせないわけね」


 ハグは申し訳なさそうに目を逸らした。


「ごめんなさい」

「そんな……」


 ウィッチが崩れる。


「とりあえずおめでとう」

「ごめんなさい」


 ハグはもう一度謝ると、上階へと消えていった。

 残された二人は何をすることができず、ただただ立ち尽くした。





 猩々緋色の男を暗赤茶色の男が立ち塞がる。


「よぉ、久し振り」

「? はて、どこで。あぁ、十五年前、あの戦いで。後から知ったよ。君、僕を出し抜いていたんだな。圧倒的な勝利者なんて異名が型無しだぜ。全く」


 トラウンスは流し目でもう一人を見る。


「そっちについたんだな」

「エェ、私ヲ解放シテクレタ恩人ガイルカラ」

「楽しいかい?」

「楽シイヨ」

「そうかそうか」


 トラウンスはレタの父親かのように頷く。


「ヴィクターよ。僕達の戦いは引き分けだ。僕は勝負に勝って戦いに負けている。引き分けだろ。このまま引き分けで引かねぇ?」

「何?」

「僕はね、本名は分からないけど、リムボウのことを永らく気遣っていてね。今が楽しいって言っているんだ。楽しいままでいさせてやりたい。だから、引かねぇか?」


 初めて知るトラウンスの父性にレタは戸惑いをうまく隠せたか不安になる。

 ヴィクターはレタを一瞥する。


「分かった」

「!?」

「じゃあ、魔王なんかに会わず、とっとと行っちまいな。碌な目に合わねぇからな」

「済まない」

「良いって」





「何だ」

「多くね!? クッソ!」

「汚い言葉を使うものではない」

「うっせー!」


 多数の兵士に囲まれた状態でオーバンとラントは言い合っていた。

 小刀と短刀の二刀流をしているラントに感心を寄せながらオーバンも火球を放つ。


「我々は名無し、名を持つ貴様等を倒し、名を貰うのだ」

「「「うわぁあああああああああっっっ!!」」」

「範囲処理しろよ!」

「やってる! 何分、敵が多いのだ」

「こんな弱くてちっちゃな女の子に集って恥ずかしく、誰がちっちゃいんじゃ!」

「「「「っ!?」」」」

「何一人で言って一人で突っ込んでんだよ」


 五十人近くいた凡夫な兵士達は天才的な強さの二人に数を削がれ、残りの人数がいつの間にか一桁になっていた。


「うわっ!」

「あと、一人」


 両刀を振り、付いた血を飛ばす。


「くそ、くそ、くそ! 我々では勝てないというのか。なぜ、こんなにも不公平なんだ」

「君自身の、無い才能を恨むんだね」

「~~~~~っ! くそがっ!」


 その一言が遺言となった。





「お前が一番強そうだな」

「まぁ、当然っちゃあ当然だろうけど、一人で三人はきついだろ。しかも全員近接とか」


 ブローンは片手で剣を、パイクは槍を、セイバーは細剣を構える。

 そこに、サヴィチの上へと落ちてきた者が瞬間の静寂を破る。


「何これ、超険悪じゃん」


 三人は眉を顰め、サヴィチは舌を打つ。


「「「「パーム」」」」

「ヤッホー。舌打ちされたから肩に移動するね。改めて、何? 魔王退治にでも来たの?」

「そうよ。だから、私達はこの敵を討ち破って魔王も討つ」 


 パームは負ぶわれている状態から、器用にサヴィチの頬をペチペチと叩く。


「打ち破るだって」

「どうでもいいけど、降りろ、邪魔くさい」


 パームは唇を尖らせながら、素直に降りる。


「まぁ、いわゆる本番の練習ってやつだ。付き合ってやるわ」

「練習?」

「俺はお前等と敵対意識は強くねぇ。ただ喧嘩して、力比べがしてぇだけだからな」


 少し微妙な空気が流れる。我々の警戒って何だったのか。


「戦闘前に柔軟したり、試験に軽く問題を解いたり、何事も本番に練習すんのは当たり前だろ」


 サヴィチは軽く地を蹴り、ブローンの剣の刃を蹴って、斬れないことを示してみせる。


「俺は拳闘士。半端な剣じゃ俺の肌にゃ傷一つつきはしねぇ」

「だから練習に適していると?」

「おぉ」

「なぜ、練習をさせてくれる」

「アイツには一発、お灸を据えてやらなきゃいけねぇからな。アイツは俺一人の力だけじゃ気にも留めてくれやがらねぇ」


 三者は頷き合い了承し、練習が始まる。





 廊下にて、ペルソナとビトレイアルが相対する。


「<半吒迦>ビトレイアル」

「騎士団ペルソナ。……お前、魔王軍を裏切ったのか」

「なぜ、そう思う」

「……そんな感じがした」


 ビトレイアルの剣の構えが緩む。


「信じないかもしれないが、僕は騎士団の男の生まれ変わりなのだ。その時の名はプラダー。まぁ、信じがたいだろう」

「……実は俺もなんだ」

「何?」

「俺も生まれ変わりなんだ。前の名はホーリー」

「ホー、リー、だと……」

「そうだよ、プラダー」

「こんな時、こんなところで再開するなんてな」


 両者とも剣を仕舞う。


「行こう」

「魔王を倒した」


 二人は並んで歩きだす。


「敵と一緒に歩いているとは、さては裏切り者だな、お前」


 支子色の髪の男はビトレイアルを指差し、答え合わせをしようとする。衛兵の男は剣を構え、対してくる。


「<迦理迦>プラディヂー。いざ!」


 名乗りの順列で言えば、ビトレイアルよりも高い。

 ビトレイアルと剣を交えると、剛力比べなどせず、流れるように体術に移行する。

 入れ替わりでペルソナが剣を交え、体術に警戒しているところを剛力で押し切る。

 剛と柔を使い分け、一対二にもかかわらず、二人を翻弄していく。


 プラディヂー。周りから天才、神童と呼ばれる男。幼少の頃より、剣の才に恵まれ、剣を究めるにも体術を究めるにも適していると言われ、存在している術はすべて修得していた神童。

 ビトレイアルを蹴飛ばしたプラディヂーはペルソナと剣を交える。剛力で押し切ろうとした時、手応えが消えた。唐突に消えたことにより、前へつんのめった。その顎を正確無比に掌底が射貫く。


 脳が揺さぶられ、景色が歪み、平衡が取れなくなる。

 倒れていくプラディヂーの体に垂直となるように、ビトレイアルは剣を薙いだ。


 剣は振り抜かれ腕が飛び、口から血煙が昇る。

 倒れたプラディヂーから命が零れる。もう助からない。

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