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23.決戦当日④

「強ェな、お前」

「テメェもな」


 刃すら傷つけることが敵わない肌を持つ両者は互いの拳や蹴りによる攻撃によって血が出ていた。

 グラディエイタは片眼が、サヴィチは呼気が赤くなっていた。両者とも血によるものではない。


 周りの空気を巻き込みながら両者の拳がぶつかる。


「うらぁああああああああああ!」

「おらあああああああああああ!」


 グラディエイタの右拳が折れ、罅が入るが、そのまま押し込み、押し切り、サヴィチの左拳が、左腕が割け、弾ける。


「がぁああああっ!!」

「俺の勝ちだ!」


 サヴィチは痛みに動きが止まる。

 グラディエイタの左拳がサヴィチの右眼窩の内圧を高め、右目が破裂する。さらに右拳が腹に入り、サヴィチは着壁する。グラディエイタの右拳が砕け、血を滴らせながらサヴィチがいる瓦礫を見下ろす。


「俺の勝ちだな」


 その言葉を聞いた瞬間にサヴィチが覚醒する。

 左腕の肘から先を失くした”王”は呼気のみならず左の目が赤く染まる。拳闘士の本能が目覚める。


 地が爆ぜる。


 グラディエイタは身を引き、威力を弱め、サヴィチの全体重を乗せた両足蹴りが左肩が砕ける。

 砕けた右手を軸に着地する。

 サヴィチの姿が見えない。


 上を向くと、右拳が顔面にめり込み、地面が爆発する。

 グラディエイタの頭蓋は破壊され、発声は厳しくなり、目、鼻、耳、口から血が流れ出す。

 力を入れる時、奥歯を噛み締めるものなので、それすら厳しくなったグラディエイタにはすでに戦いができないに等しくなっていた。


 機械仕掛けのように振り向くと、一回転踵落としが迫り、床が抜け崩れた。





 ヴィクターは今までに負けたことが一度もない。

 トラウンスは今までの戦いをすべて、圧倒的な勝利で飾ってきた。

 ただし、トラウンスはその実力で、ヴィクターは屁理屈で勝ってきたのだ。だが、ヴィクターも弱いわけではない。実力はいわば大将ではなく中堅、一流ではなく二流なのだ。


 したがって、二人の戦いはトラウンスの無傷によって、折り返し地点となる。


(強いな)

「おいおい、僕の圧勝か? 立てよ、つまんないだろ?」


 ヴィクターが立ち上がろうとした時、横槍が入る。


 幻獣。


 その姿にヴィクターはすべてを察する。

 少し笑みを浮かべ、嘘の怒りを口にする。


「余計なことしてくれやがって」


 幻獣とヴィクターの両者を難なく相手取り、反撃すらしてのける。


「この幻獣は君のか」


 幻獣による足止めは効果なしと判断すると、レタが飛び出してくる。


「リムボウ、だと?」


 予想外の闖入者にトラウンスは眉を顰める。


 筆が知り、幻獣が現れる。

 切り捨て、レタの頭を掴む。そのまま壁に向かって投げた。


 四手の猶予。

 四手分の隙。


 ヴィクターもそんな隙を見逃す程、阿呆ではない。

 一手目、石を拾う。

 二手目、石を投げる。

 三手目、石を拾う。

 四手目、石を投げる。


 二つの石はどちらもトラウンスに当たっていない。そのことにトラウンスは少なからず、疑問を抱いた。しかし、すぐに頭の片隅に追いやり、目の前に戦いに集中する。

 幾刻か経って。


「石が何をしたかったからの行動かは分からなかったけど、結果としては僕の圧勝だね。君達は僕の勝ちを周りに吹聴してくれよ」



 トラウンスは機嫌よく部屋を出て行く。


「どうして姿を見せた、レタ」

「居テモ立ッテモ居ラレナカッタ。苦シミヲ少シデモ分カチ合イタイノニ、許サレナイ定メ、我々ノ掟。デモ、貴方ヲ助ケタカッタカラ、掟スラ破ッタ。貴方ノ役ニ立チタカッタ。駄目ダッタ?」

