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26.もう長いタイトルをつけるの、疲れちゃったんだよね

 ブローンは天井を仰ぎ見て、フゥと息を吐く。


「あら、お疲れ?」

「セイバーか」


 執務室に入ってきたセイバーは机の上にお茶を置く。


「意外だな。セイバーが結婚するなんて」

「あそこまで熱烈に迫られたら、私だって女よ」

「夫のパイクはどうした?」

「兵の指導をしているわ。張り切りすぎてて怖いけど」

「はは。もうちょっと落ち着いてくれると嬉しいんだけどね」





 最も大きな損害を出した凄惨な争いから、かれこれ十五年が経っていた。ブローンは左腕を失くしたことを機に団長を退き、ダイハードが跡を継いだ。現在はさらにパイクが跡を継いだ。

 引き分け(世間は負けたと思っている)が後を引いており、騎士に成るものが減り、不信感に満ちていた。入ってくる兵士は年々弱くなっている。





「どうだ、パイク。今年入ってきた兵士達は」


 パイクは少し薄汚れた赤色の髪を揺らす。


「駄目だ。十二律すら相手取れない。ただ」

「ただ?」

「一人だけ、俺よりも強いかもしれない奴がいた」

「珍しい。あれから格段に強くなったお前を超える? そいつは誰だ?」

「確か、ぺルソナ? だったかな」





 セイバーは廊下を歩いていると、白髪の少年とすれ違った。


「あら、貴方、どこに行くの?」

「団長の元へ」


 振り向いた少年の切れ長な目が威圧を放っている。どこかであったことがありそうななさそうな。


「用事がないのなら、もう行きますが」

「えぇ、そうね。止めてごめんなさいね、知り合いに似ていたから」

「そうですか」


 深くお辞儀をすると、少年は去っていく。


「何処であったのかしら。……あ、名前聞くの忘れてた」





 トントン、ガチャ。


「失礼します」


 ブローンの執事室に入ってきたのは白髪の少年。


「何の用かな?」


 白髪の少年は黙考を数瞬し、どこか別の場所を見ているような目をする。


「キャニバルは元気か?」


 変化は急激だった。

 未だにブローンとキャニバルの繋がりを知っている者はいないはずだ。知っているのはケインとホーリーくらいで両者ともすでに故人だ。

 ならばなぜ、目の前の少年は知っている?


「混乱するなよ、ブローン。答えは簡単だ」

「簡単?」

「俺の名前はペルソナ。前世はホーリー」

「ハハ」


 ブローンは乾いた笑いを出し、手で額を覆う。


「言うのは簡単だけど、理解するのは難しいよ、それ」

「質問の答えは」

「元気を装っているよ。お前を亡くして、墓作って毎日泣いている」

「ブローンから俺のことは言うなよ」

「なぜ?」

「自分の口から伝えたいことがあるからだ」

「分かったよ」


 ところで、と続ける。


「なんて呼べばいいんだ?」

「……じゃあ、バレたくないし、ペルソナで」

「分かった」


 ペルソナという仮初の体に生き、別個人の仮面をつけた男ホーリーは再び騎士団に、今度は自主的に入団する。





「ブラジョン、クリーヴァー、プラヂャヂー。今年も入ったね、大型新人」

「俺としちゃ、ビトレイアルが何かしてくれそうだと睨んでいる」

「そろそろ、あっち側を攻撃して、侵略できそうだ」

「そうだな。パームの話じゃ、年々弱まってきていて、年長共も引退していっているらしい」

「君も知らないうちに外で鍛えているらしいしね」


 サヴィチが眉を顰める。


「何でそれを」

「パームからね」

「くそ、あの女め。ところで、だ。お前が愛でているその女は誰だ?」

「ペチューニャのこと? 気になんの?」


 ペチューニャと呼ばれた少女は感情の読めない暗赤紫色の眼をサヴィチに向ける。


「気になんのは、いつお前が女を連れ込んでんのかだよ」

「アハハ、魔法魔法」


 分かりやすく話をはぐらかしてきた。

 定検のため、サヴィチは出て行く。


「シュド様~? あの男はどんな男なのです?」


 ペチューニャは甘えた声でシュドに問うが、シュドは困った顔をする。


「ん-、難しいな。理性と本能を使い分けている。その点でいえば、僕よりもはるかに強い、かな」


 その眼差しの意味は羨望。





「いっつもすまんな」

「いい。サヴィチさんが来ると、なぜか人形達が喜ぶから」


 パピティアは悲哀を隠し、繕うような微笑を浮かべる。


「逃げんなよ。道半ばで、勝てるものかさえ知らずして」


 サヴィチはそう言うと返事を聞かず扉を閉める。


「するわけない。討つまで私は人生を歩めない」


 一人薄暗く暗い部屋、心を閉じて小さな未来達とさよならをした。恨みの感情は残り続ける。私を残した貴方は残酷だった。

 終わりのない虚ろな日々、癒えない傷が痛むばかり。自分の存在すら意味を持てなくて、時が過ぎる感覚さえとうの昔に忘れてきた。

 繰り返した無情な日々、幾度経てど恨むばかり。失うものは何もなくて、余計なものはすべて捨てた。十五年前の記憶と痛覚だけは今も消えずに残っている。

 暗闇はいつでも私を抱きしめて絶望を囁く。甘い声で。癒えない疵口は囁きとともに紅の薔薇のように憎しみが宿る心に花が開く。


 煌めいた鈴虫の響く声。

 遠く聞こえた夜の宴。

 星のように瞬いた輝き。

 楽しそうな子供の響く声。

 遠くに聞こえた笛。


 二人を重ねたあの思い出を振り返ることさえ叶わない。思いを夜空に馳せたら火照る頬にその一滴。手元の人形の眼に映る泣き顔。

 貴方がいない夜風は寂しいだけみたい。人形を作っても見せたい人はすでに亡く、隙間だらけの心を他の誰かで埋める?


 新しい人との付き合いより胸に残る記憶に縋ることだけが上手くなってしまった。小さな溜息でさえ零れたら拾われた。遠ざけても無駄だと知って悪戯に悲しみを空へとばら撒けば、貴方はやってきた。嫌な顔など一つ見せずに。愛しい貴方を切に願う、涙を枯らせるほどに。





 トツ、トツと城の中を歩く。御年72の老兵オイスターは先程までシュドと会っていた。

 話の内容は、そろそろまた十五年前のように戦争が始まるかもしれない、ということだ。なので、兵を率いてほしいというお願いされ、了承したのだ。

 今は、どこにどの兵を配置するのかを考えながら城内を歩いている。


「オイスター様、何をされているのですか?」


 声のした方を向く。新人の軍人、確か名前はビトレイアルだったか。


「ただ歩いていただけだ」

「ならば、お時間をいただけませんか? 手合わせをお願いしたいのです」

「……いいだろう」


 オイスターは顔にも口にも出さないが、最近の若者が意欲的で喜んでいる。

 訓練場につき、オイスターが木剣を手渡そうとすると、首を振って拒否された。


「真剣で」

「故は?」

「ずっと疑問でした。なぜオイスター様は剣で鋼を斬ってのけたのか」

「フム?」


 語り始めたことが理由とどう結びついているのか分からず、オイスターは眉根を寄せた。


「一昨年、ようやく辿り着きました。スミスという伝説の鍛冶師が剣を打っていたのですね」


 ビトレイアルは真剣を抜く。


「僕はビトレイアル。いや、プラダー! 貴方を討つためにここまで来た!」

「成る程」


 それ以上は何も言わず、オイスターも剣を抜く。

 人知れず十五年前の戦いの続きが始まる。

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