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27.城下町の戦い

 パイクとセイバーはペルソナとともに魔王城の城下町に来ていた。


「賑わっているな」

「そうね」


 三人は人の波を嫌がり、路地裏へ逃げ込む。


「毎日こんななのか」

「いいえ、今日は特別。安売りの日だからよ」


 答を求めていない悪態に返答があり、驚いて声の主を見る。襤褸切れを着た青朽葉色と青白橡色と青丹色と青鈍色の四色を散りばめた髪の女が立っていた。


「おじさん達は家族で何しているの?」

「夫婦ではあるが、この男は違う」


 ペルソナは頷くしかできない。


「そっかー。繋がりは絶ちなくなるなー」


 気味の悪い笑みのまま肉切り包丁を振るうが、セイバーはそれをよしとしない。素早く細剣を抜剣し、肉切り包丁を弾く。


「何処に隠していたのかしら?」

「下着に挟んでた」


 ペルソナの後ろにぬるりと現れた男は棍棒を振りかぶる。

 気付いたパイクが呼ぶ。


「ペルソナ」


 実は言われなくても気付いていたペルソナはこっそりと剣を抜き、振られた棍棒に対して剣を斜めにして受け、綺麗に往なす。

 大柄な男は距離を取ると、同時に女の横に移動する。


「<阿氏多>のブラジョン」

「それを言わなきゃ駄目? ……はー、<伐那婆斯>のクリーヴァー」


 クリーヴァーはブラジョンに睨まれ、仕方なく名乗る。ちなみにクリーヴァーの方が立場は上である。

 無論、ペルソナは気付いた。むしろなぜこの知識があるのかは謎である。


(”あした”とか”ばなばし”とか、確か十六羅漢だったかな。新しい奴等は十六人なのか。待てよ。生き残りと合わせて十六人なのか?)


「クリーヴァーは私が相手するわ」


 セイバーが一歩前に出る。


「分かった」

「ブラジョンは俺が」

「分かっ、ん? いや、ちょっと」


 パイクが抗議の声を上げる前に戦いが始まる。





 同時刻、オイスターとビトレイアルは鍔迫り合いをしていた。


 プラダーである、と名乗った少年の姿にプラダーを重ねて戦っていた。明らかに軌道を呼んで、防ぎ、往なし、躱している。成長している。

 我、悪鬼に成りて、道逝くはただひたすらに強く強く強く終わらない今に喝采し、ただただ感謝を。

 この瞬間がよかったと、心底思える。全盛期は過ぎてしまったが、いまだ現役で戦えるこの瞬間で。

 目の前の古兵は、既に老兵というに正しくなってきてしまったが、それでもこの強さ。間に合ってよかった。全力で心置きなく、遠慮なしで戦える。


((あぁ、決して終わらないでくれよ、この瞬間))


 激しい激しい剣戟、いや剣劇が幕を開ける。





「くふふ、そんな貧相な胸でよく男を誘えたね。もしかして、それを忘れさせるほどの床上手?」

「黙れ脂肪塊」

「くふふ、貧乳は皆そう言う」


 クリーヴァーは自分の豊満な胸を強調するように体を動かす。


「貧乳の餓鬼め」

「実際貧相だから言い返せん」


 ブラジョンの棍棒を綺麗に軽く往なしながら観察する。力任せにぶん回す棍棒を見切り、隙を狙う。

 いつの間にか仲間外れにされたパイクはいつの間にか参加していた男と戦っていた。


「くっそ、奇襲は失敗かよ」

「誰だよ」

「名乗っから名乗りな。俺は<注荼半吒迦>ニック」

「騎士団長パイク」

「大物っ!?」


 ニックは興奮して匕首を振り回すが、すべて槍で打ち落とされる。


「え、めっちゃ強くね」


 半強制的に現実に落とされる。


 セイバーは十五年前から悪夢を見ていた。振る舞いの優雅や優美さを教えてくれたケインも新しい女友達としてよく自分をからかっていたトマホークも、一条の光に命を散らした。夢の中で何度も鮮明に蘇り、悪夢に魘され、熱に浮かされた。