「……少し、ここで休んでからいくか」

「分カッタ」





 十二神将最強の男は昂っていた。こんなに力を行使できるなんて。

 宝石のように美しく赤い目を輝かせ、腕を動かす。対する白髪の青年は余裕などない。黒髪の青年の腕は万物を抉り、万物を砕き、万物を死なす。触れれば死。すでに剣が一本砕き散らされている。手だけが脅威ならばまだいい。良くないが、まだいい。しょうがない。問題が、その手を行使する人間の運動神経が抜群に良いのだ。避け、往なすことが精一杯になってしまっていた。


「強ぇ、強ぇな、アンタ。何でそんなに強くて、自由に生きられてねェ。束縛された国で生きている? こっちに来い」

「……何も知らない俺が初めて訪れたのが今の国さ。実際面倒を見てもらったからな。いわば恩返しだ。初めて世話焼かれてたら、そっちにいたかもな」

「……お前、放浪者だったのか」

「そうだよ」

「魔王様の方につかないか? 自由に振る舞えるぞ」


 黒髪の青年の勧誘が続く。なぜここまで熱心に誘うのかは分からない。ただ聞いているとあることに白髪の青年が気付く。


「お前さん、魔王に依存してないか?」

「……」

「口を開けば魔王様。説明の節々に魔王様。お前……」

「黙れ! 見るな。来るな。知るな。渡るな。開くな。寄るな。理解(わか)るな。探るな。その秋は、お前の入っていい領域ではない」


 宝石のように美しく輝いていた赤い目は、瞋恚の炎を滾らせていた。


「ぶっ殺す」


 黒髪の青年は地を蹴り距離を縮め、腕を振るう。

 白髪の青年は腕を避ける際、左腕を掠め、神経ごと抉り取られた。


 次で決める。


 両者が思った時、壁が爆ぜた。


 黒髪の青年は跳んできた石を薙ぐ。黒髪の青年は隙を見せた。

 先程まで白髪の青年がいた場所にはすでにいない。


 上!? いや、いない! ということは!?





 再び、老人と対面する。


「イモータルを倒したのか」

「あぁ」

「君に感謝を述べたか」

「あぁ」

「その兜はイモータルのだな」

「あぁ」

「成る程。有難う、イモータルと戦ってくれて」

「……」

「忘れまじき恩顧を受けた。故に前に、常に前に。忘れまじき使命に生きる。故に強く、もっと強く。我こそ、主の命を衛り、弟子の尊厳を守り、己を護る、真の守り人。<招杜羅>オイスター」

「シヴァルリーが弟子。師に追いつき、追い越すため、日々精進、修行、努力をする、プラダー」

「シヴァルリー、懐かしい名だ」

「……」

「私が殺したと言えば、どうする?」

「っ!」

「必要以上に話したな」


 オイスターは腰に佩いていた刀の柄に手を触れさせる。

 プラダーは衝撃の事実に対して、冷静に対処し、静かに怒りを宿らせる。

 瞬発的にオイスターの手が動き、プラダーは剣を構えた。


 キラリと手元が光り、刀が抜かれた。その事実を察して、防御の態勢に移行するが、交わった鋼と鋼は止まることなく、プラダーの剣が斬られていく。


 ッッッキンッ!


 小さく音が響く。次いで、プラダーの剣先が着地した。

 見えた。オイスターは刀の刃を剣の目視できるギリギリの、少し錆びた部分に入り込み、勢いのままにきった。普通はできない。入り込んでも切れない。


「目を閉じて精神の雑念を振り払い描いた、揺るぎない思いは八つ裂きになどできない。幾手にも築いた礎の如く。君の思いはその程度か?」

「何を!?」


 怒りに踊らされた。気付いた時にはもう遅い。剣が斬られた時点で戦いは厳しいからと、逃げてしまえばよかったのだ。


「遅い」


 刀が滑り、鞘に収まる。

 言い返そうとすると、景気が斜めに上る。



 あぁ、                成る程                              弱                   点                 が                                 見                                                                つ                                             。

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