 しかし、今日、この時から悪夢を絶たんと細剣を振るう。


 また転生した。と言っても同じ世界で。こんなことは初めてだ。元はただの日本男児であったペルソナは十代の頃に剣に出会った。真剣ではなく竹刀・木刀だったが、死ぬまで剣に打ち込んだ。転生し、勇者となり、真剣を初めて触った。竹刀とも木刀とも違う感触に戸惑ったが、それでも適応した。魔王を倒し、世界を救った後も剣の道を極め、究めた。

 二度目の転生は魔王軍の幹部だった。

 三度目は剣奴として生き、そしてホーリーとして転移した。

 四度目の転生。いつ俺はこの輪廻から解脱できるのか。


 どこか目の前の(自称)羅漢に救いを求めるように戦い、迷い惑い剣を振るう。


 入学者三人のうち、同期二人が未だ行方不明。おそらくはもう死んでいるのだろう。父親を捜すために入った騎士団も今や俺が団長だ。二人のために、二人の分まで頑張らなければならない。セイバーと結婚して、大事なものが増えた。いつでもどこでもどこまでも護らなければならない。

 決意を表すように槍を扱う。


 十五年前の戦争を知り、興奮した。私も貢献がしたい。そんな時、男に襲われたことがあった。押し倒され、服を剥がされ、強姦されそうになった時、私は手元にあった肉切り包丁で男の頭をかち割った。溢れ出る命、絶命の瞬間の顔、声、行動すべてに興奮を覚えた。甘美な勝利。それが興奮の起爆剤。

 興奮を享受したくて肉切り包丁を薙ぐ。


 真面目な青年であるブラジョンは魔王の治める町で生まれ落ちたので、治める魔王に尽くすのは当たり前だと思ってた。今も思っている。だからこそ、キチンと名乗り、キチンと型に則って戦う。

 忠義を尽くすための争いに勝ち、示すために棍棒を振るう。


 ニックは十五年前の闘争に影響を受けた。当時のニックはただ匕首をくるくると手の中で回すだけしかしたことがなかった。そんなニックは家畜を斬ることから始まった。斬って、斬って、斬って辿り着いた場所が、<注荼半吒迦>だった。ニックは妥協しない。常に上を目指している。

 上位陣に入れるように匕首を扱う。





 セイバーはクリーヴァーの胸に一刺しすると、心臓を抉り、その豊満な胸の一つを忌々しそうに睨んで切り落とす。

 ペルソナはブラジョンの棍棒を往なし、地面に押し付けることでめり込ませ、動きを一瞬でも硬直させ、喉を刈る。

 パイクはニックの手首を打ち匕首を落とさせ、焦り拾おうとしたところを、目を突き刺し脳まで掻き回す。ニックの体はびくびくと痙攣させ、動かなくなった。





「フム。では、もうあちら側も戦いの準備はできていると?」

「そう見ていいだろう」

「今度こそ終わらせよう、こんな争い。英雄の必要のない世界を実現しよう」

「あぁ」





「また戦いが始まるの?」

「アベイト、お願い、来てほしい」

「戦わないっていう選択肢はないの?」

「……」

「そう。あの時は私の力が及ばなかったから皆死んだ。私、行くよ。もう誰も死なせない」





「どうしますか、エンチャントレス様」

「行くわ。彼等とは決着をつけなきゃいけないもの」





「お前は行くのか」

「もちろん。トマホークちゃんの仇を討つんだ」

「その手斧はもしかして」

「うん、形見。絶対に決着を」

「……」





「アヂル」

「何度も言ってんだろ。俺は行かねぇよ」

「……」

「あの面々で駄目だったんだぞ。今の新人達が勝っているって思うか?」

「いや」

「だろ? お前もあの切り裂きっ娘と籠っていろよ。もう次の奴等に託した方がいいんだよ」





「行クノ?」

「微妙だな。お前が行きたいなら行くが」

「……私ハ貴方ニ死ンデホシクナイ。ソンナ危険ヲシテホシクナイ」

「じゃあ止めようか」

「デモ、ソレダト、私ノ好キナ貴方ジャナイ」

「難しいことを言うな」





「始まるぞ、始まる。争いが再び。あぁ、楽しみだな」





「後悔して学び、また歩む。二度と過ちを繰り返さぬように」





「この争いは幸せになれるのかな?」

「ハッ、パーム。いいか、幸せのあり方なんて形があってないようなもんだぞ。そいつが幸せと思えば幸せなんだよ」

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